メディア掲載  エネルギー・環境  2025.06.27

災害激甚化はフェイクニュース

産経新聞【正論】(2025616日付)に掲載

地球温暖化

今年も大雨の季節がやってきた。洪水などの被害が出るたびに、災害激甚化が起きている、それは地球温暖化のせいである、したがって脱炭素が急務だ、といった報道がある。しかしこれは完全な嘘である。

≪統計のどこにもない≫

災害が頻発化している、激甚化しているという記述は、いまや政府のあらゆる文書に書いてあり、メディアでもよく言われる。しかし統計を見れば嘘だと分かる。台風の数は過去50年変わっていない。瞬間風速33メートル以上の「強い」台風の数は1950年代の方が明らかに多かった。洞爺丸台風が54年、狩野川台風が58年、伊勢湾台風が59年と、次々に恐ろしい台風が上陸した。なぜこのようなことが起きたのかと言えば、自然の変動としか分かっていない。

大雨は1980年以降に頻度が増えた、というデータがよく報道される。だがデータの切り取りに過ぎず、長期的な傾向とは言えないと気象庁も明言している。日本の年間雨量を見ると、80年代に比べて至近の10年間が多いのは確かだが、50年代も同じぐらい多かった。雨量とは大きく自然変動するものである。80年以降の大雨の増加が温暖化と関係のない自然変動であってもおかしくない。

国連の諮問機関である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も、最新の第6次報告書で、災害の激甚化・頻発化を統計的に棄却している。すなわち大雨や台風について、CO2などの排出による人為的な影響のシグナルは、自然変動のノイズに埋もれてしまい、有意に検出されなかった。ひらたくいえば、災害の激甚化・頻発化は、起きていないか、起きているとしても誤差のうちに過ぎない、ということだ。

≪当たらない数値モデル≫

近年では、大きな災害が起きるたびに、その後に「気候変動により雨量が何%増えた」などと推計した論文が発表されるようになった。これは、数値モデルを用いたシミュレーションによって、人類がCO2等を排出した場合(現実)と排出しない場合(仮想)で雨量を比較する、という計算をしているのだが、幾つも問題がある。2点だけ指摘しよう。

1に統計との整合性がない。もしその雨が強くなったと言うなら他の雨はどうなのか? 同様に強くなるならなぜ統計に現れないのか? 第2にシミュレーションに信頼性がない。地球平均の過去の気温上昇だけはおおむね観測を再現しているが、それはモデルをそう調整しているからである。しかしそれ以外の再現性は悪い。例えば海面水温は雨量に影響することが知られているが、IPCCで用いられた数値モデルの大半は過去50年の地球平均の海面水温の上昇は観測値の2倍ほどもあった。これでは雨量もかなり増えてしまう。詳しくは拙著『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)を参照されたい。

地球の気温が上昇すると雨が強くなるメカニズムとしてよく引き合いに出されるのが、1度気温が上がると大気が保持できる水蒸気の量である飽和水蒸気量が7%増加する、という関係である。この関係は科学的事実だけれども、現実の雨量はこれだけで決まるものではない。地球温暖化には、雨量を減らすメカニズムもある。例えば、氷が解ける極域では、太陽光の反射が減るので、熱帯より速いペースで温暖化するが、そうすると、南北の気温差は小さくなる。前線では熱い空気と冷たい空気がぶつかって雨が降るが、南北の気温差が小さくなると活動は弱くなり雨量は少なくなる。どのメカニズムが勝つのかは簡単ではない。決着をつけるのは観測しかない。

≪脱炭素より防災投資を≫

災害の激甚化を止めるために脱炭素が急務だ、という主張ほどナンセンスなものはない。日本は年間10億トンのCO2を排出しており、これを今後25年で直線的にゼロにするのが政府の目標だ。そうすると、削減量は250億トンの半分で125億トンである。IPCCによれば累積で1兆トンのCO2を排出すると0.5度だけ気温が上がると報告されているから、125億トンの削減による気温低下は0.006度に過ぎない。雨量となると、1度の上昇が7%の雨量増加に相当するという仮想的な最大限の見積もりをしても、0.04%減るだけである。つまり1000ミリの大雨が降るとして、その雨量の減少は僅か0.4ミリだ。

いくら太陽光パネルを並べても、大雨への効果はほぼゼロである。むしろ、土砂災害を誘発したり、水害時に感電事故を起こす方がよほど心配になる。

毎年何兆円も脱炭素に投じるのはやめ、本当の防災対策にこそ、必要な予算を投じるべきである。2019年の東日本台風は、かつて東京に大洪水をもたらしたカスリーン台風に匹敵する雨台風だったが、八ッ場ダムなどの整備が辛うじて間に合い、被害を抑えることができた。自然の気まぐれによって、また1950年代のように強力な台風が頻発するようになるかもしれない。十分な備えが必要だ。