メディア掲載 エネルギー・環境 2025.03.19
トランプによる大統領令で、気候変動詐欺も、脱炭素による利権も終わりつつある
-杉山大志・島田洋一 対談-
月刊WiLL4月号(2025年2月26日発売)に掲載
杉山 第二次ドナルド・トランプ政権が始動しまして、アメリカでは革命が起きつつあります。
島田 ええ、その影響を受けて、世界も激変し始めている。
杉山 トランプ氏が大統領に就任するや否や、「米国第一」の政策を実現するため、多数の大統領令に署名しました。大統領令は、大統領の重要な政策ツールであり、迅速な政策変更や緊急対応に利用されます。
「アメリカのエネルギー優勢を解き放つ」と題された大統領令があり、トランプ大統領はエネルギー政策を非常に重視している。ホワイトハウスのホームページでは、トランプ政権の優先事項として、エネルギー優勢に加えて、すべてのアメリカ国民の負担を軽減し、国境を守り、強さを通じて平和を回復し、アメリカを再び安全で安心なものにすることに尽力するとしています。
島田 トランプ大統領が矢継ぎ早に〝常識〟への回帰を進めていますね。大統領令とは、あくまで法律の範囲内で、行政各部に対して行政のトップとして指示を発する建前ですが、実際は相当踏み込んでいます。
杉山 今回のエネルギーに関する大統領令の中に、「国家(エネルギー)緊急事態宣言」という興味深いものがあります。大統領が行政命令を出すにしても、既存の州の権限や議会の権限などが邪魔するため、現在エネルギー費用が高くなりすぎていて、生産しなければならないのにうまくいかず、インフラ整備が進まない状態になっています。そこで、この緊急事態宣言によって、大統領による行政の権限を強くできるのです。
島田 これも法律の範囲内での行政命令という建前で、大きな政策転換を図ったものです。
アメリカの原油、天然ガス、化石燃料の生産量は世界トップレベルです。しかし、バイデン政権は、それらの掘削に対して地球環境保護を優先させよと叫び、二酸化炭素を含む温室効果ガスを実質ゼロにしようという「脱炭素原理主義ハラスメント」をかけてきました。トランプ政権発足前の1月6日にも、大西洋や太平洋、メキシコ湾などの海域で石油と天然ガスの新たな掘削を禁止したのです。
杉山 バイデン政権が行った数々の規制は、エネルギー生産や利用に過剰な負担を強いるものです。電気自動車の義務化や、お湯の出にくいシャワーヘッドに替えるなどの政策をとっていた。シャワーが快適にできないと国民からは大変不評だったようですが、こういった細かい規制もなくし、消費者の生活が元に戻ります。
島田 バイデン政権も、法律で認められた天然ガス田の掘削を権限もないのに止めることはできません。そこで、掘削のための資機材を運ぶトラックにディーゼル車を使ってはならないといった搦め手の環境規制で妨害に努めました。ガソリン車のトラックを大量に調達するなど無理でしょう。
杉山 対して、トランプ大統領は、気候変動による「気候危機」について彼らしい表現で「気候変動詐欺」という言い方をしています。そして、安価で安定したエネルギー供給によって、自国および友好国の安全保障と経済発展を支え、中国やロシアなどの敵対国に対する優勢を築く、「エネルギー・ドミナンス」を公約に掲げています。これはもうトランプ第一次政権時から一貫して主張しています。トランプ大統領には、ブレがありません。
島田 ともかく、綺麗ごと抜きに「国を豊かに強く」しようという意志が鮮明です。日本保守党も同じ立場ですが、経済大国を維持するにはエネルギーを溢れるくらい確保するのが基本中の基本です。日本のように、再エネでなんとかギリギリでつないでいくといった発想では持ちません。いつ切れるか分からない細い糸では、実際にはつなぐことすらできない。経済発展を目指すならば、余裕を持ったエネルギー基盤が必要不可欠です。
杉山 1月20日の就任演説で、トランプ大統領は「インフレ危機は、大規模な浪費とエネルギー価格の高騰によって引き起こされた。だからこそ、本日、私は国家的なエネルギー緊急事態を宣言する。Drill, baby ! Drill !(掘って掘って掘りまくれ!) 」と発言しました。
