コラム 国際交流 2024.12.05
小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。
AI・ロボット技術の急速な発達で、我々の世界観やライフスタイルが大きく変わろうとしている。
米中両国が先導役となりAI・ロボット技術を巡る国際的な競争と協力に関する情報が世界中で駆け巡っている。先月下旬、中国浙江省の烏鎮で中国政府主催のWorld Internet Conference (WIC)が開催され、“Research Report on Global AI Governance”や“Developing Responsible Generative Artificial Intelligence: Research Report and Consensus”が発表された。野心的かつ壮大な中国の計画に今更ながら驚きを隠せない。
他方、米国も10月30日にホワイトハウスが“Executive Order on the Safe, Secure, and Trustworthy Development and Use of Artificial Intelligence”を公表した。AI・ロボットは人類を幸福にも不幸にもする軍民両用技術(dual-use technology (DUT))だ。それ故に技術の開発・活用に関し人類全体で或る程度の共通認識が必要であろう。そう考えれば国際標準化が重要課題である事が理解出来よう。
これに関し国際連合が9月19日に報告書を公表した(“Governing AI for Humanity”)。約100ページに及ぶ報告書にはAIがもたらす機会と危険、そしてガバナンスに関する国際協力の重要性が記されている。報告書には近年AIに関する国際標準化が進んでいる事、また国際標準化には様々なstakeholdersが関与している事が記されている(PDF版の図1、2参照)。
AIにより新しい財・サービスが出現する事は良い事だが、AIによる危険がもたらされる事が気にかかる。報告書はAI関連の危険性を専門家達が評価した結果を記している。危険視すべきは①誤情報・偽情報や成済ましという情報インテグリティの問題、②AI内蔵兵器の出現、③AIが引き起こす格差の問題だ。この様な危険回避のために、上述した標準化が国際的合意として必要だ。筆者が気になる点は、上記の評価を下した専門家達の国別構成だ。米英の後に印加中独が続くが、日本の名前が見当たらない!(PDF版の表と図3参照)。これでは日本の主張や提言が国際標準化に反映されないのでは、と心配している。
繰り返しになるがAI・ロボット技術は軍民両用技術(DUT)で、米中間の開発競争が近年特に激しさを増している。10月24~25日、北京で開催された軍民技術の統一的標準化に関する会合(国防产业项目对接大会暨军民通用标准化大会)が開催された。これに関し、限られた情報を基に友人達と議論を続けている。或る情報に依ると、「軍民融合に関して高い質の発展を促進し、軍民の資源共有を実現し、全面的・多領域・高効率な軍民融合体制を更に推進する事(推动军民融合高质量发展,实现军民资源共享,促进形成全要素,多领域,高效益的军民融合深度发展)」が会合の狙いらしい。今、筆者は「米国の対応は?」を巡り友人達と議論している。
最近、国際標準化を推進する諸団体(Standard Setting/Developing Organizations (SSOs/SDOs))の役割と効果に関心を抱いている。先月13~15日、大阪の国際会議に参加し、18日、東京の国際会議で司会役を果たした。この2つの会議は職場や社会での安全・健康・ウェルビーイングに関し各国の知見の紹介と国際標準化を目指す事を目的とした国際会議であった。東京での会合は近日中にCIGSのwebsiteに概要が公開される予定だ。将来のHuman-Robot Interaction (HRI)に関心を持つ読者諸兄姉から是非とも建設的批判を頂きたいと考えている。
来年に関し唯一確実に言えるのは、Trumpian politico-economic policiesに世界が大きく左右される事だ。
トランプ氏は移民問題に加え①米中関係、②ウクライナ問題、③中東問題、更には④環境政策や貿易政策でどんな“奇策”を講じるのか。トランプ氏の“捲土重来(The return of Trump)”以外、水晶玉を持たない我々には何一つ確実に言えるものが無い(PDF版の2参照)。
先月5日の米大統領選の直前まで、出張先のシンガポールで友人達と意見交換する機会を楽しんだ。日本の自宅でTVを見る時のchannelは大抵BBCだが現地のホテルではFox Newsを見ていた。リベラルな友人達が笑ったが、「Fox Newsは日本の自宅では殆ど見れないし、Harvardで選挙予想は大抵“はずれる”事を学んだからFox Newsを見続ける。これは公正・正義の原則(audi alteram partem; let the other side be heard as well)に基づいている」と反論した次第だ。そしてFox Newsの出演者(例えばガットフェルト氏、ハニティー氏、イングラム氏)の発言の中に、民主党のeliteやmainstream mediaに対する“憎悪(enmity)”をひしひしと感じていた。今年8月、ヴァンス次期副大統領の本(Hillbilly Elegy)を米国の友人の薦めで読んでいたが、同書の中でもeliteに対するenmityを感じ、11月の選挙はそのenmityを反映した結果となった。
Fox Newsが映し出すトランプ氏は米国民の中に共感と反感を同時に生み出す。この時、筆者はリベラル派で海外生活の長いアーリー・ホックシールドUC Berkeley名誉教授の本(Strangers in Their Own Land (邦訳『壁の向こうの住人たち』), 2016)の中の言葉を思い出していた—同書は「(孤立主義的右派が優勢の)米国内で教授自身があたかも異邦人であるかのように感じた」ために、米国内の農工業地帯を現地調査した本だ:
トランプ氏は“感情に訴える候補者”。過去数十年間、彼ほど政策を詳述せず、奮起・賞賛という感情的支持を重視した大統領候補はいない。
彼の演説は人々に優越感や虚勢や断言、そして国民としての誇り、更には彼等の奮起を呼び覚まして心情的変化を生み出す(Trump is an “emotions candidate.” More than any other presidential candidate in decades, Trump focuses on eliciting and praising emotional responses from his fans rather than on detailed policy prescriptions. His speeches—evoking dominance, bravado, clarity, national pride, and personal uplift—inspire an emotional transformation)。
失礼な言い方かも知れないが、バイデン大統領もハリス副大統領も国民を奮い立たせるような演説が出来ず、加えて困窮化した労働者の生活を積極的に改善する政策を早急に講じなかった事は明白だ(例えばPDF版の2、Wall Street Journal紙の記事(Nov. 6)を参照)。
選挙後、(巷間Monday morning quarterbackと呼ばれる)専門家達の詳しい解説が数多く現れたが、筆者は碩学の故本間長世東大名誉教授が、シアトルで昔なさったお話を思い出していた—「この歳になっても、米国には未だ理解出来ない事が多いよ」、と。また民主党が勝利した州—blue statesと呼ばれる東西の海岸地域やAspen Instituteの在るColorado—を見て、或る米国の友人の言葉を思い出していた—「Washington, D.C.やCaliforniaの様子だけを観察する外国人に米国が分かるはずがない」、と。かくして自らの浅薄な知識に恥じ入ると共に、初心に戻って冷静に情報収集するつもりだ。そして今、友人達とトランプ政権に入る新閣僚達の思想・行動の記録について情報交換している毎日だ。
こうした中、先月の21日に今のウクライナの実力では防禦不能の新型ミサイル「オレシュニク(Орешник)」の使用をロシアが公表した。これに対し危機感を感じたNATOは26日に緊急会議を開催した。欧州における緊張感に関し、遠い極東に住む筆者には実感が湧かない。だが、18日にスウェーデン政府が全世帯に配布し始めたパンフレット(「危機や戦争の際に」)の表紙を見て、深刻な状況を幾分か理解した(PDF版の図4参照)。そして「来年America Firstに傾斜する米国はウクライナの命運を欧州に一任するのだろうか」と友人達と議論をしている。