我が国のエネルギー政策は、菅義偉政権が2050年CO2ゼロを宣言、岸田文雄政権がその法制化を進めたことで脱炭素が最重要課題となり、安全保障と経済が無視されている。これは日本の平和と自由を危うくする。自民党総裁選がスタートしたが、新政権誕生を機に抜本的な見直しが必要だ。
中国が台湾を海上封鎖する、あるいは軍事的な攻撃をするとどうなるか。米軍が介入しない限り台湾は敗れる。介入すると、日本の基地が利用され、それは中国の攻撃対象になる。台湾有事は日本有事と呼ばれる所以である。中国はまずは日本を威嚇する。それでも戦端が開かれると、日本のアキレス腱であるエネルギーを狙う。
近年の戦争で、エネルギーは攻撃対象になっている。ミサイルとドローンでロシアはウクライナの発電所の多くを破壊した。欧州の輸送船は紅海でイエメンの反政府勢力フーシ派に攻撃され、遠く喜望峰への迂回を強いられている。
ロシアが使用するイラン製ドローンは射程が2千キロを超える。つまり中国沿岸から日本全土が射程に入る。有事には日本のエネルギーインフラも、入港するタンカーも攻撃対象になる。
だが日本の備えは貧弱だ。合計で発電の7割を占める石炭と天然ガスの国内在庫は石炭が1カ月分、天然ガスが半月分しかない。石油は官民合わせ200日以上の備蓄があるが、攻撃に対する備えは乏しい。タンカーをドローンで威嚇され海上封鎖されれば、日本は3カ月も持たずにエネルギーが底を突き屈服するのではないか。
中国としては台湾統一を短期間で済ますことが重要になる。それを世界に既成事実として認めさせ、早々に国際社会に復帰することを目論む。長期化すれば中国経済への打撃は甚大になり、国内不安が増大する。
だからこそ日本としては短期間で屈服しない備えが必要だ。エネルギーはその要だ。防衛力の強化に加え、平時からエネルギーインフラに万全の投資をする。燃料は十分に備蓄した上で、米国からのガス購入の長期契約等、有事でも調達が安定する仕掛けが必要だ。
いまなお化石燃料は日本の最大のエネルギー源であり全体の8割を超える。今後数年で大きく変わることなどない。この安定調達こそがエネルギー政策の最重要課題である。だがいま政府は脱炭素を強行し、化石燃料への規制や税を強化する一方だ。
このため化石燃料利用の上流では、事業者は資源の開発を行わず、また権益を海外に譲渡している。安定調達に必要な長期契約も締結しない。下流では、火力発電所の維持に必要な補修をせず、閉鎖が相次ぐ。このため毎年のように節電要請が出る始末だ。
エネルギーについては経済性も重要だ。安価で安定したエネルギーは製造業に必須である。それが経済成長を生み、防衛力の基盤ともなる。
このためには、原子力の再稼働はもちろんのこと、火力、就中(なかんずく)、最も安価な石炭火力の活用が柱となる。政府は化石燃料を敵視する愚かな政策をやめるべきだ。
再エネが最も安いというのは完全な嘘である。大量導入したドイツは電気代の高騰に苦しんでおり産業は大脱出をしている。
日本でも「再エネ最優先」政策によって太陽光発電が大量導入され、再エネ賦課金によって電気代が高騰した。
そしていま政府が進めるグリーントランスフォーメーション(GX)では、10年間で150兆円、即ち毎年のGDPの3%を洋上風力や水素などに投資するとしている。だがこれもまた太陽光発電同様に、高コストな技術の強引な導入であり、更に光熱費を押し上げる。これでは足下で進行している産業空洞化はますます加速する。
政府は2050年CO2ゼロは国際的約束だという。だが最大の排出国の中国は石炭火力の建設ラッシュである。インドなどグローバルサウスもG7の脱炭素お説教には従わない。ロシアの経済は石油とガスで成り立つが、無論採掘を止めるはずがない。米国のバイデン政権は脱炭素に熱心だったが、実態は石油・ガスを大増産して世界最大の生産国となった。トランプ政権になれば米国共和党は脱炭素政策を全て覆す。
そしてCO2を減らしても恩恵は無い。災害激甚化など統計を見れば嘘と分かる。また日本がCO2をゼロにしても気温低下はせいぜい0.006度に過ぎない。
日本の死活的国益は何か。中国の脅威から、平和と自由を護ることだ。CO2などではない。安全保障と経済成長のためのエネルギー政策こそが必要だ。
かつて資源エネルギー庁は石油ショックの時代にエネルギー安定供給のために設立された。だがいまは脱炭素のためとして、エネルギー安定供給を破壊する先兵になってしまった。これを強いたのは菅・岸田政権の罪である。これを正すことが新政権の使命だ。