島田 要するに、変な原理主義に毒されずに化石エネルギーを利用し、アメリカの持つ潜在的エネルギーを開放しようとしているのです。今回のエネルギー政策で、トランプ政権はCO2を出しまくるのかと誤解する向きもあるかもしれませんが、第一次トランプ政権時のアメリカは、国連の一機関である国際エネルギー機関の発表数字を見ても、CO2の排出削減量で世界一となっています。
杉山 実際、第一次トランプ政権時は、天然ガスの採掘技術が発達していたため、価格が安くなったことで、石炭で発電していた分を置き換えることができました。さらに、バイデン政権時には、アラスカ州の石油・ガスの掘削と採掘を制限しましたが、これもトランプ大統領のもとで緩和されます。日本も、どんどんアラスカ州から資源を輸入すればいい。
島田 CO2をほとんど大気中に出さない優れた火力発電設備の開発も進んでいます。それらを活用しないのは愚かです。
杉山 風力発電について、海に設置された風車を回して発電する「洋上風力発電」の導入が日本でも推進されていますが、アメリカでは東海岸と西海岸両方に設置されています。しかし、これは景観を損なう上に、コストも非常に高い。実際、連邦政府が土地を貸し出さない限り、この事業は進まないため、トランプ政権は土地の貸し出しを停止するようです。
島田 風力というと、クリーンで綺麗なイメージを思い描く人がいますが、景観を破壊することに加え、風力発電機の羽に鳥がぶつかって死骸が山積したり、海洋生物にストレスが掛かって漁業に悪影響が出たりなどの問題があります。もちろん風が吹かないと発電できない上、風が強すぎると耐性を超える回転で壊れてしまうため、コストが極めて高いわりに、非常に非効率です。
杉山 エネルギーコストが高いと、輸送、暖房、農業、製造業などあらゆるコストを押し上げ、消費者に壊滅的な打撃を与えます。装備や弾薬といった軍事物資生産を担う製造業が衰退することで、国家の安全保障を弱める結果になります。
島田 エネルギーコストが上がると製品の国際競争力が失われ、ガソリン価格とともに物流コスト全般が上がり、全体的な物価上昇にもつながります。製造業の強化には、コストの大きな部分を占めるエネルギー価格を下げねばならない。常識です。
杉山 さらに、トランプ政権は、対外開発援助を90日間停止すると発表しました。対外援助事業とそれを担う官僚機構は、アメリカの利益と一致しておらず、アメリカの価値観にも反していると判断している。
あまり報道されていませんが、G7内では、CO2が排出される化石燃料事業には、投資も融資もしないようにしていました。
島田 トランプ大統領が英断を続けている一方で、日本の大多数のメディアは「トランプ錯乱症候群」に囚われ、どんな手を使っても引きずり下ろそうとする「ニューヨーク・タイムズ」などを受け売りした報道を続けています。
杉山 日本のメディアは、気候変動危機を否定するトランプは変人だと報じますが、そもそもトランプ大統領の公約である「エネルギー・ドミナンス」は共和党の総意です。
島田 共和党全体として、「脱炭素原理主義に迎合していては国が滅びる、テクノロジー開発を通じたエネルギーの効率利用で無理なく環境負荷を減らせば充分」と主張しています。至極真っ当でバランスが取れている。しかし、日本は常識に逆行し、自ら危機を招いています。
杉山 共和党は気候変動について、しっかり研究、分析した上で否定している。気候変動の証拠として、アメリカ議会公聴会でハリケーンのデータを見せる科学者が必ずいて、ハリケーンの発生が急増していると騒ぎ立てます。しかし、グラフ①を見てください。下の折れ線は強いハリケーンの発生数。上の折れ線は世界全体のハリケーンの発生数です。過去四十年ほどずっと横ばいになっている。日本のメディアでも、科学的でないという言い方をするのですが……。
島田 当初、異常気象は温暖化が原因だと言っていました。ところが最近の地球の平均表面温度を見ると、連続して下がった時期もあります。
人間が排出する温室効果ガスによって地球が温暖化しているのが事実であれば、どんどん右肩上がりで温度は上昇するはずですが、そうなっていない。
