メディア掲載  国際交流  2024.12.23

韓国製防衛装備の存在感が大きい理由

時事深層-POLICY&RULES-防衛産業を国家核心産業に

日経ビジネス(2024129日号)に掲載

安全保障 朝鮮半島
韓国防衛産業が開発・生産する装備は、アジアだけでなく欧州でも大きなプレゼンスを獲得するようになっている。
朝鮮戦争の際、国連軍に存続の危機を救われた韓国は、防衛産業を国家核心戦略産業と位置づける。
軍事技術を民需に循環させる同国の戦略を、キヤノングローバル戦略研究所の伊藤弘太郎氏に聞いた。

(聞き手:森 永輔)


──韓国防衛産業が世界の市場で存在感を高めています。

韓国は今や「西側諸国の武器庫」としての役割を果たしていると言えるでしょう。

中でも、その存在感を見せつけたのは、2022年にポーランドと交わした契約です。K-2戦車980両にK-9自走りゅう弾砲648両、FA-50軽攻撃機48機など、総額25兆ウォン(約26000億円)を受注しました。

韓国にとって史上例のない大規模な契約でした。同年2月、ポーランドの隣国ウクライナにロシアが侵攻。ロシアの軍事的脅威を直接感じることになったポーランドが抑止体制強化を進めたことが背景にあります。


──韓国はなぜ、そして、どのようにして輸出力を高めたのですか。

朝鮮戦争に国連軍が参加したことで、韓国は国家存続の危機を切り抜けることができました。それゆえ、軍事力や防衛装備によって国際社会に「恩を返す」「貢献する」という考えを持つようになったのです。国際社会から受けた恩を忘れることなく、韓国が支援を与える国になるというものです。


保守・進歩問わず注力

輸出力を高めるべく、韓国はオールコリアの協力体制を築きました。重要な役割を果たすのは、当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が06年に設置した防衛事業庁です。防衛産業の育成と輸出を進める司令塔の役割を果たします。防衛装備の国際入札に応札するのは民間企業ですが、防衛事業庁のコーディネートの下、政府や軍が手厚い支援を提供するのです。

例えば、韓国輸出入銀行が購入資金の融資をアレンジする。輸出する装備品の試験運用や、輸出後の教育プログラムに軍が協力する。原子力発電所を供給する際、完成した原発を防護する要員を養成すべく、韓国陸軍特殊作戦司令部の要員を提供したこともありました。

防衛事業庁を中心とする輸出システムを有効活用したのが、盧政権の次の李明博(イ・ミョンバク)政権でした。同大統領は「グローバル・コリア」政策を打ち出し、原子力発電所をはじめとする様々な製品・施設の輸出に力を入れました。トップセールスも積極的に展開。防衛装備の輸出もこの流れに乗せたのです。

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出所:2006~17年までのデータは韓国防衛事業庁『2018年度防衛事業統計年報』216ページ、18年はユン・サンホ「K防産ルネッサンス開け…韓国産名品武器輸出100億ドルが目の前」『東亜日報(韓国語版)』22年3月28日を参照。19~23年はキム・ジェホン「K-放産今年の歴史を書き換える…受注額が最初の200億ドルを突破した『青信号』」『ニューデイリー経済』24年7月3日にそれぞれ掲載されたデータあるいは記事内容を基に伊藤弘太郎氏が作成。24年の予測値は「今年の防衛産業輸出、200億ドル達成は難しい見通し」『アジア経済』24年11月4日を参照


朴槿恵(パク・クネ)政権において形を成した重要案件が次期戦闘機「KF-21」のインドネシアとの共同開発です。

国産戦闘機の開発を目指し、金大中(キム・デジュン)政権(19982003年)の時から技術を蓄積。インドネシアとの関係を築いたのは李政権です。練習航空機や潜水艦、艦艇など、様々な装備を販売し関係を築きました。

技術開発の継続と販路拡大の努力が「KF-21」の共同開発案件として結実したのです。

「国家核心戦略産業」に

──進歩派である金政権と保守派である李政権が積み上げた努力が、朴政権で実ったと。

日本には「韓国の政策は政権交代のたびに大きく変わり一貫性に欠ける」と考えている人が多くいます。けれども、防衛産業政策においては保守・進歩を問わず首尾一貫しています。それまでの政権がつくった実績を生かし、さらに積み上げる努力を続けてきました。

──文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、防衛産業を「国家核心戦略産業」と呼びました。それまでの大統領の考えと異なるものですか。

これは、社会の変化に対応する動きです。文政権(1722年)の頃、第4次産業革命が言われるようになりました。人工知能(AI)やビッグデータ、ドローンなどの新技術が産業と社会を変えるというコンセプトです。これらの技術の開発・応用で先行する国がパワーを獲得することになります。

この時代の変化を捉えて韓国は、防衛技術の民需へのスピンオフを重視するようになりました。防衛力を高めるのに、これらの新技術が欠かせません。さらに、これらの技術は民間でも生かせるデュアルユース(軍民両用)です。防衛装備のために開発・高度化させた技術が民間に波及すれば、民間の産業競争力も高めることができます。

こうした循環の起点となる防衛産業は「国家核心戦略産業」である、というわけです。

ただし課題もあります。最大の課題は部品や素材の国産化です。理由の第1は利益率を上げるため。外国製の部品があれば、その購入費やライセンス料を支払う必要が生じます。第2は輸出の自律性を高めるためです。