ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2025.06.13

ワーキング・ペーパー(25-015E)Banking Crises and Central Bank Digital Currency in a Monetary Economy

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論 金融政策

本論文は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入が金融システムの安定性および経済全体の厚生に与える影響を、理論モデルを用いて検討したものである。とりわけ、実体経済の悪化(ファンダメンタルズの低下)により銀行預金の価値が目減りし、預金者がより安全な手段へと資金を移すことで流動性に対する取り付けが自然に発生するメカニズムを描き出している。現実の金融危機で問題視される「デジタル取り付け」のリスクが、CBDCの設計次第で高まることもあれば、逆に緩和されることもあるという点が本研究の核心である。

CBDCには大きく分けて「キャッシュ型」(リテール型ともよばれる)と「デポジット型」(ホールセール型ともよばれる)の二つの設計が存在する。キャッシュ型CBDCはプライバシー保護機能を持ち、現金の完全な代替となりうるが、利子が付くことで現金よりも魅力的な選択肢となりうる。このような設計は、経済に流動性をもたらし厚生を高める一方、預金からCBDCへの急激な資金移動を誘発し、取り付けのリスクを高める。これに対し、デポジット型CBDCはオンライン取引に特化し、現金とは異なる性質を持つため、CBDC・現金・預金の三者が共存する安定した金融環境を構築しやすい。

本研究が示す重要な教訓は、CBDCの導入においては、その設計が金融システム全体に与える波及効果を十分に考慮する必要があるという点である。たとえば、キャッシュ型CBDCには厚生改善と金融不安定化というトレードオフがあり、政策当局には精緻なバランス感覚が求められる。一方、デポジット型CBDCは銀行の資産構成を強化し、取り付けのリスクを大幅に低減することができる。本論文は、CBDCの設計が単なる技術的選択にとどまらず、金融政策の中核に関わる深い戦略的判断であることを理論的に裏付けるものであり、今後のCBDC導入議論において不可欠な視座を提供する。

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ワーキング・ペーパー(25-015E)Banking Crises and Central Bank Digital Currency in a Monetary Economy