メディア掲載  エネルギー・環境  2024.10.17

台湾有事は日本のエネルギー有事 化石燃料インフラの強化が急務

エネルギーフォーラム2024104日発行)に掲載

エネルギー・環境

ウクライナの戦争では、互いのエネルギーインフラが攻撃対象になっている。台湾有事になれば日本も戦争に巻き込まれる可能性が高いが、その時は、日本のエネルギーインフラも攻撃対象になるだろう。どのようなことがありうるか。それを防ぐには、どうすればよいのか――

まずウクライナの戦争の状況を見てみよう。

ウクライナのエネルギー設備はロシアによるミサイル・ドローン攻撃を受けている。IEAの報告書

(https://iea.blob.core.windows.net/assets/cec49dc2-7d04-442f-92aa-54c18e6f51d6/UkrainesEnergySecurityandtheComingWinter.pdfによると、20222月のロシアの侵攻以来、7割の発電能力が奪われた。

image01.jpg


その一方で、ウクライナはロシアのエネルギー設備をドローンによって攻撃している。特に石油精製所が多く狙われ、ロシアのディーゼル燃料製造能力の2割が失われたと言われている。

この様子はSNS(ソーシャル・コミュニケーション・ツール)の動画に多数アップされている。元NHKの石川雅一氏は、これらのオープンソースから動画を収集し、YouTube上の動画チャンネル「石川雅一のシュタインバッハ大学」https://www.youtube.com/@steinbach-universityで公開している。

良心的なジャーナリストらしく、地図情報などと突き合わせて、プロパガンダ目的のフェイクではないことを確かめるなどしており、信頼のおける情報源だ。

動画は多数に上るが、最近の5件のリンクだけ以下に貼っておこう。


どれも動画はショッキングだが、ドローンが体当たりすると、ペイロード(爆弾の量)が小さくても、エネルギー設備は可燃物だらけなので大火災が発生することが分かる。

空中のドローンだけでなく、水上の無人艇も利用されている。ただしこれはまだエネルギー設備ではなく軍事目標に対するものだけのようだ。ウクライナは202210月以降、無人艇によってロシアの艦艇を攻撃し、黒海における海上優勢をロシア黒海艦隊から奪ってしまった。海上自衛隊OBの木村康張氏が詳しくまとめている。

黒海の戦況を変えたウクライナ無人艇の「威力」と「限界」 | 実業之日本フォーラム (j-n.co.jp)

この無人艇による自爆攻撃についても、前述の石川雅一氏が動画を公開している。娯楽用のモーターボートを改造して、通信や制御機能を付けたもののようだ。


日本の設備が攻撃対象になったら政策はどうあるべきか

さて、台湾有事のリスクが高まっている。台湾有事となり、在日米軍がそれに介入すれば、日本国内の米軍基地が中国による攻撃対象になる。そうすると後方支援にあたる日本も戦争に巻き込まれる。そのときエネルギーインフラを狙われたらどうなるか。

ドローンの射程は2000kmを超えるので、日本全土のエネルギーインフラや周辺のタンカーが攻撃対象になる。無人艇も押し寄せてくる。ミサイルやドローンに対する防空やシーレーンの防衛は自衛隊の任務だが、全てを防ぐことは難しいかもしれない。

このような想定を置いたとき、エネルギー政策として講じておくべき対策はなにか?
いくつかあるが化石燃料インフラに絞って述べよう。

まずは備蓄を増やすことだ。いま石油は200日分以上備蓄があるが、攻撃を受けるかもしれない。積み増すべきではないか。

石炭は現状では1カ月分分以下の在庫があるだけだが、戦略的に備蓄することが出来るだろう。まずは火力発電所の敷地内やコールセンターなど既存のインフラを活用して、どこにどれだけ戦略的な備蓄が可能か、調査すべきだ。

それから、火力発電関連設備への投資である。今、脱炭素のためとして、火力発電インフラは縮小の方向にあるが、これは安全保障を考えれば愚かなことである。例え敵の攻撃を受けていくらか損傷しても、なお電力供給を続けることが出来るように、平時から万全な設備投資をしておくべきだ。

戦争になって中国に破壊される以前に、日本政府が自らの政策によって火力発電インフラを壊してしまっているというのが現状だが、この方針は転換せねばならない。

エネルギー供給、なかんずく、その8割以上を占める化石燃料は、日本の脆弱なアキレス腱であり、また日本の大動脈であり生命線である。その確保こそ、エネルギー政策の最重要課題のはずだ。

いざ戦争になれば、エネルギー事業関係者の命は真っ先に危険にさらされる。そのような事態は絶対に避けたい。

戦争を避けるためには、抑止するしかない。「エネルギーインフラを攻撃すれば日本が簡単に屈服する」と中国に思わせてはいけない。「日本は何年でも持ちこたえるので、泥沼化する、簡単には勝てない、国際的な孤立が長引き自国経済に甚大な被害が生じ、共産党政権が転覆する」と思わせておかなければいけない。そうすれば日本に手を出すことはできない。