さすがは超大国の米国だ。衰退の兆候が垣間見えるものの、まだ全地球的な影響力を米国は保持している。うらやましいほどだ。
こうした中、「トランプ氏はすごい。歴史を学ぶ事と専門家の意見を注意深く聞く事の重要性を世界に教えている」と思っている。
米国現政権による関税政策の結果は、1930年関税法の歴史を学んでいれば、容易に予想できる。30年関税法は国内経済政策のためであったが、今の関税政策は経済政策というより、むしろ外交手段として採用されている。だが、30年法の時と同様、諸外国は厳しい態度を示している。
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ハーバード大学の故ハンチントン教授は生前「戦争が人々を“国民”に変える」と教えてくれた(歴史学者トライチュケの言葉)。そして今、カナダ国民が米加貿易戦争の下で示す強固な団結心に感心している。また筆者は「米欧間のお酒を巡る貿易戦争で、欧州ワインに対する米国の需要が減退するため、“漁夫の利”を得る我々はワインの値下げを期待できるかも…さぁ、乾杯だ!」と語っている。
これに関して3月9日付『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、複数の専門家の意見をまとめた記事を掲載した。今次関税政策はグローバル・サプライ・チェーンが確立する以前の19世紀的経済認識に基づいているとの専門家達の判断だ。またダートマス大学のアーウィン教授は第二次大戦後の米国の関税政策が明確な目的を定めた短期的な政策だった事を指摘し、同時に今の関税政策は目的が不明確なため、長期にわたり深刻な悪影響が懸念されると語っている。
友人達は「大統領の周囲には優れた専門家がいるはず。なぜ助言をしないのか」と不思議がった。
筆者は「優れた側近は当然いる」と答えた上で、経済学者のハーシュマン教授の本を引用し、次のように語った―「側近が“ヴォイス(進言)”か“イグジット(退出)”か、という選択を迫られた時、多数派は忠誠心があっても保身を図り敢えて進言をしない。他の側近の多くは忠誠心を失って組織を離脱し、部外者として“発言”の機会をうかがう。筆者の共和党系の知人は既に現政権と距離を置いている」、と。
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こうして指導者側の側近に対する“信頼”と側近側の“忠誠心”と“知識の正確性”によって政策の結果は全く異なるのだ。ここで留意すべきは、大抵の場合、専門家達が異なる意見を持つ点だ。政治経済分野に限らず、物理学や天文学でも専門家の間での対立は周知の事実だ。またワクチン接種を巡って、専門家の間で意見が分かれた事は記憶に新しい。
当然の事として指導者も専門家も全知全能ではない。したがって指導者が絶妙のタイミングで政策を素早く実施するための適切な助言を、複数の専門家の意見の中から勇気をもって選択できるか否かが重要な課題となってくる。
歴史が示す通り、全知全能でない人類は試行錯誤を覚悟しなくてはならない。それを理解した上で、専門家の意見の中から優れたものを抽出できる洞察力、そして助言に基づく政策を果敢に実施する胆力、この2つが責任感の強い指導者に必要なのである。
現在の米国を“反面教師”として各国の指導者が平和と繁栄のために勇気を出してくれる事を願う毎日だ。