メディア掲載  エネルギー・環境  2025.01.30

脱・脱炭素時代のエネルギー、日本も大転換を

月刊【正論】20252月号(20241225日発売)に掲載

エネルギー・環境

日本政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)政策と称して、2050年までにCO2排出をゼロにするという「脱炭素」なる目標をエネルギー政策の最優先事項に据え、その法制化を着々と進めてきた。

高価な再生可能エネルギー(再エネ)を大量導入する一方で安価な化石燃料の使用を制限することで、光熱費は上昇し、製造業は空洞化を続けており、日本経済は破綻へ向かっている。

日本が脱炭素に励んできた一因は、バイデン政権を筆頭とした、左傾化したG7諸国からの圧力があったからだ。

だがいま米国ではトランプ政権が誕生し、エネルギー政策は根本から変わる。日本もこれを機に、エネルギー政策を抜本的に見直し正常化すべきである。

物量作戦で〝敵〟を圧倒へ

米国では共和党が上院・下院でも過半数を制して、大統領を合わせて2つの議会も共和党が支配するという「トリプル・レッド」が実現した。バイデン氏が進めてきたグリーン・ディール(米国では脱炭素のことをこう呼ぶ)は、悉く廃されることになる。

トランプ次期大統領はエネルギー政策については、はっきりと公約に書いていた。選挙戦中もそれを繰り返し、一切ブレることなく表明してきた。それは「エネルギー・ドミナンス(優勢)の確立」である。

すなわち、米国が有する石油、天然ガス、石炭などの採掘を進め、豊富で安価なエネルギー供給を実現する。それにより製造業を発展させ、経済成長を実現して、敵(名指しはしていないが、中国など)を圧倒する、というものだ。これは、かつて日本が敗れた先の大戦の時のアメリカの物量作戦の発想そのままだ。

「エネルギー・ドミナンスへと舵を切るべきだ」というのはトランプ氏の独断ではない。共和党の総意である。「愚かなグリーン・ディールを止めるべきだ」とは、20222月にウクライナでの戦争が始まった直後の、マルコ・ルビオ上院議員の米フォックス・ニュースでの発言である。ルビオ氏は2411月にはトランプ大統領から次期国務長官に指名された。

ルビオ氏は、環境規制の強化によって米国の石油・ガス生産を妨害してきたバイデン政権を鋭く批判した。米国が自滅的な政策を採った一方で、ロシアは石油・ガスの輸出で莫大な利益を手に入れ、軍事力も強化した。また輸出を通じて欧州やグローバルサウスに対する政治的な影響力も高めてきた。もしも米国が大量に生産し、世界中に供給することで石油・ガス価格を下げてしまったならば、石油・ガスの輸出以外に外貨獲得源が乏しいロシア経済に対しては大打撃の筈だった。だがバイデン政権はこの真逆をやっていた。

トランプ氏は、115日の大統領選挙に勝って以来、閣僚候補者を次々に指名してきた。その中にあって、エネルギー・環境政策については一貫した方向性がある。石油・ガス・石炭などの化石燃料の開発・利用を妨げる環境規制を撤廃し、経済活動を繁栄させる、というものだ。

すなわち、内務長官に指名されたダグ・バーガム氏は、3番目に大きな石油産出州であるノースダコタ州の現知事であり、同州のバッケン地域におけるシェール石油・シェールガスの開発を主導してきた。バーガム氏が内務長官に就任すれば、バイデン政権下で開発が停止されていた、連邦所有地における石油・ガス開発を推進する権限を持つ。

エネルギー長官に指名されたクリス・ライト氏の現在の役職は、シェール石油・シェールガス開発の大手企業、リバティ・エナジーのCEOである。ライト氏は「気候危機は存在しない」とし、CO2排出ゼロという目標は「達成不可能であるばかりか、人道にも反する」と発言している。

環境保護庁長官に指名されたリー・ゼルディン氏は、長年にわたってグリーン・ディール関連の規制に反対してきた。またニューヨーク州において民主党知事がシェールガス開発を禁止したことに反対してきた。

