メディア掲載  エネルギー・環境  2024.10.10

再エネ最優先、脱炭素という亡国

飛鳥新社 『月刊Hanada202411月号(2024926日発行)に掲載

エネルギー・環境

2兆7千億円の莫大な負担

毎年、GDP3%もの大金が投じられる。だが、その多くは中国に流れる。日本では電気代が高騰する一方で、停電が頻発する。国立公園の森林や湿地が自然破壊される。「再エネ最優先」とはかかる愚かな政策である。菅・岸田政権の負の遺産であり、新政権は抜本的に見直すべきだ。

菅政権が2050CO2ゼロを宣言し、岸田政権がその法制化を進めたことで、わが国のエネルギー政策では「グリーントランスフォーメーション」(GX)、つまり「脱炭素」が至上命題となり、経済と安全保障が軽視されている。

太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーの費用は莫大だ。しかも、日本政府はこれをさらに何倍にもする構えなのだ。

再エネ賦課金についてはよく知られるようになった。これは太陽光発電などを導入する補助のための原資として、電気代に上乗せされて徴収されてきた。年々増額し、今年は世帯当たりで年額17千円になると政府は発表した。

だが、これは氷山の一角に過ぎない。17千円というのは、電気代に上乗せされて家庭が支払う金額だ。だがそれ以外に、企業が支払う金額はもっと大きい。

再エネ賦課金の総額は27千億円であり、1人あたりなら22千円、標準的な3人世帯なら65千円にもなる。

この大半は企業が負担する。企業が負担するといっても、その分、給料が減ったり、物価が上がったりして、結局、最終的には家庭が負担することになる。

しかも、世界の太陽光発電パネルの9割は中国製であり、風力発電の半分以上も中国製である。「再エネ最優先」は日本を害し、中国を利するだけだ。

知られざる巨額な無駄遣い

政府の「グリーントランスフォーメーション」計画によれば、この再エネの負担はますます膨らむ。

北海道では風力発電を2千基以上も建設する。強い風が吹くと一斉に発電し電気が余るので、3兆円を投じて北海道から新潟と福島までの海底送電線を建設するという。これだけでも仰け反るが、これも氷山の一角に過ぎない。

政府は脱炭素のために、今後10年間で150兆円の投資を官民で実現するとしている。投資といえば聞こえはよいが、その原資は国民が負担する。これは毎年のGDP(国内総生産)の3%であり、3人世帯ならば累積で360万円にもなる。賃上げなど吹き飛んでしまう。

GDP3%もの巨額な無駄遣いが、ほとんど国民に知らされることなく、岸田政権の下で2023年の5月に法制化されてしまった。防衛費を2%にするためには随分と論争になったが、その舞台裏では、このようなことが進行していたのだ。

しかも、脱炭素は日本の防災にはまったく役立たない。国連のモデルを信じたとしても、日本が2050年にCO2をゼロにしたときの地球の気温の低下は、せいぜい0.006℃しかないからだ。

最も強力な脱炭素利権

再エネを増やす一方で、石炭や天然ガスを燃料とする火力発電所はCO2を出すからと言って目の敵にされ、規制や税が強化されている。このため、火力発電所への投資は見送られ、補修もされることなく、次々と閉鎖されている。挙句、「節電要請」が毎年恒例の行事になってしまった。

太陽光発電や風力発電をいくら増やしてもお天気任せなので、本当に必要なときに発電してくれるとは限らず、電気が足りなくなる。

再エネは日本の防衛も危うくしている。河野太郎防衛大臣のときに、自衛隊の施設は100%再エネを目指すこととされ、いまではすでに多くの施設が再エネ電力を購入するようになった。

なぜこんな無駄遣いをするのかも疑問だが、電気事業者のなかには近年に設立された企業もあり、中国系の企業がどのぐらいあるのかも分からない。

これら中国系企業は電力消費量を監視することで、自衛隊の活動状態を把握できてしまう。のみならず、有事においては、本国の命令があれば電力供給網を遮断・攪乱するかもしれない。

なぜ日本政府は、このような自らを滅ぼすような政策ばかり実施しているのか。

官僚は、時の政治権力にめっぽう弱くなった。昇進するか、左遷されるか、彼らにとっての生殺与奪の権を握られているからだ。それで、かつては「脱炭素」という経済自滅的な政策には抵抗していた経産省が、すっかり宗旨変えした。

いまでは経産省こそが巨大な予算と権限を持った最も強力な脱炭素利権と化し、先頭に立って日本経済を破壊している。彼らはもはや、内から自らを変える能力はない。政治が変わるしかない。

左翼リベラル化した一部自民党が主導する政権こそが、脱炭素推進の本丸であった。日本の国益を損ない、中国を利するだけの愚かなエネルギー政策を止め、それに代えて、日本の安全保障と国民経済を第一に考えるべきである。

政治が変われば、経産省の幹部人事も刷新できる。経産省が脱炭素利権にまみれてしまったのは、ここ数年のことに過ぎない。まだ以前のことをよく覚えており、現状に違和感を覚えている優秀な官僚はたくさんいる。政治的な路線転換さえすれば、彼らは日本国民のためによい仕事をしてくれるはずだ。

実現可能な電気代値下げ

政府はいま、年度内を目途として第七次エネルギー基本計画を策定中である。だがこれまでのところは、脱炭素を最重要事項に掲げ、CO2削減目標を203046%から204060%超に深掘するというような議論が行われてきた。これでは電気代は暴騰し、産業は空洞化し、日本経済は破滅する。強大化する中国に抵抗する気力も失せるだろう。

この状況を憂えた筆者ら17人は、177ページに及ぶ「非政府エネルギー基本計画」(https://www.7ene.jp/)を政策提言した。そこでは、CO2目標を廃して、それに代わる数値目標として、電気代を2010年水準(キロワットアワー当たり産業用14円、家庭用21円)に戻すという提案をしている。

もちろん、これは光熱費補助金などで実現しても意味がない。本質的に電気代を下げるべきで、これは原子力の活用と再エネ大量導入の廃止で十分に実現可能だ。新政権は、電気代を下げることに明確にコミットすべきだ。