地球の表面の七割を占める海洋の変化や、宇宙からの影響も含めて地球環境の現状を分析するのが本当の科学です。地球の表面温度が上がったから、原因は地球の中にあり、かつ人間の産業活動が原因だという論は、科学ではなく、単なるイデオロギーです。
杉山 CO2からの影響も多少あるかもしれないが、災害の統計データでは別に何も変化はない。これこそ科学的に明らかなことです。
島田 「地球温暖化」という表現についても、平年と比べて気温が下がっている時期もあるため、「気候変動」という言い方に変えました。「変動」は当然あるが、部分でなく全体を見れば「激甚化」しているとは言えません。
杉山 「ネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」という、温室効果ガスの排出量を全体として差し引きゼロの状態にする「ネットゼロ」のためのESG(環境・社会・ガバナンス)投資や、環境に優しい投資をする銀行の連合がありますが、アメリカの大手銀行はすでにことごとく離脱しました。
ただし、アジア地域、特に日本では、まだこういった活動が進行中で、市場の動向もネットゼロを重視する方向のままです。
島田 アメリカの銀行がネットゼロから手を引き始めたのは、明らかにトランプ大統領当選および上下両院での共和党勝利が影響しています。当初、イーロン・マスク氏とともに政府効率化省(DOGE)を率いるはずでしたが、オハイオ州知事選への出馬に切り替えた、ビベック・ラマスワミ氏も反ESG投資派です。機を見るに敏な世界の投資家は、素早く化石燃料活用を見込んだ方向に転換しているのに、日本だけが取り残されているのは何とも愚かです。
杉山 エネルギーに関してトランプ大統領が行っていることは、日本こそやるべきであるものが多い。
島田 民主党の最左派アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員らが中心となって進めた決議案、「グリーン・ニューディール」は、脱炭素原理主義から経済全体を構造転換させようとするものです。火力発電所を十数年以内にすべて廃止したり、ガソリンを使用する飛行機をやめて鉄道に替えたり、全世帯をオール電化にしたりという目標を立てていました。
2019年3月、全員が反対の立場の共和党が、個々の議員の賛否を明らかにしようではないかと上院で採決に持ち込みました。興味深いことに、決議案を提出した側の民主党議員の約9割が棄権しています。こんな非現実的な案に賛成したという記録が残ると次の選挙で勝てないとの計算が働いたのでしょう。
民主党議員たちは、グリーン・ニューディールという、いかにも響きのいい法案を出したと宣伝して、脱炭素原理主義に迎合したかっただけです。実際にやれば経済が崩壊し、生活も成り立たないことはわかっていた。ところが日本では、額面通り受け取って「世界の潮流だ。真似せねば」と思い込んだマスコミや政治家も少なくありませんでした。アメリカ政治の実態が何も見えていない。
杉山 共和党のマルコ・ルビオ国務長官は、「愚かなグリーン・ニューディール政策の規制をすべて廃止し、石油と天然ガスの生産をするべきだ」と発言しました。
アメリカのエネルギー生産を痛めつけることで、ロシアに力を与えてしまっている。ロシア経済は、ほとんど石油とガス収入のみで支えられており、ロシアと戦うためには、アメリカ国内の資源生産を増やし、ロシアの輸出する資源の価格を下げればいいのです。
また、ルビオ国務長官の国務省ホームページのプロフィール欄には、
「米中関係におけるここ数十年で最大の転換点となる、ウイグル強制労働防止法を作成し、可決した」
と書かれています。
島田 ルビオはキューバ難民の子どもで、全体主義に強い怒りを持っています。
杉山 ええ、だから人権問題に非常に敏感です。そして、ウイグル強制労働防止法のおかげで、アメリカは強制労働で製造された太陽光パネルの輸入を禁止しました。ところが、アメリカの税関ではねられた太陽光パネルを日本は輸入している。
島田 これを私以外の国会議員は全く問題にしない。輸入の継続は、中国の人権侵害に協力することを意味し、中国の軍拡資金にもなる。
