メディア掲載  エネルギー・環境  2025.02.19

トランプ政権の「エネルギードミナンス」確立に日本政府は協力を

日米首脳会談は無事に乗り切ったが、重い宿題を残した石破首相

JBpress2025212日)に掲載

エネルギー・環境

日本政府の方針に大いなる矛盾

石破首相が訪米してトランプ大統領と会談した。その模様はウェブにアップされている(共同記者会見動画①共同記者会見動画②日米首脳共同声明文書)。これ以外に通訳のみを交えた11の会見もあったようだが、わずか30分だったというから、あまり突っ込んだ話はされなかったと見てよかろう。

公開されている共同声明と共同記者会見動画を見ると、米国から日本への液化天然ガスの輸出が何度も強調されていた。

ただ、両者は少し違うことも言っている。トランプ大統領は、天然ガスだけではなく石油もあること、アラスカの石油・ガスを開発すればサウジアラビアに匹敵する生産量になる、といったことにも言及した。

すると石破首相は、石油には特に触れず、天然ガスに加えて、アンモニアとエタノールの輸入がある、と言及した。これに対してトランプ大統領は、エタノールはアイオワ州の農家などが供給できると述べたが、アンモニアについては触れなかった。

両首脳は、記者会見においても共同声明においても、地球温暖化には触れなかった。今回の会見では、米国としては、地球温暖化に関する意見の違いを際立たせることをどうやら控えたようだった。

ということで、今回は何とか乗り切ったように見えたが、これから、石破首相はいったいどうするつもりなのだろうか。なにしろ、日本の掲げる脱炭素という方針と、トランプ政権のエネルギー政策は、まったく方向が逆なのだ。

日本の第7次エネルギー基本計画案は、パブリックコメントが終了し、遠からず閣議決定される。同案では2013年比で2035年にCO260%減、40年には73%減、50年にCO2ゼロという脱炭素目標が書きこまれている。そしてパリ気候協定事務局への数値目標提出の期限はこの2月であり、日本政府は40年に73%減という数値目標を提出しようとしている。

本当に日本がこのような脱炭素の目標を達成するならば、当然、化石燃料の消費量は大幅に減らすことになるわけで、新たに天然ガスや石油の輸入を米国から始める余地などあるはずがない。

まして、アラスカの石油・ガスを開発するとなると、これ自体にも時間がかかるので、開発が進んだころには、日本は大幅なCO2削減を進めており、ほとんど化石燃料を使う余地などないはずだ。

つまり、日本政府がパリ協定の下で言っていることと、トランプ政権に対して言っていることは、完全に矛盾している。

アンモニアやエタノールの輸入に意味があるのか

トランプ政権はパリ気候協定を離脱し、石油もガスも掘りまくり(標語はDrill, Baby, Drillである)、エネルギードミナンス(エネルギー優勢)を確立する、としている。

エネルギードミナンスとは、豊富で安価なエネルギー、なかんずく化石燃料を生産し、自国はもとより同盟国・友好国にも供給する。これにより経済成長を図り、製造業を強化して、防衛力も高める、という政策である。

これは、パリ協定の下で2050CO2ゼロを目指すという日本のエネルギー政策とは、根本的に合わない。バイデン政権の時には、米国も2050CO2ゼロと宣言していたので、日米は同じことを言っていた。

だがいまや、日米で全く違ったことを言っているのだ。

石破首相がアンモニアやエタノールと言ったとき念頭にあったのは、米国において化石燃料からカーボンフリー燃料としてのアンモニアを合成して、それを輸入するとか、米国の農家からトウモロコシ起源のバイオエタノールを買う、といったことであろう。

だがこれらは、いずれもきわめて高価であり、大量に輸入するようなものではない。それに、米国は化石燃料を掘りまくるというのに、わざわざ、なぜそのような高価なものを輸入して、日本だけが一方的にCO2ゼロを目指すのか。

もとより、CO2は日本で出ても米国で出ても地球温暖化の効果は同じである。いったい、何の意味があるというのだろうか。

日本は米国に1兆ドルの投資をする、とも石破首相は会見で述べた。この投資の中には、当然、天然ガスインフラへの投資が含まれるだろう。トランプ大統領は、日米の貿易の不均衡にも言及し、石油・ガスの対日輸出によって、それだけでもバランスがとれるようになるだろう、と述べている。こうなると、日本として、今後、何も化石燃料事業に投資しないわけにはいかない。

