コラム  国際交流  2024.07.30

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第184号 (2024年8月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

科学技術・イノベーション 国際政治・外交

7月11日、国際連合が最新の世界人口推計を公表した。これに基づき友人達と議論を重ねている。

推計値を眺めつつ、多くの国で少子高齢化が一段と顕著になる事を議論した。2024年と10年後における人口ピラミッドを比較して見ると、世界全体や東南アジアはピラミッド型の面影を幾分か残している一方で、北欧は壺型で米国は釣鐘型、そして日本は底がかなり細い壺型だ。そして中国はどう表現したら良いのだろうか。底が極端に細くて複雑な三角形が重なっている、今にも倒れそうな壺型だ(PDF版の図1参照)。

これに関し7月11日、マーク・ミリー米国前統合参謀本部議長は米メディア(Axios)主催の会合で「今後10~15年後、米国軍の3~4分の1はロボット」という発言をして注目を浴びた。上述した如く米国は他の先進国や中国に比べ若い人口構成となっているが、国際政治的観点から欧州、中東、インド太平洋等の各地域、更にはサイバーや宇宙の領域で軍隊が必要になるため、必然的にロボットの活用が重要となってくると予想される(PDF版の図2参照)。米国ですらロボット依存の軍備となれば、少子化著しい中国もロボット依存の軍備を追求するであろう。

人口予測は政治経済や科学技術の分野よりも予測の“ブレ”が小さい。だが、政治経済社会に与えるインパクトは無視出来ない程大きい。特に生活・労働環境が緩やかだが着実に変化していく。その意味で生活・労働空間で機械の役割を考える事が一層重要になってくる。このために筆者は現在、政治経済社会更には科学技術の知人・友人と共に、人と機械との共働(collaboration)活動に関して議論している。

全地球規模でのロボット開発競争は良い事だ。だが、開発の目的自体は再検討を要するであろう。今、筆者はロボットをはじめ機械の経済社会的役割を考える研究会を運営しており、「“何のため・誰のため”に、“どんな機械”を、“どんな組織”で行う研究開発が日本と世界にとって良いか」を考えている。これに関し9月9日、弊研究所は「日本ロボティックスの将来」と題しセミナーを開催し、登壇者として黒川清東京大学・政策研究大学院大学名誉教授、淺間一東京大学国際高等研究所東京カレッジ特任教授、谷川民生産業技術総合研究所インダストリアルCPS研究センター長、本田幸夫東京大学人工物工学研究センター特任研究員、吹田和嗣大同大学教授、そして藤田俊弘セーフティグローバル推進機構理事を予定している。この機会を研究熱心な研究者・企業戦略担当者が集う、連続的・継続的な会合の第一歩にしたいと考えている。

経済社会領域でのロボットを含む機械化は、上記少子高齢化に加えAIの発達と共に急速に進歩している。先月は上海で開催された世界人工知能会議(WAIC)における最先端ロボットの紹介や中国におけるAIの開発動向に関して友人達と情報交換をした(次の2参照)。そして今月は、“博鳌亚洲论坛全球健康论坛(Global Health Forum)”に先月出席した本田幸夫氏からの中国サービスロボット情報を楽しみにしている。

ロボットやAIだけでなく、政治経済分野での中国情報に関して友人達と意見交換が続いている。

小誌前号でも述べたが、今はどの国の友人と話し合っても必ず中国の事が情報交換の際に出てくる。中国の専門家でない筆者にとって海外の友人達から中国情報を聞かれるのが辛い。このために毎日勉強不足を痛感している。更なる自助努力と専門家からの助言が必要だ。

台湾問題は優れた専門家が既に語っているため、ここでは詳述しない。第一に触れるのは7月11日の“Washington Summit Declaration”である。これを読むと「中国側から見れば不満を感じる」事は明白だ。だが、欧州にすれば、ロシアの背後に見え隠れする中国の存在が脅威と感じるに違いない。7月9日、スイス最大の購読者数を誇るメディア(20 Minuten)は「中国軍、ポーランド国境5km先で訓練実施(Chinas Militär trainiert nur 5 Kilometer vor Polens Grenze)」と報じた。また11日には独メディア(DW)が「ベラルーシの中国との共同訓練の意図は?(Was bedeutet Minsks Manöver mit China?)」と報じている。こうした中、6月28日に公表された欧州中国問題シンクタンク・ネットワーク(ETNC)の報告書に関して、友人達と意見交換をしている最中だ(“National Perspectives on Europe’s De-risking from China,” 次の2を参照)。

