メディア掲載  エネルギー・環境  2024.07.19

処分政策を抜本的に見直せ

「核のごみ」議論

毎日新聞【論点】2024717日付)に掲載

エネルギー・環境

核のごみの最終処分場を議論するに当たり論点は少なくとも五つある。(1)原子力技術を利用すべきか、どのように利用すべきか(2)核燃料をリサイクルすべきか(3)出てきた廃棄物をどのように処分すべきか(4)地層処分とするのなら、どのように実施すべきか(5)処分地をどこに作るか――だ。

1)は核のごみが今後どのくらい出てくるか、(2)は使用済み核燃料を再処理する現行の計画が妥当なのか否かの議論につながる。(3)は放射能が下がるまで10万年近くかかるとされる核のごみを、現在の科学的知見でどう処理するのが最も安全で合理的か、(4)は処分場の数や規模、埋め方など具体的な地層処分のやり方に関わってくる。

だが、日本では(1)~(4)に関する議論を限られたステークホルダー(利害関係者)が、限られた時間でしか行ってこなかった。(5)は受け入れを検討する自治体なども議論に関われるが、その前提となっている(1)~(4)については「決まったこと」として議論の余地をなくしている。これでは国民の関心は広がらないし、候補地選定を巡る議論がかみ合わないのは自明だろう。

私は201415年に茨城県東海村で核のごみの処分について、市民と専門家の対話手法に関する研究をした。市民の意見を取り入れて政策の選択肢を考える仕組みが必要と考え、市民に望ましい処分方法を聞き、その実現法を専門家に尋ねたが「地層処分ありき」で、それ以外の議論への拒絶反応も強かった。

地層処分を、数あるうちの一つの戦略として捉える意識が、原子力関係の専門家では弱いと感じた。業界全体に、互いを批判しない習わしのようなものがあるからかもしれない。知的な独立性がなければ、市民への説得力も得られないのではないか。

核のごみの処分は不確実性が大きい。数万年の間にどのような天変地異があるか分からないし、燃料価格の変動、エネルギー技術の発展で原子力政策が変わる可能性もある。さまざまな不確実性があるなかで、より良い意思決定をしていくためには、その決定がどのような社会的、技術的、経済的な条件を前提として行われたものか、整理し記録していくことが重要だ。

これだけ長期にわたって影響を及ぼす事業について、ごく一時代のごく一握りの人が決めたから「それで決定、最後までやり通すべきだ」というのは乱暴だし、国際的には異常な態度だ。欧州諸国では、処分政策が将来、覆される可能性があることを考慮し、柔軟性を持たせた設計をすることが主流となっている。

政府が進める脱炭素政策では原子力の役割が大きく、今後、高速炉や高温ガス炉などの次世代炉開発も加速させるという。政策転換により、廃棄物の量、性質や状態、有害性などが変わることが見込まれる。今こそ、核のごみの処分政策の抜本的な見直しをすべき時期であり、そうしたプロセスを踏まずに、拙速に原発の利用拡大を目指すことは、玄海町を含め調査に応じてくれた自治体はもとより、社会全体に対して無責任ではないか。