エネルギー以外の分野を見ても、イーロン・マスク氏が率いる政府効率化省の設立など、経済成長を妨げる環境規制を緩和する方向性がはっきりしている。

トランプ氏は選挙運動中にも「ドリル・ベイビー・ドリル」(掘って、掘って、掘りまくれ)と繰り返し発言してきた。トランプ政権は、気候危機説に惑わされることなく、石油・ガス・石炭を生産し、利用する姿勢が鮮明だ。

日本政府の愚かなCO2目標

これに対して、日本はどうか。石破政権は、菅・岸田政権の路線を継承し、20241031日に開催されたGX実行会議で、年内に第7次エネルギー基本計画を策定するよう指示した。

3年前に第6次エネルギー基本計画が策定されたときは、2030年度までに2013年度比で46%削減といCO2目標が書きこまれた。この数字を当時の小泉環境大臣は「おぼろげに浮かんだ」と説明し失笑を買ったが、実態は2050年にCO2をゼロとして2013年から直線を引いて2030年の数字を読んだだけだ。

同じ論法で、日本政府は2035年度は60%削減、2040年度は73%削減という数字を20241125日の有識者会議で提示した。これを第7次エネルギー基本計画に書きこんで、25210日までにはパリ協定に提出する構えだ。

すでに再エネ賦課金などにより光熱費は高騰している。政府は、日本のCO2が順調に減っていると自慢するが、その最大の理由は産業空洞化である。一体何を喜んでいるのか。このまま突き進めば製造業は消滅し、日本経済は崩壊する。

政府はGXのために今後10年で150兆円を洋上風力発電などに投資するとしている。投資というと聞こえは良いが原資を負担するのは国民である。150兆円といえば国民一人あたり120万円、3人世帯なら360万円である。賃上げなどしても吹き飛んでしまう。だがこれでも46%削減や60%削減などには到底足りない。

政府は150兆円の投資はグリーン成長をもたらすなどと言っている。だがこれまで太陽光発電に莫大な投資をした結果、何が起きたか。太陽光発電はお天気任せであり年間の17%しか発電しないので、火力発電所を減らすことなどできない。雨でも夜でも電気は必要だからだ。根本的に二重投資である。このために光熱費が高騰して、経済は悪化した。政府のGXとは、洋上風力発電の導入などで、過去の失敗を何倍にもして再現するという、およそ最悪の政策である。

米国のエネルギーは今後ますます安くなるのに、日本のエネルギーはますます高くなる。すると企業は米国に工場を建てる一方で、日本からは逃げ出すか、追い出されるか、あるいは潰れるだろう。

そもそも日本でCO2をゼロにすることで、地球の気温はどれだけ下がるのか。国連の諮問機関であるIPCCのまとめでは、累積で1兆トンだけCO2を排出すると気温は約0.5℃上がるとされている。日本のCO2排出量はいま毎年約10億トンであり、これは1兆トンの千分の1なので、日本のCO2排出によって毎年0.5℃の千分の1、つまり0.0005℃だけ気温が上がる。2050年までの累積ではこの25年分になるので気温上昇は0.0125℃である。2050年までに日本のCO2排出を直線的にゼロにするならば、25年間の累積の排出量は底辺が25年、高さが10億トンの直角三角形の面積となり、気温上昇は半分の0.006℃となる。するとCO2をゼロにすることによる気温の低下は差し引きで0.006℃しかない。150兆円を上回る費用を正当化できるとは到底思えない。

毎年5兆円を貢ぐのか

トランプ政権は発足初日の25年1月20日にパリ協定から離脱することがほぼ確実だ。そのパリ協定においては、いまどのような議論が行われているのか。

24年の1124日に国連気候会議(COP29)が閉幕した。そこでは、2035年までに、先進国は途上国への「気候資金」の提供額を年間3000億ドルまで増加させることを約束した。現在の為替レートで48兆円だ。

「気候資金」の内容は、途上国が受ける気候災害についての被害への賠償と、途上国のCO2等の削減のための費用と、③途上国が気候変動によって受ける災害に対する防災能力向上である。

