メディア掲載  エネルギー・環境  2025.09.02

北海道のAIイノベーションは安定安価な電力で実現する

Japan In-depth2025825日)に掲載

エネルギー政策

【まとめ】

  • 電力多消費であるデータセンターや半導体工場の立地が進み、北海道はイノベーションのチャンスを迎えている。
  • 泊原子力発電所の再稼働が進んでいる。石狩湾新港のLNG火力発電所、苫東厚真の石炭火力発電所との3本柱により、北海道で安定かつ安価な電力を供給し、イノベーションを支えることが期待される。
  • 再エネなどによりカーボンニュートラル化も進められているが、これがコスト要因になることが危惧される。


泊発電所の再稼働が進んでいる。3号機は2025730日に、原子力規制委員会が新規制基準に適合するとする審査書を決定し、原子炉設置変更許可が下りた。これにより、目標とする2027年の運転再開に向けて大きく前進した。12号機も規制委の審査合格と安全対策完了後に再稼働すれば、3基合計で207万キロワットの電力供給が見込める。

石狩湾新港のLNG火力発電所も増強の見通しだ。既存の1号機(57万キロワット)に加えて、2号機が2030年度、3号機が2033年度に加わり、合計で171万キロワットになる見込みだ。

苫東厚真石炭火力発電所は、165万キロワットを誇る。長い間、北海道の電力供給の屋台骨を担ってきた。

泊の原子力、石狩湾のLNG火力、苫東厚真の石炭火力の3本柱を合わせると、合計出力は543万キロワットになる見通しだ。北海道のこれまでの最大電力需要569万キロワット(20231月に発生)と比べても、これだけで十分に大きな存在感を示すことが分かる。

さて一方で、北海道ではいま、データセンターや半導体の建設ラッシュになっている。これらはいずれも電力多消費だ。IT、なかんずくAIは、新しい電力多消費産業なのである。

例えば、苫東工業団地内で整備が進んでいるソフトバンクのデータセンターは、先行を含め将来的に30万キロワット級を目指す方針が示されており、さらに100万キロワット規模を見据える構想も報道されている。新千歳空港にほど近い場所に建設されているラピダスの半導体工場は、I期からIV期まで全ての建設が終わり稼働すれば、それだけで60万キロワットの電力需要になると報じられている。

北海道における電力供給に課せられた使命は、安価・安定に大量供給することで、新しい電力需要の伸びに対応し、イノベーションを促進することだ。

お手本が米国にある。米国ペンシルベニア州では、「エネルギー&イノベーションサミット」がカーネギーメロン大学で715日に開催された。

トランプ大統領はじめ複数の閣僚や州関係者、エネルギー・IT分野の経営者らが参加し、天然ガス開発事業やデータセンター建設事業のアナウンスが多数行われた。投資金額は920億ドル(14兆円)に上るとされる。

ペンシルベニアの有する豊富な天然ガス資源と、米国東海岸のワシントンDCなどに近いという立地を活かして、エネルギー開発とITインフラ投資をセットで実施して、電力多消費であるAI産業を中心とした一大イノベーションを起こそうという構想だ。

まさに、北海道がお手本とすべき話である。ぜひ、日本政府の臨席のもとで「北海道サミット」が開催されて、さらなるエネルギーインフラ投資とIT投資のアナウンスが何兆円もなされる光景を見てみたいものだ。

ところで、気になることがある。いま日本政府は「グリーントランスフォメーション(GX)」を推進していて、2050年には日本のCO2排出をゼロにするという「カーボンニュートラル」目標に邁進している。とくに広大な北海道は注目されていて、メガソーラーと洋上風力発電の整備が進んでいる。それを活用するためとして、電力系統用蓄電池の導入拡大や北海道本州間の海底直流送電線の整備も検討されている。苫東厚真火力発電所では、石炭火力発電所からのCO2を減らすためとして、アンモニアへの一部燃料転換や、CO2を排ガスから回収して地中に埋めるというCCS技術の実証・設計にも着手されている。

だが問題は、これらのGX技術は、一般的に言って、いずれも大変にコストが高くつくということである。

いまのところ、これらGXのコスト負担は、地元である北海道よりも、全国で負担する割合が大きい。しかしすでに火力発電の稼働率低下などの形で北海道でもコスト負担は発生しているし、今後、本格的にGX技術を実装するとなると、莫大なコストアップになってしまう可能性があり、懸念されるところだ。

GXのコスト負担については、いま一度、よく見極めるべきだ。安定かつ安価な電力が供給できないようであれば、GXは縮小ないし止めるべきだ。さもないと、データセンターも半導体工場も立地しなくなってしまう。

明治維新以来、北海道ではさまざまな産業への投資が行われてきたが、ここのところ経済はあまり元気がなかった。それがいま、新たな産業振興のチャンスを迎えている。泊、石狩湾、苫東厚真の3本柱を軸に、安定安価な電力を供給することで、それを実現できる。