ウイグル強制労働防止法案は2021年に、まずアメリカの上院で全会一致、続いて下院でも428対1のほぼ全会一致で通っています。日本の国会議員の意識の低さ、無為無策が際立ちます。
杉山 ルビオ国務長官はほかに、中国製太陽光パネルのアメリカへの輸出の抜け道として、ベトナムを迂回する方法があるため、それを潰すために動いています。しかし、中国からすれば日本こそ最大の抜け道でしょう。こんな日本の状況をルビオ国務長官が知れば、どう思うだろうかと考えれば心苦しいし、日本が変わらなければならない。
島田 まさにそうです。しかし石破茂政権や国会が自ら動くことはないでしょう。アメリカの対日制裁しかないかもしれない。
杉山 画像①は、新疆ウイグル自治区にある大規模な太陽光パネル工場の衛生写真です。新疆ウイグル自治区には、このような太陽光パネルの工場がいくつもある。
工場の隣には石炭火力発電所が建てられ、石炭輸送コンベアの先を見ると、炭鉱が広がっています。炭鉱で発電し、パネルをつくっているのは明確です。太陽光パネルをつくるために大量の電気を使うため、隣に炭鉱があればエネルギーコストは安上がりです。そして、ここで強制労働によってつくられた太陽光パネルを、環境のためにと日本は輸入している。
島田 太陽光パネルの環境負荷については、製造から廃棄までの全過程をとらえて議論しなければならないはずですが、設置された太陽光パネルからCO2や排煙が出ていないなどと、局所だけを見て「環境にやさしい」と手を叩くような極めて幼稚な議論をしています。
杉山 貧しい白人労働者家庭生まれの苦労人である、J・D・ヴァンス副大統領は、ドイツのエネルギー自滅を批判しました。2024年にドイツの安全保障会議に出席した際に、「ロシア軍がウクライナに侵攻しているまさにその時に、ドイツは反工業化の最中である」と発言し、エネルギー政策が問題の元凶だと指摘しました。
ドイツは、原子力も石炭火力発電も廃止し、再生エネルギーに転換したことで、製造業は壊滅的です。このままではウクライナ戦争の傍らで、軍事物資もろくにつくれない。日本もドイツの後追いをしている状況なので、他人事ではありません。
島田 ドイツは原発全廃のせいで、ロシアの天然ガスの輸入に頼るようになりました。そんな中、ウクライナに侵攻したロシアに対する制裁で、輸入自体が不可能になった。そこでフランスの原発から送電してもらっているという、矛盾の塊のようなエネルギー政策をしています。
杉山 さらに、ドイツの産業は工場をどんどん閉鎖し、中国に工場を建てています。フォルクスワーゲンも大規模なリストラを迫られている。
島田 日本は反面教師にしなければなりません。
杉山 国防総省ナンバースリーであり、軍事戦略家のエルブリッジ・コルビー国防次官も日本に対して「中国の軍備拡張に対抗するには、GDP比2%は論外で、3%に増やすべき」「専守防衛を止めて、自衛隊をふつうの軍隊にし、アメリカとの核共有も検討すべき」と警告を発しています。
島田 国防総省ナンバースリーの役割を説明すると、国防総省のナンバーワンである国防長官は、頻繁に議会に呼ばれたり、海外出張を繰り返したりに時間を取られます。ナンバーツーの国防副長官は省内の管理や調整に当たる総務担当重役的なポジションです、政策形成を仕切るのがナンバースリーの政務担当国防次官です。
杉山 さらにコルビー氏は、アジアで中国の領土拡大を防ぐ「拒否戦略」をとり、中国に対抗する「反覇権連合」を結成すべきとしています。アメリカは、アフガニスタンやイラクで失敗を繰り返してきた。もはやアメリカには単独で世界を支配する能力はない。むしろ、「反覇権連合」を形成するべきという。
アメリカについては、産業が空洞化し、船舶の製造量は中国の200分の1と、ロクにつくれなくなっているが、日本はそれを補えると述べている。これは、アメリカ政権の中枢が日本の製造業を敵ではなく味方だと思っているわけで、重要な視点です。
島田 ただし、エネルギーコストで自滅する道を歩むと、日本も造船業を含め、産業が空洞化してしまいます。コルビー氏の協力要請を受け入れられる体制を作らねばならない。