年々この金額は増大してきていて現在、年間約1000億ドルが支払われているから、それを10年間で3倍増にするという訳だ。

さて日本もこの合意をした訳なので、応分の負担を要求される。仮に48兆円の1割なら5兆円近いが、財務省はこのことを知っているのだろうか。また了承するのだろうか。

米国が離脱すると、残るは欧州と日本である。欧州も経済がガタガタだから、どうせ支払わないだろう。日本だけが、愚かにも、毎年何兆円も支払うのだろうか。

ちなみに、これはいくら支払っても、当然の責務だと言われるだけで、誰からも感謝されない。何しろパリ協定の世界では、自然災害は全てCO2のせいで起きていることになっている。バイデン大統領やグテーレス国連事務総長がそう言い続けてきたからだ。

途上国はといえば、3000億ドルでは到底足りないとしている。元々、1兆ドルとか5兆ドルとか要求していたところが(彼らからすると)大バーゲンして3000億ドルになった。そして「これしか資金提供が無いのでは、我々はCO2を減らすことなど出来ない」と主張している。ちなみに「途上国」には中国も含まれる。こんなパリ協定を続けるべきではない。

パリ協定を離脱せよ

日本政府は愚かなCO2目標の設定を止め、またパリ協定への目標の提出は延期すべきだ。そのまま提出しなければ、事実上のパリ協定からの離脱となる。米国に続いて日本も離脱すれば、パリ協定は事実上消滅する。これには前例もある。2010年に日本が数値目標を提出しなかったことで、京都議定書は空文化した。

その後は、安全保障と経済を重視する本来のエネルギー政策に戻ればよい。即ち化石燃料の安定・安価な供給を実現し、コストのかかる再エネ推進を止める。

米国もパリ協定離脱後には新しい枠組みを求めるだろう。それはエネルギー・ドミナンスの国際版であり、友好国が協調してエネルギー供給を強靭化するものになる。日本は勿論参加すればよい。加えて、脱炭素のお説教に飽き、経済成長の為に化石燃料の利用を渇望するグローバルサウスの諸国も喜んで参加するだろう。

同枠組みの下、日本と台湾は米国から石油、ガス、石炭を長期契約で買うと良い。中東有事の際のエネルギー安全保障となる。のみならず、米国の利益が関わることは重要で、台湾有事等の不測の事態に於て、中国と雖も海上封鎖を躊躇うだろう。

またエネルギーの購入は、来たるトランプ政権との貿易交渉で、ディールにおけるカードとしても使える。すでにEUのフォン・デア・ライエン委員長は、米国から天然ガスを買いたいと表明している。さんざん脱炭素と言っている一方での発言なので二枚舌ぶりには驚くばかりだが、このしたたかさは日本も見習った方がよい。

そもそも、世界情勢の緊迫によって、もはや気候変動問題は国際的な議題ですら無くなっている。

ロシアは石油と天然ガスを採掘し輸出することで経済を維持し、軍事費を賄っている。中国もインドもそのロシアから大量に石油を買い、また石炭火力発電所を建設し続けている。

G7諸国は、出来るはずのない2050CO2ゼロという宣言をして、中国・インドをはじめとしたグローバルサウスにそれを押し付けようと躍起だった。だがグローバルサウスはそのお説教に従うつもりは毛頭無い。

G7にとってはるかに優先順位の高い国際問題である対ロシア経済制裁にすらほぼ参加しない彼らが、法外なお金のかかる脱炭素で協調するなど、望むべくもない。

ロシアで10月に開催されたBRICS会合のカザン宣言では、BRICSは自前の決済システムづくりを進め、イスラエルの軍事侵攻を非難するなど、G7との対決色を強めた。そしてこれはあまり報道されていないが、EUが導入を検討する国境炭素税に対して、保護主義的な貿易措置だとして、断固反対している。

全ての国が協調してCO2をゼロにするなど元来、妄想に過ぎなかったが、地政学的緊張でこれがいよいよ明白になった。どの国も安全保障と経済成長の方がよほど重要なのだ。平和ボケの時代は終わった。諸国の首脳が会合するたびに気候変動を話題にするというのは、冷戦後における一時的な流行りにすぎなかった。

