メディア掲載  エネルギー・環境  2024.11.20

BRICS首脳会議を開催 脱炭素至上主義より現実的政策を宣言

エネルギーフォーラム202411月7日発行)に掲載

エネルギー・環境 国際政治・外交

BRICS会合が開催された。

日本貿易振興機構(JETRO)のHPhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2024/10/cfad94d12688624c.htmlで以下のように紹介している。

BRICS102224日、ロシア西部のカザンで第16回首脳会議を開催し、36カ国が参加した。原加盟国の5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)に加え、20241月から枠組みに加わった4カ国〔アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エチオピア、エジプト〕を含む拡大体制となったBRICSとして、初めての首脳会談開催となった。

首脳会議は「公正な世界の発展と安全保障のための多国間主義の強化」をテーマとした。全体会合で採択された共同宣言では、ドルに依存しない自国通貨での新たな決済システムの必要性を確認し、その導入の検討を継続することや、新たに「パートナー国」の制度を創設することが盛り込まれた。パートナー国は加盟国に次ぐ立場にあたる準加盟国に相当し、加盟国との経済協力や会議への参加に対する権利を持つ。パートナー国の創設は、グローバルサウスの結束力を高める狙いがあるとみられる。パートナー国には13カ国(インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシ、トルコ、アルジェリア、ナイジェリア、ウガンダ、ボリビア、キューバ)が候補と複数のメディアで報じられた。„(以上、JETROHPから引用)

あまり大きく報じられていないようだが、インド、中国をはじめ、これだけのグローバルサウスの国々がロシアを訪問し、共同で宣言をまとめたことは、今の世界情勢を認識する上で極めて重要なことである。西側諸国の意図に反して、ロシアは孤立などしておらず、多くの仲間がいる。むしろ、いま孤立気味なのは、欧米の西側先進国、特に米国なのかもしれない。

今回まとめられた共同宣言である「カザン宣言」は一読の価値がある(原文機械翻訳)。

一貫して主張されていることは、「いかなる国であっても、一方的に善悪を決めつけ、多国間主義に反する行動を取ってはならない」、という非難だ。

念頭にあるのは、明らかに、西側の近年の行動である。特に、イスラエルの軍事行動を支持し、支援している結果、周辺諸国において多くの犠牲者が出ていることを強く非難している。
また、これは名指しでは書いていないが、西側によるロシアに対する経済制裁と、それにまつわる二次制裁は、ロシアと貿易をしている多くの国にとって不評を買っている。ロシアはエネルギー、穀物などの物資を輸出してきた。今でもその輸入を継続する国々は多くある。

どの国も、大なり小なり、ジェンダーやマイノリティの人権問題などの火種を抱えている。それが西側によって、ロシアのように制裁対象にされて、西側の金融機関に預けていたドルやユーロ資産を没収されたのではたまらない。それで、西側に依存しないBRICSの決済システムを構築していこう、ということが今回の宣言でも大きなテーマとなった。

「公平性」を重視 CBAMをやり玉に挙げ批判

さて、エネルギー政策についても、パラグラフ80から83にかけて、興味深いことが書いてある。

まず、エネルギー安全保障・エネルギーアクセス・経済成長を重視していること。気候変動対策(トランジション)も必要であるが、「バランスをとるべきだ」、としている(パラ8081)。こうした書き方は、今やすっかり脱炭素至上主義になってしまった西側は絶対にしない。

一方で、「公平」ということに重きを置いている。特に、巨額に上る気候変動対策の実施のためには、先進国から途上国への資金提供が必要だとしている。このあたりは従前からのグローバルサウスの主張そのものだ(パラ82)。

そして、気候変動対策を口実とした懲罰的・差別的な措置には断固反対、としている(パラ83)。特に名指しでやり玉に挙がっているのは、EUが導入を進める炭素国境調整措置(CBAM)だ。これは、温暖化対策をあまり実施していない国からの製品輸入に対して関税を課する、というもの。このような措置はBRICS側から見ると、西側によるロシアへの一方的な経済制裁と類似の構図に映っているようだ。

宣言に書いていないことも注目に値する。印象的なのは、ここ数年西側が固執してきた温暖化抑制の「1.5℃」や「2050CO2ゼロ」といった数値目標が全く言及されていないこと。その一方で、「気候変動枠組み条約とパリ協定の完全な実施を求める」ともしている。元々両者には、個別の国の数値目標達成の義務など書かれていない。国別での50CO2ゼロといった目標は、そもそも国連で合意していないものなのに、それを西側が一方的に押し付けてきている、との認識があるようだ。

なお、国連を重視する姿勢は気候変動問題に限った話ではなく、カザン宣言では一貫している。国連は、常任理事国であるロシアと中国にとってはもちろん居心地がよい。グローバルサウスとしても、数の力によってかなりの発言力がある。BRICSにとっては、西側の一方的な措置に対抗しうる多国間主義に基づく機関、という位置づけになっている。

ウクライナでの戦争によって、ロシアは西側との縁が切れてグローバルサウスに接近した。グローバルサウスも、西側によるイスラエルへのテコ入れや、恣意的な経済制裁を嫌悪しており、これによりBRICSが存在感を増すようになった。

グローバルサウスは、ロシアへの経済制裁に参加するつもりなど毛頭ないことが、今回も改めて示された格好だ。気候変動についても、西側によるお説教に従うつもりなど全く無く、エネルギー安全保障、アクセス、経済成長を重視したエネルギー政策を取ることをはっきりさせた。西側は、自らが主導して世界の脱炭素を達成するという立場を取り続けているが、冷静に現状を見渡せば、これは画餅に帰するのではないだろうか――。