杉山 日本では、第七次エネルギー基本計画が閣議決定される見通しです。原案では、2050年に日本のCO2排出量ゼロを目標とし、2040年には73%削減を目指しています。
過去、日本のCO2は徐々に減少していますが、その原因は産業の空洞化だというのが統計的に分析すれば明らかです。これからCO2を73%まで減らすような政策をしてしまうと、日本の製造業はますます縮小します。
島田 自殺行為ですね。小泉進次郎氏を環境大臣にし、河野太郎氏を重用して、脱炭素原理主義の道に進んだ菅義偉政権の負の遺産は非常に大きい。アメリカとは逆に異常な方向に突き進む日本を、今すぐ軌道修正しなければならないのに、石破政権はなにもできていません。
杉山 かつての経済産業省は脱炭素に反対する抵抗勢力だったのに、今では脱炭素利権の権化のようになっており、日本政府をあげて脱炭素原理主義になってしまいました。
経産省は脱炭素のために、10年で150兆円という「GX(グリーン・トランスフォーメーション)投資」を実現するとした法律を2023年に成立させました。GXとは、化石燃料をできるだけ使わず、再生可能エネルギーなどを活用していくということです。
累積20兆円に上る国債を発行し、その償還のためとして、企業などに「CO2排出権」を政府が売却したり、エネルギーに課徴金を課したりする「カーボンプライシング」を制度化し、外郭団体の「GX推進機構」の特別会計で回すという役人天国ができています。
島田 要は利権ですね。
杉山 ここまで官僚組織ができてしまうと、外国からの圧力(外圧)の力を借りて、政治から変えるしかありません。
島田 脱炭素原理主義に迎合しないと選挙で不利になるんじゃないかと考える日本の政治家が多い。トランプ政権による外圧に期待するしかない状況というのは、あまりに情けない話ですが……。
杉山 先述の第七次エネルギー基本計画の原案では、発電の再エネの割合を現状2割のところを、4割から5割程度に増やすことを目標にしています。再エネの内、水力発電は1割程度なので、太陽光と風力発電を3倍から4倍にするということです。
しかし、最もコストが低いのは既存の発電所を使用することで、その次に原子力の再稼働と火力発電所の新設です。それに比べ、太陽光と風力発電は、倍以上のコストがかかる。太陽光と風力は、たまたま発電したときに、バッテリーに貯めておくのですが、そのバッテリーにもお金がかかってしまうためです。
島田 太陽光発電で、天気が良いときに発電しすぎた分をバッテリーに貯めておけばいいと考える人々がいますが、超大容量で高性能のバッテリーを大量につくって備え付けるなど、現実性はあるのですか。
杉山 バッテリーの費用は話にならないほど高く、設置場所も必要で、現実性は非常に乏しい。もしバッテリーの技術が今より桁違いに発達すれば話は別ですが、現状では難しいでしょう。
2月7日の日米首脳会談で、トランプ大統領は液化天然ガス(LNG)の日本への輸出を増やすと表明しました。エネルギーに関して、さらに包括的にアメリカと協力すればいいのです。そして、エネルギー・ドミナンスを日本もアメリカとともに実現する。アメリカの石油・ガス・石炭・重要鉱物を共同で開発し、長期的な契約を結び、日本に輸送するのもいいでしょう。さらに、アジアの友好国の化石燃料利用への支援もする。
現在、アジア開発銀行などの国際開発機関も火力発電事業の支援を止めてしまっていますが、これを改めさせなければならない。そして、気候危機説も批判的に検証するべきです。
こういった行動で、トランプ大統領が重視する貿易赤字の減少も図ることができる。そして、日米の製造業は発展し、防衛装備もつくれるようになるでしょう。
島田 アメリカは、気候変動抑制に向けた多国間の国際協定と称する「パリ協定」からの離脱を表明しました。第一次トランプ政権時にも、協定から離脱していましたが、バイデン政権が復帰させました。私は日本も離脱すべきだと考えています。
杉山 私も島田先生に賛成です。ただ、大手を振って離脱しなくとも、次の温室効果ガス排出の目標数値を再検討しますと言って、提出しなければ、事実上消えてなくなります。
