メディア掲載  エネルギー・環境  2024.07.26

「エコ」は財布に全く優しくない

対談 飯田泰之×杉山大志

月刊【正論】20248月号(202471日発売)に掲載

エネルギー・環境

飯田  この6月から所得税の定額減税が始まりました。その一方で政府による家庭向け電気料金の補助が6月使用分から廃止されるため、電気料金は大幅に値上がりします。なぜこの時期に補助を打ち切るのか、非常に疑問です。今は世界的なインフレが収まってきて、春闘での賃上げがあり、ようやく家計が一息つけるところです。本来ならここで12年、その恩恵を享受してもらう期間を設けるべきなのに、間髪を入れず電気料金を上げてしまうことには「民力を養う」という意識の低さが感じられました。

杉山  電気代に政府が補助金を出すというのは、一時的な激変緩和措置としての役割はあったかと思いますが、いつまでも続けるべきものでもないでしょう。とはいえ、電気料金が高止まりしている根本的な原因には手を打たねばなりません。最優先事項は、止まっている原子力発電所を再稼働させることで、それで電気料金はグッと下がります。ウランの燃料費は圧倒的に安いわけですから原発を造った以上、動かさない手はありません。それが不合理な規制で止まってしまっている。安全性に問題があるといわれますが原発を稼働させながら安全対策をすればいいだけの話で、実際に海外ではそうしています。
そして太陽光、風力発電などの再生可能エネルギーについては、電気代に上乗せされる再エネ賦課金が4月から上がったことが話題になっています。国によれば一世帯あたり負担額は13千円程度とされていますが今年度、国民が負担する再エネ賦課金の総額は2.7兆円とされています。国民一人あたりでは2万円ほど、3人世帯なら6万円の負担となります。

飯田  実は家庭用の電気料金に上乗せされている分に加えて、産業用の電気料金に上乗せされている分があり、それは回り回って結局、国民が幅広く負担しているのですが、そこが見えにくくなっているわけですね。
現在、電気料金が高止まりしているのは間違いなく、東日本大震災以降に原発再稼働の時期が政治的に先延ばしされてきたツケが回ってきているのだといえます。原油価格が高騰の折にこれだけ動かせる原発を止めていた国は日本くらいのものでしょう。第二次安倍晋三政権も、高い支持率があり党内基盤も強かったのですから、本来は原発再稼働を強行するべきだったと思います。
結局、私たちは現在、ものすごくコストの高い発電方法を選んでしまっている。この電気代高騰は実は人災なのだ、ということを認識する必要がありそうです。

再エネは本当に安いのか

飯田  台湾の半導体受託生産大手、台湾積体電路製造(TSMC)が典型的ですが、日本国内に生産拠点を持つ海外企業が九州を選ぶ例が多いのです。それは電力料金の安さもさることながら、原発をきちんと再稼働しているという電力供給に対する安心感もあります。一方で東北地方でも工業団地を造成して工場の誘致に成功している事例もありますが、やはり九州に比べると振るいません。やはり九州に比べて、東北の電気料金は高く、電力供給にも不安があるというわけです。
今、西側諸国が中国との関係を見直し、日本への生産拠点の移転を始めています。日本にとっては千載一遇のチャンスなのですが、電気料金が高く電力供給にも不安があるという問題があって、移転が一部地域でしか進んでいません。これまた日本は、自分で成長の芽を摘んでしまっていると思うのです。日本の産業界も、外国人労働者の受け入れに熱心になるよりも、電力の問題にきちんと取り組むべきではないでしょうか。