日本が米国の化石燃料事業に投資することには安全保障上の重要なメリットがある。

ヴァンス副大統領はドイツのエネルギー政策を批判

日本のエネルギー供給は8割以上が化石燃料であり、そのほとんどは輸入している。なかでも石油については、中東に9割以上を依存している。ペルシャ湾付近では紛争のリスクが絶えず、また中国が台湾周辺を脅かしているいま、米国からのエネルギー供給を得ることは、日本のエネルギー安全保障にとっては望ましいことである。

米国からの輸入であれば、ボトルネックとなる海峡をタンカーが通ることもない。のみならず、米国の貨物を輸送している船であれば、中国であっても手出しをすることには躊躇する。下手をすれば米国との本格的な戦争になってしまうからだ。

この安全保障上のメリットを勘案するならば、日本は、米国での石油・ガス・石炭の開発とその輸入にしっかりとコミットすべきである。ただし、これには、パリ気候協定が邪魔になるので、日本も米国に次いで離脱すべきだ。

パリ気候協定の離脱は、手続き上は何も難しくはない。この2月が期限とされている2040年時点の数値目標の提出を、「検討中」と言って見送ればよいのだ。そのまま提出しなければ、事実上の離脱となる。かつて日本は2010年にそのようにして京都議定書から離脱した。

このままパリ気候協定に留まり続け、脱炭素の数値目標に拘束され続けるならば、エネルギー価格は高騰し、日本の製造業は壊滅する、という事態を招くだろう。これはトランプ政権も望んでいない。

ヴァンス副大統領は、ドイツで開催された安全保障に関する会議で、ドイツのエネルギー政策を批判した。ドイツでは、石炭火力も原子力も否定し、その一方で太陽光と風力を大量導入したが、結果として、エネルギー価格は高騰し、製造業は空洞化してしまった。このため、防衛装備を生産することも覚束なくなってしまっている。

このようなドイツ批判をしたヴァンス副大統領が、脱炭素一本やりのいまの日本のエネルギー政策を見たならば、同じことを言うのは必定であろう。

また、国防総省で軍事戦略を担当するコルビー国防次官は、その著作において、アジアにおいて中国に対する反覇権連合を確立することを提唱し、日本の防衛費のGDP2%からの引き上げや、米国との核共有などについて言及しているが、その一方で、日本の製造業への期待を述べている。

それは、米国では衰退してしまった製造業の力が日本にはまだ残っているので、防衛装備の増産に日本も協力してほしい、ということだ。とくに米国の造船業の衰退はひどく、いまや中国と米国の製造能力比は2001になってしまっている、という。日本には、衰えたとはいっても、まだ造船能力が残っている。

中国の一帯一路への対抗にも重要な手段

今回の日米共同声明では、「自由で開かれたアジア太平洋」を護るための防衛協力を深化することに、もっとも紙幅を割いてあった。これは安倍晋三政権と第一次トランプ政権の蜜月時の大方針を、石破政権も継承した、ということである。

今回の日米首脳会談を、石破首相は何とか友好ムードのうちに切り抜けたが、今後、日本には大きな宿題が残っている。コルビー国防次官が言うように、日本も製造業を強化し、防衛装備を生産し、対中の反覇権連合の要とならねばならない。このためには、ヴァンス副大統領が洞察したように、安価なエネルギー供給が必須である。

日本に対してだけではなく、米国が世界中の同盟国・友好国に対してエネルギーを供給することは、中国の一帯一路に対抗する重要な手段となる。このことは、ハドソン研究所の会議において、第1次トランプ政権のときの駐日大使だったハガティ上院議員が述べた通りだ

だがいま、パリ気候協定の下、G7諸国はいずれもCO2排出を理由として化石燃料の生産や利用に関する事業への投融資を禁止しており、この禁止は世界銀行などの国際機関にも及んでいる。

トランプ政権はいま、国際機関、なかんずく援助機関の活動全般について、国益に資するか否かという観点から、厳しい精査をしている。この結果として、やがて、米国および国際機関による化石燃料事業への投融資は再開されてゆくだろう。この流れにおいて、日本も、米国と共にできることがたくさんある。

日本は東南アジアや南アジアでの化石燃料事業における実績が豊富にあり、経営能力が構築されている。また火力発電所などの化石燃料利用インフラを建設する産業も有している。日本も米国とともに、アジア開発銀行などの国際機関が化石燃料事業への投融資を再開するよう、圧力をかけるべきだ。

日本もアジアの友好諸国も、ここ数年は、脱炭素を大前提として化石燃料使用を控えるという、現実から乖離したエネルギー需要計画を立てていた。だがこれを見直し、米国からのエネルギー供給を活用し、エネルギードミナンスを共に達成することを目的とした、経済成長と安全保障に資する力強いエネルギー需要計画を立てるべきだ。