次に内外の友人達と議論した文献を5冊紹介する—詳しい情報を巧みに表現するjournalistsによる2冊①サンガー氏のNew Cold Wars, Apr. 2024 («新冷战»)や②エモット氏のDeterrence, Diplomacy and the Risk of Conflict of Taiwan, Jul. 2024 («威慑、外交与台湾冲突风险»)、また③Harvard Kennedy School (HKS)に長年在籍した外交官のブラックウィル氏の本Lost Decade: The US Pivot to Asia and the Rise of Chinese Power, Jun. 2024 («失去的十年: 美国以亚洲为支点与中国实力的崛起»)、④Stanford大学の若き中国専門家、マストロ博士による経済専門書UPSTART: How China Became a Great Power, Jul. 2024 («后起之秀: 中国的崛起之路»)、⑤香港大學法律學院の張副教授による産業政策に関する専門書High Wire: How China Regulates Big Tech and Governs Its Economy, Apr. 2024 («走钢丝: 中国如何监管科技巨头并治理经济»)。紙面の制約上、解説出来ない事が悔やまれる。

小誌前号で触れた欧州出張で新たに知り会った友人達との情報交換が続いている。

Düsseldorf、Tampere、Helsinki、Genèveでの新たな人々と知識の出会いを喜んでいる。①Düsseldorfでは独法定災害保険(DGUV)とその傘下の労働安全研究所(IFA)や労働健康研究所(IAG)の専門家と面談した。IAGの専門家の中に災害リスク軽減(DRR)に詳しい人がいた。彼等に、筆者が東京電力福島原子力発電所事故調査委員会に参画した事を告げ、現在、日本の友人達の助けを借りて情報交換を継続的に行っている。

②Tampereでの国際会議(Safety of Industrial Automated Systems 2024 (SIAS2024))では、協働ロボットに関する最先端研究事例を垣間見る事が出来た。そして各国によって開発思想等が異なる事も知る事が出来た。またこの地に童話で有名な「ムーミン博物館」が在る事も初めて知った。

③Helsinkiでは労働衛生研究所(FIOH)での会合に参加し、デンマークの専門家達とも意見交換をした。残念な事に筆者はデンマーク語の発音について全く知識がない。この機会を利用して、筆者のデンマークの友人達の名前に関し、“正確”な発音を教えてもらい喜んでいる。Helsinki初訪問の筆者は、深夜に太陽光が地平線に留まる薄明(civil twilight)を経験し、深夜の夕焼け・朝焼けに魅了された。FIOHの人が「薄明の感想は?」と聞いた時、「東京の夏の夜は短いが薄明にはなりません。でも、薄明だと星が見えず、Saint-Exupéryの『星の王子さま(Le Petit Prince)』を想像出来ない事が残念です」と言い、京都の短い夏を詠った清原深養父(清少納言の曽祖父)の短歌を紹介した。

④Genèveでは小誌前号で記した通り、慌ただしい日々を過ごした。だが到着直後の土曜の夜、チィーズ・フォンデュの美味しい店(Le Perron)で食事をしている際、隣のテーブルの裕福なロシア人と親しくなり、素敵なワインをプレゼントされて“偶然で幸運な旅での出会い”に喜んだ。

出張時、嘗て公然とHitlerを批判した童話作家ヤンソンの『ムーミンパパの思い出(Muminpappans Memoarer)』を初めて読んだ。この童話を邦訳したのは帝国陸軍軍人小野寺信少将の妻、百合子夫人。彼女は1941年1月、夫と共にStockholmに向かう。大規模な在独日本大使館と違い、小規模な他の在外公館では暗号等の処理を武官夫婦で行ったらしい。小野寺少将はソ連の満州侵攻を警告した「ヤルタ密約緊急電」で有名だ。だが、筆者は彼女の回想録を読み別の出来事に注目している。1941年4月、松岡外相の訪独時に開催された在欧武官会議だ。現地情報を基に、独軍の英国本土上陸中止・ソ連侵攻を警告した唯一の将校が小野寺大佐(当時)だった。真剣に現地情報を収集せず、日本人同士で楽しんでいた当時の他の軍人達…。「彼女は如何なる気持ちでMuminpappans Memoarerを翻訳したのだろうか…」と想いを馳せている。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第184号 (2024年8月)