杉山  原発の問題に加えて再エネのほうも問題山積で、日本政府は菅義偉政権のときに小泉進次郎環境相や河野太郎行政改革担当相らが旗を振った「再エネ最優先」を今も言い続けています。
昨年5月には「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」なる法律が成立して今、第7次エネルギー基本計画の策定に向けた検討が始まっており、年末ぐらいにまとまるとのことです。そこでは、向こう10年間で150兆円の投資を官民で実施することになっていますが、お金の行き先の大半は再エネでしょう。しかし再エネを導入しすぎると電気が余る場合があるので、電池を用意する。それでも余った分は送電線で他の地域に送るので、送電線も増強することになる見通しです。
そもそも太陽光発電自体が年間の設備利用率、すなわち稼働率は17%程度しかありません。雨の日や夜間でも電気は必要ですから、火力発電所をなくすわけにはいきません。太陽光発電は必然的に二重投資になるのです。さらに電池も必要、送電線も必要となれば三重、四重投資です。
国は毎年15兆円、つまりGDP(国内総生産)の3%をそうしたグリーン投資に回すとしているのです。さすがにすべては実現しないと思っていますが、そういう方向になっている。それで日本政府は「グリーン経済成長が実現します」と言っていますが私は当然、信じていません。これまで太陽光発電を大量導入して経済成長したかといえば、全くしていないわけですから。

飯田  今後、グリーン投資の収益性はますます下がっていきます。平成2930年くらいまでの日本では労働者が余っていたので、政府がお金を使うことで雇用の増加という結果を生み出すことができました。当時であれば、とにかく国がお金を使うことに意義があったのです。
ただ現状、日本は人手不足状態です。それに以前なら、国内で太陽光パネルの需要を増やすことによって研究開発投資が進んで、国内の企業を育成する支援になったかもしれません。しかし今や太陽光パネルを導入することは、中国から買うことに他なりません。
再生可能エネルギーは火力や原子力発電に比べて安い、と主張する人が一部にいますが、本当に再エネが安いのであれば補助金など出さずとも、放っておいても普及するはずですから国は何もする必要はないのです。再エネ関係の人たちが「再エネ賦課金が必要だ」などと主張するのは「実は採算が合わないのです」と自分で言っているようなものです。

杉山  最近でも再エネ推進論者の方は、再エネは安いと言いながら、再エネ賦課金は必要だという意味不明の主張をしています。

飯田  まともな論理能力のある人間なら、そしておよそ真面目な人としての良心があれば言えないことを平気で言って、それを一部メディアが素晴らしいと取り上げているという地獄絵図のような状態になっています。
話を戻しますと、人手不足状態となっている今の日本では、衰退している産業から生産性の高い産業へと人材、資源、資金、土地をいかに移動させるかが重要になってきます。それこそ生産性の低い太陽光発電に土地や人手や資金を投入してしまうと、その他の成長すべき分野の足を引っ張ることになってしまいます。今の日本経済がそういう局面にあるのだ、ということを意識しなければいけません。

世界の潮流は脱・脱炭素へ

飯田  私は発電の技術については素人なので質問ですが、発電のコストを比較する場合には必ずといっていいほど「発電所を新設した場合の比較」になっていますが、何か変なのでは。

杉山  それには理由が2つあります。まず、新設のコストといっても発電電力量、たとえば1キロワット時あたりの比較になっており、これは全く適切な比較ではありません。太陽光発電は晴れた時に発電するだけです。電気はなにゆえ価値があるかといえば、スイッチを入れたら必ず使えるからこそ価値があるわけで、気まぐれにしか発電しない電気というのは実際のところほとんど無価値なのです。本当に公平に比較するのであれば、太陽光発電+大量のバッテリーで必ず電気が使える状態にして比較すべきです。となると、太陽光の電気はケタ違いに高額になります。
もう1つ、既設の発電所が考慮されていないという問題があります。特に原発は、発電コストがキロワット時あたり約10円とされていますが、うち燃料費は1円程度なのです。ですから既設の原発の再稼働というのは断然、安上がりなのです。それも寿命を延ばせば、さらに安くなります。現在、原発は発電開始から40年でいったん審査し60年までは使えるようになっていますが、実際のところ原発が古くなったといっても内部の主な機器は取り替えられているし保守点検もされていて、寿命などないに等しいのです。米国などは80年~100年、さらにそれ以上の運転も視野に入れており、日本もそうすればいい。この断然、安い電源をなくす手はありません。

