論文  外交・安全保障  2024.12.24

紅海におけるフーシ派による日本関係船舶に対する攻撃:「海洋利用を保護する権利」

国際政治・外交

2023年11月19日に、日本郵船が運航するGalaxy Leader号が、紅海でフーシ派の攻撃を受けた。乗員は人質にとられたままであり、現在に至るまで、解放の報はない。紅海と周辺海域での商船等に対するフーシ派の攻撃が繰り返され、紅海情勢の緊張が継続している。

紅海は、国際海運の要となる航路である。いずれの国の権利も及ばない海域「公海」では、国際法・海洋法である、国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea=UNCLOS)が、 すべての国の船舶に、公海の利用の自由の一つである、航行の自由を与えている。このような公海の自由の原則は、UNCLOSという条約だけではなく、国際社会が数世紀をかけて確立させた、慣習国際法にも根拠をもつ。公海以外の、国家の権利が及ぶ海域でも、それぞれ条件に従って、航行の自由や海域利用の権利が認められている。

そうした国際法秩序のもっと主要な原則の一つである、航行の自由が侵害されている。被害船舶の関係国の個別利益だけではなく、国際社会の共通利益への侵害である。それゆえに、紅海等では、米国やEUを中心とする多国籍オペレ―ションが展開している。国連安全保障理事会も、2024年1月10日に決議2722を採択した。米国およびイギリスは、イエメン領域内のフーシ派の拠点への武力による攻撃を開始した。これに対する諸国や学説の評価は、分かれている。

公海の利用の自由や、およそ海洋の利用の自由や権利への侵害は、昨今、他の事項にも及んでいる。日本は、南極海での調査捕鯨船が、シーシェパードの暴力による妨害を受けるという経験をした。現在、その元代表の引き渡しをデンマークに請求中である。また、海底ケーブルや海底パイプラインの故意による損壊も、2022年のNord Stream事件以来、諸外国の深刻な関心事となっている。

このような、海洋の利用に対するときには暴力を伴う妨害に対して、国際法上ではどのような対応があるだろうか。UNCLOSは、海上で取り締まり(執行権)、国内裁判所で裁く権利(裁判権)を、特定国に与えている。それによる法的対処は可能である。しかし、UNCLOSは、海洋の利用に対するあらゆる妨害に対して、これに対処する権利の配分を万全には行っていない。では、UNCLOSによる権利付与がなければ、どうすればよいのか。

合法な海洋の利用に対する妨害を、受忍しなければならない義務はない。それは、明らかに常識に反する。常識に反する法はありえない。そこで、本稿は、UNCLOSでは、法的対処の根拠となる権利が万全に設定されていなくても、このような法的対処の権利を総称して「海洋の利用を保護する権利」と呼び、その理論的な枠組みの構築を試みる。一方で、「保護権」により合法な海洋の利用を保護し、他方で、保護権の濫用により国際紛争を引き起こさない、というバランスを図ることのできる理論的組みを考察する。

本稿の構成は、以下のとおり。

I.序論

II.紅海情勢に対する安保理決議2722と日本および諸国のスタンス

III.「保護権」の理論的枠組み

IV.結語

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紅海におけるフーシ派による日本関係船舶に対する攻撃:「海洋利用を保護する権利」(本文は英語です)