年初から波乱の予感がする世界情勢だ。しかも2025年は1年を通じて国際政治に翻弄されそうだ。なぜなら世界の命運を左右する米中両国の政治が大きく揺れ動くからだ。
すぐれた思想家の一人、丸山眞男先生はかつて次のように語った。「我々がいかに政治を嫌い、政治から逃れようとしても政治の方で我々を捉えて離さないのです。イギリスで出たあるパンフレットの中で、『君は政治のことなんか考えないかも知れない。しかし政治の方で君のことを考えるのだ』といっている」と。
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勝利が予想されていたとは言え、米国大統領選でのトランプ氏の圧勝に関し、米国の友人達の反応は、驚きと失望、そして納得だ。
多くの識者が既に論じたが、トランプ氏の勝利は中短期的視点から観た民主党の政策的失敗と共和党による巧みな選挙対策だ。20年大統領選での敗北を喫した直後から、共和党は選挙対策を練り直した。すなわち「ターゲットは中小企業の経営者や労働者」だと。なぜなら20年の大統領選で、機械修理工の79%、中小企業経営者の60%、用務員・守衛の59%がトランプ氏側についていたからだ。翻って大学教授の94%、マーケティング関連の専門家の86%、金融関係者の73%がバイデン氏側を応援していた。
こうして24年の大統領選は都市部に住むエリートが応援する民主党と一般大衆が応援する共和党との対決になったのだ。
昨年ノーベル経済学賞を受賞したアセモグル・MIT教授は、民主党の政策が長期的視点に偏り過ぎたために、中短期的な成果を一般大衆が感じられなかった点を問題視している。
この問題に加え、筆者は民主党側の精彩を欠いた“語り口”を指摘したい。なぜなら政治家は言葉と行動で人々の“心”をつかみ、政策を実現しなくてはならないからだ。バイデン氏もハリス氏も国民の琴線に触れる言葉を見いだせなかったのだ。正式な大統領候補としてハリス氏がABC放送の番組に出演した後、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は彼女を「拙劣な言い逃れをする人(アートレス・ドジャー)」と評した。
一方、20年の敗退後、トランプ氏は“語り口”を巧みに変えた。以前から国民の中に共感と反感を同時に生み出す人だったが、彼は後援者に向けた“語り口”を変えたのだ。これに関し昨年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の教授が全米経済研究所(NBER)から論文を発表している。昨年の選挙戦に向けトランプ氏は今まで以上に人々の“感情”に訴える話法に変えたらしい。彼はエリートを敵視する“伝統的ポピュリスト”口調から、不法移民などの社会的少数派に対する優越感を一般大衆に抱かせる“排他的ポピュリスト”口調へと変えていった。
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かくして24年の選挙は共和党側の感情的な“熱い語り口”と民主党側の迫力を欠いた理性的な“語り口”との中で投票が行われた。難しい質問から逃れようとするハリス氏と政策に関し非理知的だが何にも怯まないトランプ氏。人の心が当然のごとく後者に向かった。
大衆の心に揺らされる米国と対抗心・愛国心に燃える中国。我々は両大国の政治の狭間で冷静に進路を探る必要があるのだ。