飯田  なるほど。世間では「老朽化原発」とよくいわれますが、原発が自動車みたいなものだとイメージされているようですね。自動車であれば、50年動かすのは難しいかもしれません。けれども原発の場合、メンテナンスをして入れ替えるべきものは入れ替えており「行く川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず」なわけですね。

杉山  そうです。ちなみに水力発電所であれば、100年以上稼働している例はいくつもあります。ダム本体のコンクリートはそのままだとしても、原発と同じように発電機などの機器は必要に応じて更新されているのです。

飯田  そうだとすると圧倒的に安い原発の発電コストのレベルに太陽光が追いつくのは、とうてい無理なのではありませんか。

杉山  太陽光発電の本質的な限界は、日差しのある時しか発電できないということです。そのため太陽光の電気は先の三重、四重投資を考えればどうにも安くならず、原発に代わることはとうてい無理でしょう。

飯田  私が危機的だと思っているのは、非効率的な発電方式である太陽光を導入する理屈として国際的・外交的な理由が挙げられている点です。世界各国は現在、いかにして自国はCO2を削減せず他国にCO2を削減させるのかに血道を上げています。その中でなぜか日本では「どんどん頑張って日本の発電コストを高くしよう」とする政治家が高く評価されてしまう。

杉山  いや、日本だけでもありません。米国でもバイデン政権・民主党は「2050年にCO2をゼロにする」と公言しています。欧州でもイギリスの保守党政権、ドイツの歴代政権、フランスのマクロン大統領なども同じことを言って、それなりに政権が支持されてきたのです。当初は皆、あまり意味がわかっていなかった。しかし実際にはとんでもないことだということが、次第に明らかになってきています。例えばガソリン車の禁止だとか、ガスボイラーでの暖房禁止といった話が出始めて、国民が怒り始めた。それで最近の欧州での選挙では、右派勢力が勝つようになってきました。その一番大きな要因は移民問題だとしても、次に大きいのは「脱炭素はバカげている」ということなのです。

飯田  ただその一方でウクライナ戦争以降「CO2ゼロ」の持つ意味合いが変わってきたのが感じられます。特に欧州では、原発の重要度を上げていくことでCO2を減らすという方向に、徐々に舵を切っていく兆候があります。今はドイツ以外には「太陽光や風力で脱炭素する」という国は、ほとんどないのでは。

杉山  いや、再エネ重視勢力は結構しぶとくて、イギリスなどは今度の総選挙で労働党政権になったら、もっと無茶なグリーン政策を展開しかねません。ドイツの環境重視勢力も、弱っているとはいえまだ太陽光・風力を推しています。
それでも私は、気候変動の話というのはそのうちに国際的な議題ですらなくなると思っています。というのは、ウクライナに侵攻しているロシアが石油を掘ったり、天然ガスを輸出するのをやめることはあり得ないからです。ロシアの経済はそもそも石油とガスでもっていて、軍事力もそれで維持している。中国も口では脱炭素とか再エネ重視とか言っていますが、実際には石炭火力発電にどんどん投資しており、インドも同様です。
そうしたことがウクライナの戦争で明白になりました。すでに新しい冷戦状態になっており、各国とも「身銭を切ってCO2ゼロを目指します」などという局面ではないのです。その中で日本では、GXの制度化が着々と進んでいてある意味、世界の流れに逆行しているともいえるでしょう。

飯田  日本では現在、一定以上の規模のある企業にとってもっとも儲かるのが再エネ関連ビジネスになっています。なぜ儲かるかといえば、補助金が出るからです。今、皆で頑張って補助金を分捕ろう、ということに日本人の頭脳が費やされています。これは非常に憂うべき状態で、だからこそ再エネ賦課金などというものは早く廃止すべきだと私は思います。CO2の削減は否定しませんが、であれば原発の再稼働を急ぐのが筋でしょう。