いまでもCO2を本気でゼロにしようとしている国などごく僅かだ。その1つのドイツは、風力発電の大量導入など不合理なエネルギー政策の揚句、光熱費は世界で最も高くなり、産業が崩壊している。化学大手BASFは国内16工場のうち11工場を閉鎖する一方で中国に100億ユーロをかけて工場を建設する。自動車大手フォルクスワーゲンはEVが売れずリストラが始まった。そして、更なる脱炭素のための財政拡大に反発した自由民主党が離脱して、遂に連立政権は崩壊し、2月に総選挙が行われる。既に支持率が地に落ちた緑の党は消滅の危機を迎える。

日本もトランプ政権と同様に、愚かな脱炭素を止め、エネルギー政策を、本来そうであったように安全保障と経済成長を重視したものに戻し正常化すべきである。以下、その要点を4つに絞って述べよう。

気候危機説の批判的検証を

政府は環境白書において「自然災害が激甚化している」などとするが、これは統計を見ればフェイクだと分かる。台風は増えてもおらず強くもなっていない。風水害による被害金額は増加しているがこれは経済成長の反映に過ぎず、実際のところGDP当たりの被害金額は減少してきた。数値モデルによるシミュレーションでは不吉な予測があるが、このモデルは過去の再現すらろくに出来ない代物で、予言能力など無い。米国共和党は、議会における専門家の証言によってデータを確認し、気候危機説は嘘だとみな知っている。日本も同様に、国会において、気候危機説を批判的に検証すべきだ。

電気代を数値目標にすべきだ

GX150兆円の投資の対象は洋上風力発電、太陽光発電、その導入のための蓄電池や送電線建設などが含まれているが、いずれも光熱費の高騰につながる。日本の電気代はすでに東日本大震災前(再エネ大量導入開始前)の2010年水準に比べて高騰している。このため政府は光熱費補助をしてきたが、かかる弥縫策に頼らずに、GXを抜本的に見直し、再エネの大量導入を止めるなどの方法で、本質的な光熱費削減を図るべきである。この実現のため、日本政府は、光熱費抑制にコミットし、電気代などの光熱費を2010年水準以下に抑えるという形で、明確な数値目標を設定すべきである。CO2の数値目標などより、こちらの方がよほど重要だ。

中国製太陽光パネルを禁輸に

太陽光発電には、経済性、自然破壊、災害時の安全性などの多くの課題があり、日本が国策として実施してきた大量導入は直ちに停止すべきである。最も深刻なのは人権問題だ。いま世界の太陽光パネルの9割は中国で製造されており、その半分は新疆ウイグル自治区における工程に関係している。米国では、強制労働への関与があるとして輸入禁止措置がすでに取られている。次期の米国国務長官に指名されたマルコ・ルビオ上院議員は対中強硬派で知られており、迂回輸入などの抜け穴を塞ぐことで輸入禁止措置の強化を推進してきた。日本も、今後、米国から同調を求められることは必定である。だがそのような外圧を待つことなく、自ら輸入禁止すべきである。

化石燃料を安定利用しよう

日本のエネルギー供給の柱はいまなお化石燃料である。日本のエネルギー供給のうち、石油・石炭・天然ガスは合計で8割以上を占めている。

したがって化石燃料を安定・安価に調達することこそが、日本のエネルギー政策においてもっとも重要な要件のはずだ。にもかかわらず、政府はCO2を減らすためとして、化石燃料を敵視する政策を実施してきた。このせいで、長期契約の締結による燃料の安定調達は妨げられ、日本企業は、油田・ガス田・炭鉱などの上流事業への参加を見送り、権益を他国に譲渡した。また火力発電設備は、維持のための投資も行われず、廃止が相次いだ。揚げ句、毎年恒例のように節電要請が出されるようになった。もとより日本は高効率な火力発電といった優れた化石燃料技術を有する。政府は石油・石炭・天然ガスを敵視せず安定した利用を実現すべきだ。

もちろん、原子力発電所の利用も欠かせない。もう東日本大震災から14年が経っている。早期に再稼働すれば、電気代は大幅に下がる。技術継承のためには新増設も欠かせない。台湾有事ともなれば、中国によるシーレーンの封鎖が懸念されるが、原子力発電所が稼働していれば、3年間は国内にある燃料だけで発電を継続できる。このメリットも大だ。