人工知能(AI)を巡り、先月も開発や利用、そして危険性に関して友人達と議論した。
興味深い事にノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン教授も、経済学賞を受賞したダロン・アセモグル教授も、共通してAIの将来に関し悲観的見解を述べている(前者に関しては小誌180号(4月号)を、後者に関しては、例えば小誌前月・今月号や論文(“The Simple Macroeconomics of AI,” Apr. 2024)を参照)。前者は人類存亡の危険(an existential threat)を警告し、後者は現在の熱狂的な“AI bubble”に悲観的だ。経済全体に対するAIの効果も限定的で、間もなくバブル崩壊が到来すると警告している。
AI開発で米国と激しく競い合う中国でも楽観派と悲観派が拮抗している。これに関し英The Economist誌の8月25日付記事が興味深い(“Is Xi Jinping an AI Doomer?”)。同誌に依れば楽観派は科学技術部長の陰和俊博士やAI分野の党顧問を務める朱松純教授。朱教授は毛沢東が推進した核・宇宙開発計画(“両弾一星”)にAI開発計画をなぞらえて積極策を唱える。悲観派の中には友人もいて記事を懐かしく読んだ。筆頭は“コンピュータ部門のノーベル賞”と呼ばれる“チューリング賞”を受賞した清華大学の姚期智教授や百度社長を務めた同僚の張亜勤教授だ。そして同大学公共政策管理学院学術委員会の薛瀾委員長や中国科学院大学の曾毅博士だ。かくして中国はAIの危険性を認識する一方で、米国を念頭にしてAI開発に邁進している。他方、米国のホワイトハウスも10月24日、中国を念頭にして米国におけるAI研究に関する方針を公表している(PDF版の2を参照)。
そして今、Stanford大学のCyber Policy Centerが9月に公表した報告書(“Regulating under Uncertainty: Governance Options for Generative AI”)に関して内外友人達と議論を重ねている(PDF版2のイベントを参照)。
AI開発の専門家でない筆者は楽観派・悲観派のいずれでもない。筆者唯一の願いは国籍に関係なく、科学者や政策担当者、そして企業家が人類の幸福のためにAIの利用方法を提供してくれる事だ。残念な事に、AI分野のみならずR&D全般に関してnegative-sum的な競争が激化している。これに関し9月30日、韓国の『朝鮮日報(조선일보)』紙は、優れた中国人科学者が米国から中国へと帰国する動きを報じた(“미국서 배워 중국으로…(Learned in the US and returned to China)”)。政治により世界が分裂し、このために「ハイデッガー大先生が語る『良心を持とうとする意志』を人類は再び忘れてしまった!!」と筆者は悲しんでいる。
戦火が続くウクライナ、中東、そしてアフリカ。そして東アジアでも緊張感が高まっている。
英BBCや米CNNのニュースを観ると心が暗くなる。罪の無い子供や女性、そして老人が犠牲になっているのだ。筆者は、友人達に対しNew York Times紙の9月の記事に触れつつ、「報復攻撃(tit-for-tat attacks)から中東全面戦争(all-out war)へと危険性が高まっている。残念だが米国の影響力は衰え、そして他の諸国は傍観しているだけ」と語った(“Israel and Hezbollah Threaten to Hit Harder, Raising Fears of All-Out War,” “Why the World’s Biggest Powers Can’t Stop a Middle East War,” September 22 and 29)。
続けて「ハイデッガー大先生は『存在と時間(Sein und Zeit; Being and Time)』の中で『良心を持とうとする意志(das Gewissn-Haben-Wollen; the desire to have a conscience)』について語ったが、人類は今それを忘れてしまった」。また「フロイト先生の全てを信用してはいないが、彼が指摘した人類の“特殊後退能力(eine besondere Fähigkeit zur Rückbildung; a special capacity for involution)”は正しいと思う」と語った。
そして今、de-escalationの重要性を忘れた我々は、台湾と東シナ海(ECS)・南シナ海(SCS)で先鋭化する対立を生んでいるのだ。マスメディアで頻繁に報道されている台湾や東シナ海(ECS)・南シナ海(SCS)を巡る中国と他国との緊張関係から目を離す事が出来ない。これに関し我々は感情に流される事なく、冷静に状況を判断すると共に、米国や台湾、更にはフィリピンや豪州、そして欧州諸国と情報共有をしてゆく必要がある。こうした理由から米海軍大学(NWC)のアイザック・カードン(孔適海)准教授による著書(China’s Law of the Sea: The New Rules of Maritime Order, Mar. 2023)や小誌前号で触れた米海軍作戦部長(CNO)の報告書(“Navigation Plan for America’s Warfighting Navy”)、また中国のthink tank(南海戦略態勢探知計画)による資料(PDF版の2参照)に関し、内外の友人達と意見交換を行っている。
中国による諜報活動や武器の密輸に対する欧米諸国の警戒感が高まっている。
英The Economist誌が9月7日に掲載した記事(“Meet the world’s most elusive arms dealer”)に関して知人が筆者に感想を求めた。これは近刊書に関した記事で、ドイツ人記者が米中大国間競争の間で暗躍する中国の武器密輸業者(Karl Lee、本名李方伟)の正体を調べた記録だ(今年8月末発行の英訳本(The Chinese Phantom: The Hunt for the World’s Most Dangerous Arms Dealer)、尚、原書はDie Jagd auf das Chinesische Phantom, May 2023)。英訳版の新刊書はGoethe-Institutの資金的支援を受けて翻訳されている。「邦訳は?」と思うと同時に大阪のGoethe-Institutが9月に60年の歴史に幕を閉じた事を知った。残念に思うのは筆者だけではあるまい。
諜報活動等に関して素人ではあるが、国際政治の背後で暗躍する中露両国のスパイ活動を伝える海外の報道に注視している(PDF版の2に掲載した米Wall Street Journal紙や独公共放送ZDFによる資料を参照)。複雑な国際関係を考えると、残念な事だが我々はこうした国際政治の“裏側”にまで気を付ける必要に迫られているのだ。
10月8日、英国情報機関(MI5)のトップが演説を行い、英国内に住む中華系の人々を中国政府からの圧力から守る事と、英中両国間の友好関係を維持する事のバランスが難しい事を述べている(PDF版の2参照)。
10月末からシンガポールで国際関係やAI・ロボット分野の専門家達と意見交換を行う予定だ。
小誌前号でAIやdigital transformation (DX)に関しアジアの中心地であるSingaporeと日本の現状について友人達との意見交換した事に触れた。今は世界知的財産権機関(WIPO)の報告書(9月26日公表の“Global Innovation Index 2024”)に関して議論している。報告書は基準を詳細に示し、各国のGlobal Innovation Index (GII)に関して世界ランクキングを算出している。首位のスイスやSingapore(4位)と日本(13位)との比較を行うと、Singaporeの制度設計が優れている事が理解出来る(PDF版の表1, 2参照)。
また現地では、複雑な国際環境がsupply chain networksに与える影響についても議論する予定だ。これに関して9月16日にOECDが公表した報告書が興味深い。報告書は、鉱物製品の輸出制限措置が近年急増している事を記している。特にGlobal South、中でも中国、インド、ベトナムによる輸出制限が際立っている(PDF版の図を参照)。友人達とは、米中関係に加えGlobal Southの国際政治に対する影響力についても議論する予定だ。