太陽光パネル義務化という愚策

飯田  東京都では来年4月から、新築住宅への太陽光パネル設置が義務化されますが、私はこれは「愚の骨頂」だと以前から指摘してきました。何がバカげているかといえば、都内の小さな住宅に太陽光パネルを設置しても、エネルギー効率が良くないのです。
そもそも住宅密集地には「北側斜線制限」なるものがあり、簡単にいえば北向きの屋根が多くならざるを得ません。

杉山  隣の家にきちんと日が当たるように配慮しないといけないわけですね。

飯田  ですから太陽光発電に向いていない屋根が多く、さらにパネルを設置すれば光の反射で近隣に迷惑がかかりかねません。これは日本でも訴訟になっている例もあります。そのように、日本で一番、太陽光発電に適していない地域で義務化しようとしているわけです。

杉山  付け加えれば、太陽光発電の設置には逆進性の問題もあります。都内で南向きに大きな屋根のある家を建てられる人は、再エネ賦課金その他の補助金が付いてくるから太陽光パネルを設置して元が取れるのです。一方で小さな北向き屋根の家しか買えない人は単にお金を払うだけになる。

飯田  まさに皆に税金(賦課金)を課してお金持ちに渡そうという構図になっているのです。なぜ日本の左翼の皆さんは、これを批判しないのか不思議でなりません。

――ところで小池百合子都知事は4年前、「都内で新車販売される乗用車の2030年までの非ガソリン化を目指す」と宣言していました。

飯田  さすがにそれは実現しない、あるいは延期になると思いますよ。ここへきて電気自動車の普及はペースダウンしてきていますから。

杉山  イギリスでも結局、ガソリン車の販売禁止時期を2030年から35年に延期しましたし、東京都も延期になるでしょう。

飯田  仮に東京都がガソリン車の新車購入を禁止したとしても、欲しい人は所沢(埼玉県)で購入すればいいだけの話です。

杉山  埼玉のガソリン車は東京に入って来るな、となるかも。なんだか映画「翔んで埼玉」みたいな話ですね。いや笑いごとではありませんが。

国民が広く薄く損をする

飯田  今、再エネ導入は税や補助金によって、あまりに儲かりすぎるビジネスになっています。これにブレーキをかけるのは並大抵のことではできません。疑問を持っている官僚もいるかもしれませんが、抵抗したら失脚してしまいますし。しかし、多くの国民は再エネで利益を受けません。というよりも、これは国民から絞り取って一部の人にお金を回すというシステムですよね。

杉山  ごく一部の人たちだけが儲かるシステムで国民は広く薄くみんな損をするけれど、ボーッと生きていると気がつかない。再エネ賦課金のこともよく知らない、電気料金の明細も確認しないという人も結構いますから。
もともと脱炭素については、昔は経済産業省は猛烈に抵抗していたのです。しかし令和2年に菅義偉首相が所信表明演説で「脱炭素社会の実現」を宣言したあたりから、経産省も官邸から相当な圧力もあったのでしょう、今はすっかり宗旨替えして脱炭素路線を突っ走っています。現在は経産省が音頭をとって脱炭素利権をどんどん膨らませているのが実態だといえそうです。

飯田  そもそもの話ですが、日本がどんなに頑張ってCO2の排出を半減させたところで、中国がちょっと増やしたらすぐに帳消しになってしまうのです。日本はお付き合いできる範囲での脱炭素でいいのではないでしょうか。

杉山  今、日本の石炭火力発電の設備容量はおよそ5千万キロワットですが、中国はその20倍の石炭火力を持っており、今後数年で建てる石炭火力が日本全体の6倍もあるので、日本が石炭火力を全廃したところでまるで意味がないのです。
仮に日本が2050年にCO2をゼロにしてもそれで下がる地球の気温は0.006度です。

飯田  それはもう誤差の範囲で、計測は不可能です。そのために日本の産業を壊滅させていいのでしょうか。まともな計算ができる、そして目先の利権から少し距離を置ける政治家の登場が待たれるところです。

(構成 溝上健良)