【まとめ】
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米国エネルギー省から気候作業部会Climate Working Group(CWG)の報告が2025年7月23日に公開された。タイトルは「温室効果ガス排出が米国の気候に与える影響に関する批判的レビュー」である。
報告の要点を簡潔にまとめると、以下のようになる。
近年の「気候変動の科学」の報告書と言えば、国連や各国政府が多くまとめているが、いずれも、「CO2による気候変動が甚大な被害をもたらすので、CO2排出を大幅に削減しなければならない」という「気候危機説」に沿った結論になっていた。新しいCWG報告書はそれと一線を画するものだ。(なお報告書の科学的内容については本稿ではこれ以上踏み込まない。興味のある方は筆者の連載記事を参照されたい)。
このような報告書はどのようにして誕生したか。報告書執筆をCWGに委託した米国トランプ政権のクリス・ライトエネルギー長官は、報告書の序文で、以下のように動機を記している。
メディアの報道は科学を歪曲していることが多い。・・多くの人々は、気候変動に関して、過大評価をしたり、不完全な見方をしている。明晰さとバランスを提供するため、私は、多様な専門家からなる独立したチームに、気候科学の現在の状態を批判的にレビューするよう依頼した。・・特に、それが米国にどう関係するかに焦点を当てている。
このように、エネルギー長官は、明確に、「気候危機説」に対して科学的に挑戦することをCWGに依頼した。
このCWGには5人のメンバーが選出された。クリス・ライトから、直々に電話をして依頼したとのことだ。CWGによる序文には、この報告書の性質をまとめてある。
執筆チームは完全な独立性を保って作業を進めた。・・短いスケジュールと、資料の専門的な性質のため、すべてのテーマを包括的にレビューすることはできなかった。・・代わりに、以下の基準を満たすテーマに焦点を当てた: 学術文献で扱われているテーマ、当グループの任務に関連するテーマ、最近の評価報告書で軽視されているか、または欠落しているテーマ、および当グループの専門分野内にあるテーマ。
つまりここでも、近年の国連や各国政府の報告書の、気候危機説への偏りを正すことに的を絞ったとしている。著者の1人であるジュディス・カレーは自身のブログに“Science is Baaaaack!” つまり「科学、ふっかーつ!」と書いている。彼女を筆頭に、気候危機説に批判的な科学者はじつは数多くいたのだが、これまでは政治的かつ組織的に抑圧されてきた。それが表舞台に躍り出たのである。
さてこのCWG報告は単なる科学的な報告に留まるものではなく、米国のエネルギー行政にとっても重大な意味を持っている。CWG報告が、CO2規制撤廃の科学的根拠とされたからだ。
米国環境保護庁(EPA)は、2009年に「自動車のCO2は公衆の健康・福祉を危険にさらす」と認定した。これは危険性認定(Endangerment Finding, EF)と呼ばれていて、それ以後のCO2規制の根拠になってきた。
これに対して、2025年7月29日、EPAは「危険性認定を撤廃し、併せて、自動車CO2規制を廃止する」という規制緩和を提案した。この提案は、やや先行して公表されたCWG報告を科学的根拠として網羅的に引用している。
EPAのリー・ゼルディン長官は、「オバマ政権時代の危険性認定の撤廃案を発表、米国史上最大の規制緩和を開始」というタイトルのプレスリリースで、以下のように述べている。
1兆ドル以上のCO2規制を正当化するために使用されてきた 2009年の「危険性認定」を撤廃する提案を発表しました。・・この提案が最終決定されれば、バイデンEPAの電気自動車義務化を含む、あらゆるCO2制の廃止により、保守的な経済計算に基づいても、年間540億ドルのコスト削減が見込まれます。
今後の見通しであるが、まずCWG報告へのパブコメは9月2日に締め切られる。気候危機論者からは多くの反発が予想される。パブコメを受けた後は改訂がされることは間違いないが、日程は公表されていない。
もう一方のEPA規制緩和提案へのパブコメ締切は9月15日となっており、その後に最終的な決定がなされる。訴訟大国である米国のことなので、原案に近いものをEPAが決定するならば、ただちに訴訟の嵐が巻き起こると予想されている。科学的根拠として用いられているCWG報告もその対象になるだろう。
科学者の観点からすると、これまでは「気候危機説」への批判は、政治的かつ組織的に無視ないし抑圧され続けてきたが、遂に公の舞台で論争されることになる。もちろん、科学とは本来は観測や実験に基づいてオープンに議論を戦わせながら進めるものだから、これこそは科学の復活である。