メディア掲載  国際交流  2025.06.26

戦後80年、歴史の教訓を正確に

電気新聞【グローバルアイ】(2025624日)に掲載

◆日本論じる海外研究者 対話で相互理解深めて

歴史が繰り返す事はないが、歴史は過去の教訓を示してくれる。国際情勢を今概観すると我々は教訓を正確に学んでいないようだ。

今年は第二次世界大戦終結80周年。先月は欧州戦線終結80周年で、8月には、インド太平洋戦線終結80年だ。そのせいか、歴史の教訓を基に米中大国間競争の行方を探ろうと試みる書籍が数多く出版されている。そうした本の中には海外の研究者が日本について論じている部分がある。このため海外の友人達から質問が数多く届いている。

今回はそうした本のうち、2月発売の二冊の書籍を、読者諸兄姉に紹介したい。

  

最初の一冊は米国シンクタンクの研究者が著した『タイズ・オブ・フォーチュン』(仮訳『時運の満ち引き』)。書名は皇太子時代の昭和天皇が綴った文章の一節、「国力を培養して以て時運に伴わざる可からず」―“時運(タイズ・オブ・フォーチュン)”―から採られた。

著者は、戦前の日本が海外情勢の判断を誤った上、軍部の暴走により「時運に伴わず、国力を喪失した」国運を昭和天皇が背負う事になった経緯を記している。そして6カ国(米独英仏日露)の歴史の教訓を基に、中国の軍事的脅威の強まりを予想し、米国の技術的対抗能力を語っている。

著者は歴史の教訓として5点を挙げた。世界情勢の正確な理解が最も重要である事、危機に陥った国の指導者は(正否にかかわらず)軽挙妄動に似た行動を採る事、衰退する国では国内政治に混乱が生じる事、同盟国の寄与が国際関係において重要である事、そして国防政策には指導者のリーダーシップが重要である事、以上5点だ。

こうして満洲事変から真珠湾攻撃に至るまで、国力を削って軍備に専心した日本の国運が理解出来る。本の中には永野修身海軍元帥等将官の事まで出て来たため、筆者は著者の詳細な文献調査に驚いた次第だ。

  

もう一冊は『大国の興亡』で有名なイェール大学のケネディ教授が編著者となった『海戦計画』(仮訳)だ。同書の一章として、豪州の歴史学者による対米開戦時の永野軍令部総長に関する分析がある。永野元帥がハーバード大学に留学した経験があるためか、海外の友人達から数多くの質問を受けている毎日だ。

かくして筆者は海外の友人達が持つ日本に関する知識に驚いている。約10年前、自分のパソコンのスクリーンセーバーに父親の兄弟が祖父母と共に撮った写真を使っていた。長兄が海軍少尉として任官した時、兵学校生徒だった3人の弟達と撮った写真だ。香港で開催されたハーバード大学関連の会合で、故リチャード・クーパー教授は、その写真を見て質問した。「ジュン、ミッドウェー海戦前の写真なの? 伯父さんが乗艦してたのは赤城か加賀? それとも飛龍か蒼龍?」と。

海外の研究者の日本に関する理解が全て正しい訳ではない。我々の視点からは想像もつかない鋭い分析もある。我々は彼等との対話を通じ相互理解を深め、互いの立場を理解する事が重要なのだ。そうする事で国際的な政治・経済・文化的摩擦を少しでも減らす事ができる。そして今、筆者も歴史の教訓を日本に限らず広くしかも正確に学びたいと考えている。