日本政府は、2月10日の期限までに新たな削減目標を提出する予定でしたが、現在パブリックコメントを精査中で、3月末までに閣議決定して提出するとしています。
島田 パリ協定の問題点は、一つは中国。こういう時だけ中国は途上国だと言って、温室効果ガス排出削減を実行する段階にはないと逃げています。先進国だけが無意味で自滅的な義務を自ら課し、特に日本が突出してしまっている状況です。
もう1つ、開発途上国の気候変動対策に特化するとして設けられた「緑の気候基金」でも、日本を始め、先進国が支援金を拠出し、集まった資金を国際官僚が「公平に」分配する仕組みになっています。イランや北朝鮮などの独裁国家に分配された分は、当然、核ミサイル開発などに流用されます。
トランプ大統領は、国民の税金を使う以上、途上国支援は国益を念頭に、アメリカ政府の判断で選別的に行わなければならないとし、大統領に返り咲いた直後に「緑の気候基金」への拠出を取りやめました。税金の使い道に責任を持つ政府なら、パリ協定からの脱退は当然です。ちなみに、緑の気候基金への支援を終了すべきと日本で主張しているのは日本保守党だけです。
杉山 もう少し輪が広がってくれるといいですがね。
島田 途上国のエネルギー確保を支援するといっても、安全管理のノウハウがない国に原子力発電所を建設するわけにはいかず、再生可能エネルギーは変動電源のためバックアップ電源とセットでなければならない。二重投資になります。だからこそ、日本が開発しているような最新型の石炭火力発電所をプラント輸出するのが最も現実的です。
日本が出さなければ、中国製の質が悪く、CO2を大量に排出する火力発電所が世界に広がるだけです。だから最新型の技術を持った日本のような国が率先して事業に当たるのが、環境保護の面でも世界にとってプラスです。
杉山 アメリカが新しい化石燃料を掘削せず、日本は最新型石炭火力発電の技術を他国に売らないという愚行を続けてきたため、世界は中国やロシアを頼っています。これは非常によくない。
島田 中国共産党を儲けさせ、軍拡資金を潤沢にするだけです。自民党の保守派も、脱炭素原理主義者の反発を恐れてばかりいないで、トランプ氏のガッツを見習うべきでしょう。
杉山 トランプ大統領に限らず、共和党の議員はみなたくましい。パリ協定は毎年年末に茶番のような国連気候会議を行っています。先進国側は、起こる災害はすべてCO2のせいだとして、2050年には先進国の温室効果ガス排出量をゼロにするから、発展途上国もゼロを目指せと主張しました。
すると、これに対して発展途上国の首脳たちは、災害が温室効果ガスを排出した先進国のせいならば、自分たちで責任を取って賠償し、防災のための費用も合わせて年間五兆ドルを途上国に支払えと反駁されてしまったのです。
島田 そういう理屈につながりますね(笑)。墓穴を掘ったわけです。
杉山 その結果、年間3,000億ドルまで値下げしてもらったものの、日本円にして48兆円を2035年まで先進国が毎年支払わなければならなくなりました。
島田 私が「うすら左翼」と呼ぶ、リベラル派の既存エリートが脱炭素原理主義を打ち出し、その結果、倒錯のスパイラルに陥って途上国からますますカモにされています。
杉山 利権に関与している人たちはおこぼれをもらっていいかもしれませんが、国民はどんどん貧しくなっていきますよ。
島田 アメリカはトランプ政権のもと、常識への回帰を急ピッチで進めています。日本のメディアでは、トランプ大統領が一人で突っ走っているように報道されがちですが、違います。トランプ氏の背後には共和党という組織があり、厖大な数の保守層が支えています。そこを見誤ってはいけません。
杉山 今のところ、メキシコ、カナダに対して関税をかけ、圧力をかけていますが、そのうち、その矢は日本にも飛んできます。
島田 日本保守党は、エネルギー問題で鋭く現実的な論陣を張る杉山さんの議論を大いに参考にしています。現在は衆議院で3議席ですが、今後とも、いろいろ教えていただいて理論武装に努め、勢力拡大につなげていこうと思っています。
杉山 日本のために、どうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。