メディア掲載  エネルギー・環境  2025.03.13

米国と「エネルギー優勢」戦略を

産経新聞【正論】(202536日付)に掲載

エネルギー・環境

トランプ米政権は中国の覇権伸長に抗する大戦略の礎に「エネルギー優勢」を据える。他方で日本は203560%減、4073%減(13年比)というCO2削減目標を218日に閣議決定しパリ協定に基づき提出した。相変わらず脱炭素一本槍だが、破綻は必定だ。

≪米国の国益は強い日本≫

エネルギー優勢とは、石油・天然ガス・石炭をはじめあらゆるエネルギーを開発し、豊富で安価な供給で自国と友好国の経済力を強め、潜在的な敵に対して優位に立つことだ。

副大統領のバンス氏は昨年、ミュンヘンにおける安全保障会議で、ドイツのエネルギー転換政策を厳しく批判した。ドイツは石炭火力も原子力も否定し、その一方で風力と太陽光発電を大量導入したが、結果としてエネルギー価格は高騰、製造業は空洞化し、武器の生産もおぼつかなくなった。

米国のエネルギー長官に就任したクリス・ライト氏も、ドイツのエネルギー転換を批判し、米国はその轍は踏まない、と断言した。

両氏ともまだ日本については特段の発言をしていない。だが日本も脱炭素一本槍と知れば、同じことを言うだろう。

国防総省で軍事戦略を担当するコルビー国防次官は著書で、アジアにおける中国に対する反覇権連合の結成を提唱する。日本へは、防衛費の引き上げや米国との核共有等に言及する一方で、製造業への期待も述べる。米国は製造業が衰退した。中国と米国の造船能力の比は2001になってしまった。もはや米単独では防衛装備の増産が間に合わない。そこで日本も協力してほしい、というのだ。

米新政権は反覇権連合の要として強い日本を望んでいる。製造業の強化と、防衛装備の生産を望んでいる。このためには安価なエネルギーが必須だと考えている。

気候危機など存在しないことについては共和党の見解は一致している。CO2濃度が高くなり、気温が100年で1度上がったことは認める。だが災害の激甚化など統計のどこにもない。極端な脱炭素で、経済と安全保障を損なうことこそ国益に反する。

≪「一帯一路」に対抗する≫

資源が豊富な米国は、日本はもとより、世界中の同盟国・友好国に対してエネルギーを供給する能力がある。第1次トランプ政権で駐日大使だったハガティ上院議員は、これは中国の一帯一路に対抗する重要な手段だと位置づける。

だがパリ協定の下、G7諸国はCO2を理由に化石燃料の生産や利用に関する事業への政府の投融資を禁止してきた。禁止は世界銀行などの国際開発機関にも及んだ。

トランプ政権はいま、国際開発機関の活動を、国益の観点から厳しく精査している。やがて、米国および国際開発機関による化石燃料事業への投融資は再開されてゆくだろう。このとき米国と共に日本がなすべきことは多い。まずは日本も化石燃料事業を再開すべきだ。日本は火力発電や液化天然ガス(LNG)プラントなどの技術を有し、アジアで実績も豊富だ。

加えて、米国と共に、アジア開発銀行などの国際機関に働きかけ、化石燃料事業への投融資を再開させるべきだ。日本もアジアの友好諸国も、ここ数年は、脱炭素を金科玉条とし、現実から乖離したエネルギー計画を立ててきた。根本的に見直し、米国のエネルギーも活用した、経済と安全保障に資する計画にすべきだ。

なおルビオ国務長官はウイグル強制労働防止法成立の立役者であり、中国製太陽光パネルの輸入を制限してきた。日本は今もなお中国からの大量輸入を続けるが、ルビオ氏が知ればどう思うか。無論、米国から言われるまでもなく、ただちにやめるべきだ。

≪二枚舌外交は破綻する≫

日米首脳会談で石破茂首相はトランプ大統領にLNGの輸入を約束した。だが本気で日本がCO2を削減するなら、化石燃料の消費は大幅に減らすしかなく、新たに輸入を増やす余地はないはずだ。

まして、これからアラスカ等を開発するとなると、それだけで時間がかかる。生産が始まる頃には日本はますます化石燃料を使わないはずだ。

加えて、石破首相は米国に1兆ドルの投資をするとも言った。日本の企業が投資をすると、米国の安価で豊富な化石燃料供給の恩恵を受けるわけで、もちろんCO2を排出することになる。

つまり、日本はパリ協定では「CO2を減らす」と約束する一方で、米国には「天然ガスを輸入する」「米国に投資する」、つまり「CO2を排出する」と言っている。完全な二枚舌だ。このままでは破綻は必定である。

日本政府はパリ協定の下、脱炭素に邁進する構えを変えていない。だがこのままではドイツの轍を踏み、製造業は壊滅する。これはトランプ政権が最も望んでいない事態である。

自由で開かれたアジア太平洋を守るために、日本はただちに脱炭素をやめ、米国と共にエネルギー優勢を確立すべきだ。