メディア掲載  エネルギー・環境  2025.04.18

日本が「トランプ関税」を乗り切る方法は「パリ協定離脱」だ

脱炭素で中国を利するのを止め、日米で化石燃料事業を国際展開せよ

現代ビジネス2025411日)に掲載

エネルギー政策

トランプ関税ショックで世界経済が揺れた。米国は、一律10%の関税に加え、貿易赤字に応じて税率を決めた「相互関税」を上乗せするとして、日本に対しては累積34%とされた。だが世界の金融市場で暴落を招き、相互関税については、慌てて90日延期された。

けれどもこれで話は終わらない。これから日本は、90日の猶予の間に、貿易協定について厳しい交渉をしなければならない。

日本は、農産物の輸入拡大、円高ドル安への誘導などを要請されると報道されている。だがじつは、米国が満足し、かつ日本の国益にも適う切り札が、エネルギー分野にある。

太陽光、風力、EVの推進を止めよ

日本はこのトランプ関税という国難を、むしろ機会と捉え、脱炭素を最優先するという愚かなエネルギー政策を根本的に見直すべきだ。

それが日本の国益に適っており、またアメリカもそれを望むからである。

日本は「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策を推進している。2050年までにCO2排出をゼロにするという政策である。

その目玉は太陽光発電、風力発電、電気自動車だ。だがこのいずれも、中国が世界シェアを圧倒している。太陽光パネルは世界の9割以上を中国が生産している。風力発電設備も半分以上は中国である。

日本がやっていることは、中国からこれら製品を買い、その分、石油や天然ガスなどの消費を減らしている訳だ。

これを改め、米国から石油製品や天然ガスの購入を増やせば、米国にとっての貿易収支改善にもなる。

米国は、中国に対しては相互関税を引き下げず、報復合戦を繰り広げ、累積で145%の関税を課するに至っている。つまり今回の一連のトランプ関税は、中国とのデカップリングに向かっている。

米国は、日本に歩調を揃えることを望むだろう。ならばまずは、太陽光発電、風力発電、電気自動車の推進を止めるところから始めればよい。

日本政府は、官民合わせて今後10年間で150兆円ものGX投資を規制や補助金で促すとしているが、こんなことしても中国を利するだけで、日本経済は痛むばかりだ。トランプ関税を奇貨として、一切止めるべきだ。

世界の天然ガス、石油、石炭事業に投資せよ

トランプ政権は日本からの対米投資拡大も望んでいる。米国は化石燃料も重要鉱物も豊富に埋蔵しているから、日本も積極的にその開発に加わればよい。日本は資源を有しないから、米国に権益を有することは、安定供給・安全保障にとって大いにプラスになる。

エネルギー開発については、アラスカにおける天然ガス開発への参加が言及されてきた。これがどの程度採算が合うものかについては、きちんと検討すべきだろう。だが、より重要なことは、米国のエネルギー開発に日本が参加する機会は、他にいくらでもあるということだ。天然ガスはもちろん、石油製品も石炭も、日本はすでに米国から輸入している。これを今後さらに増やす可能性はあり、これも安定供給・安全保障上のメリットがある。

加えて、単に日本が消費する分だけではなく、これからエネルギー需要が伸びてゆくアジア諸国に米国産のエネルギーを供給する事業も手掛けるべきだ。

そして供給に留まらず、エネルギー利用のための投資も進めるとよい。発電所を建設したり、天然ガスや石炭の受け入れプラントを建設するといったことは日本の得意技である。このような投資を日本が進めることによって、米国のエネルギーもいっそう多く売れるようになる。

以上のような日本の政策転換は、米国が推進している「エネルギードミナンス(優勢)」と歩調を合わせるものだ。エネルギードミナンスとは、米国の豊かなエネルギーを供給することで、まずは米国経済を豊かにすることだが、更には、同盟国や友好国に豊富にエネルギーを供給することで、敵である中国を圧倒する、という内容も含んでいる。これは「掘って、掘って、掘りまくれ」というキャッチフレーズに留まらない、米国の大戦略の一貫なのだ。

パリ協定を離脱し脱炭素を止めよ

これまで述べたようなエネルギー政策の大転換を日本が図るとなると、もちろん、CO2排出量は増えることになる。だが、CO2をゼロにしようという脱炭素政策こそ、トランプ政権がもっとも忌み嫌うものだ。

トランプ大統領は勿論、マルコ・ルビオ国務長官、スコット・ベッセント財務長官、クリス・ライトエネルギー長官などをはじめ、共和党は総意として、バイデン政権が気候変動を最優先することに猛反発をしてきた。そして、エネルギードミナンスこそが米国の国益に適うと考えている。

バイデン政権は2050年にCO2をゼロにするとしていたが、こんな目標は必要も無ければ実現可能性も無い。経済に莫大な負担をかけるのは愚かだ、というのが共通認識だ。

日本も2050年にCO2排出をゼロにするとして、2030年に46%2035年に60%2040年に73%CO2を減らすという中間目標を置いているが、これはバイデン前政権の路線そのものだ。

日本はこの愚かな数値目標を約束したパリ協定を、米国に次いで離脱すべきだ。これにより、日本はエネルギー政策の大規模な転換が可能になる。またパリ協定が禁止してきた海外での化石燃料事業も実施できるようになる。トランプ政権は、日本もようやく「常識革命」に参加した、と好印象を持つだろう。

アメリカは強い日本を望んでいる

米国は、日本に対して防衛費の増額を求めることも必定だ。その一定部分は、米国からの装備品の輸入となって、米国にとっては貿易収支の改善になるだろう。だが話はこれだけに留まらない。

米国は、何よりも、強大化する中国の脅威に対抗するために、アジアの同盟国が強くなければならない、と考えている。日本はその筆頭にあるのだ。

トランプ大統領は、これまで貿易収支についてのみもっぱら発言をしてきたが、政権全体を見れば、あきらかに「強い日本」を望んでいる。

米国の国防総省で軍事戦略を担当するエルブリッジ・コルビー次官は、日本の工業力を活用して防衛装備を生産することが、日米双方にとって有益だと述べている。日本の製造業の衰退を望んでなどいないのだ。

ヴァンス副大統領は、昨年のミュンヘン安全保障会議で、ドイツは再エネ最優先のエネルギー政策が破綻して産業空洞化を招き、防衛装備もロクに造れなくなった、と厳しく批判した。ヴァンスが脱炭素政策によって空洞化する日本の製造業を見たら、同様な批判をするだろう。

トランプ政権内部にはさまざまな意見がある。だが最終目標として米国の国益を追求しており、中国に対抗するために日本を強くする必要があるというのは、共通認識であろう。

愚かにも、日本の脱炭素政策は、中国を利し、日本を弱くし、米国エネルギー産業の事業機会を奪ってきた。日本はこれを止め、米国、そして同盟国・友好国と共に、インド太平洋におけるエネルギードミナンスを確立するよう、舵を切るべきだ。

足下では、日本が今国会で審議している排出量取引制度法案は否決すべきだ。この排出量取引制度こそは、日本のCO2排出量の総量を直接に規制する制度であり、日本の脱炭素政策を固定化する要石となってしまう。

日本は10年で150兆円、つまり毎年のGDP3%もの資金を投じて、太陽光・風力・電気自動車を推進しようとしている。これを直ちに止めるべきだ。そして、天然ガス・石油・石炭事業を、米国、日本、アジアで積極的に展開すべきだ。これにより米国は潤い、日本は強くなる。

これならばトランプ政権も納得するのではないか。