ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2024.09.02
本稿はワーキングペーパーです
日本のバブル崩壊後の失われた20年に限らず、金融危機の後、持続的な停滞が生じることが知られている。しかし、どのようなメカニズムで停滞が長期化するのかはコンセンサスが得られていない。金融危機後の長期停滞のメカニズムを考察するために、本論文では企業の負債の蓄積が経済の落ち込みを持続化させる可能性を示す理論モデルを構築した。
金融危機によって、負の生産性ショックが生じると、企業の生産性が落ち込み、売上の減少によって元本の返済が追い付かず負債の蓄積が進む。負債の蓄積が一定水準を超えると、各期の所得をすべて貸し手に支払っても、長期負債の元本が永続的に減らなくなる「過剰債務(debt-ridden)」状態に陥る。過剰債務企業は借入制約が厳しくなり十分な運転資金の調達ができなくなる非効率的な状態が永続する。金融危機によってこうした過剰債務企業が相当数出現すると不況が長期化する。
こうした過剰債務状態は、生産性の落ち込みがなくても生じる可能性がある。バブル崩壊などによって、債務者(企業)から債権者へ資産の再分配が生じることで(負の資産ショック)、企業の負債が一定量を超えると、企業は意図的に追加的な借入を増やすことで過剰債務になる。企業は株式ではなく負債による資金調達を選ぶ理由の一つに、負債の税制上の優遇があることが知られている。企業が負っている負債が大きいときに、借金を長期間かけて返済するよりも、さらに追加的な借金をすることによって得られる税制上の優遇の価値を得ることを選ぶ状況が生じる。このようにバブル崩壊で、生産性が落ち込まなかったとしても、過剰債務企業が生まれることで、持続的な不況に陥る。
従来の研究では、生産性の永続的な落ち込みなどの構造変化を仮定することで、持続的な停滞を再現していたが、本研究はこうした構造変化を仮定せずに停滞を再現できている点が特徴の一つとなっている。
以上のように、本研究ではシミュレーション分析によって、負の生産性ショックや大きな資産ショックが生じることで、過剰債務企業が生まれ、長期的な停滞に陥ることを示した。本研究が示すように金融危機の長期停滞が債務問題によって生じているのであれば、過剰債務企業の債務免除といった救済策が景気回復に有効である可能性がある。
2024年6月27日に改訂したものです
ワーキング・ペーパー(23-001E)Debt-Ridden Borrowers and Persistent Stagnation