メディア掲載  エネルギー・環境  2024.07.18

ヒートポンプの再エネ証書化で「ゼロエミガス」「ゼロエミ石油」の供給を

NPO法人 国際環境経済研究所IEEI202473日)に掲載

エネルギー・環境

1.ドイツ暖房法「再エネ65%」はエアコン暖房でOK

ドイツで「暖房法」は(川口マーン恵美氏が書いているようにすったもんだの末)成立した。家庭の暖房については「再エネの割合を65%以上にすることを義務付ける」となっている。

65%という数字はいくら何でも無理だろう、バイオ燃料や再生可能エネルギー(再エネ)由来電気を使うといっても限度がある、と思っていたら、カラクリがあった。エアコンで暖房すればそれでOKなのだ。ドイツ政府の説明を見ても、ヒートポンプ(エアコンのこと)を使って暖房をすれば、暖房法(GEG)の要件を満たす、と説明してある(1)。

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1 ドイツ政府資料より。機械翻訳。

2.エアコンもエコキュートも再エネ技術

さて1では「ヒートポンプ」と書いてあるが、ヒートポンプとは何か。

ヒートポンプとは、室外機から熱(ヒート)を室内に汲み上げる(ポンプ)ものだ。外気の熱を室内に汲み上げればエアコン暖房になり、外気の熱でお湯を沸かせばエコキュートなどの商品名で知られる給湯機になる。

給湯機であれば、電気1キロワットアワーを使って、2キロワットアワー以上の熱を室外から汲み上げることが出来る(2)。この室外から汲み上げた2キロワットアワーの熱の量だけ、外気は冷えて気温は下がることになるが、これは太陽がまた温めてくれるから、再エネといってよい。

エアコン暖房であれば、電気1キロワットアワーを使って、6キロワットアワー以上の熱を室外から汲み上げることが出来る。この室外から汲み上げた6キロワットアワーの熱の量だけ、外気は冷えて気温は下がることになるが、これも太陽がまた温めてくれるから、再エネといってよい。

つまりヒートポンプが供給する熱は立派な再エネなのだが、これまでの(語るととても長い)経緯で、日本では「エネルギー供給構造高度化法」においてこそ再エネに分類はしているものの、再エネ推進の施策からは完全に蚊帳の外に置かれていた1)。だが、ドイツ暖房法においても、欧州の統計においても、もうこれを再エネに計上し推進するようになっている。

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2 エネルギー白書2023より

3.ヒートポンプは再エネの主力である

さてそれでは、日本全体では、ヒートポンプによる再エネ利用量はどのぐらいあるのだろうか。これについては、ヒートポンプ・蓄熱センターが詳細に推計している1)。

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表 ヒートポンプ・蓄熱センターより


では、2020年度の実績で1460ペタジュール(PJ)となっている。この量は莫大だ。日本のエネルギー需給の概要は3に美しくまとめてあるので、数字を拾ってみよう。

※ヒートポンプによる再エネ熱利用量 1460

に対して、

※再エネによる一次エネルギー供給 1325
※家庭のエネルギー消費量 1788
※最終エネルギー消費 12276

となっている。

すなわち、ヒートポンプによる再エネ熱供給量は、

※すでに、太陽光・風力・バイオなどによる再エネの供給量を上回っており、
※家庭部門の全エネルギー消費量に匹敵する量になっている!
※そして、最終エネルギー消費に占める「ヒートポンプによる再エネ熱利用量」の割合も、1460÷12276=12%にも上っている。つまりヒートポンプによる再エネ熱は日本全体のエネルギー消費の12%にも匹敵する!

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3 エネルギー白書2023より


今後も、1の「高位シナリオ」にあるように、技術開発や普及促進によってこの量は更に増やすことが出来るだろう。

4.ヒートポンプを再エネに計上することのメリット

日本も欧州のようにヒートポンプによる再エネ熱利用量を「再エネ」として統計に計上すべきであるし、政策においても「再エネ」として評価すべきである。

そうすることのメリットは、少なくとも以下が考えられる。

熱利用の物理的な実態を正確に把握し、再エネ利用と省エネ対策を正確に評価する。

室内に供給される熱は、電熱器であろうと、ガス暖房であろうと、ヒートポンプでくみ上げた熱であろうと、すべて物理的には同じ熱である。だからどれも熱供給として同列に扱うべきである。また建築物の壁や窓などの断熱をする際にも、当然、どの熱であれ断熱の対象として物理的に同じなので、同列に扱うべきである。ヒートポンプで汲み上げた熱は、きちんと熱として計上し、さらにそれを再生可能エネルギー由来とする必要がある。また、壁や窓などから漏れる熱やヒートポンプを駆動するためのエネルギーは少ない方が良いので省エネ対策の対象にすべきである。

ヒートポンプ利用の促進になる。

CO2の削減を進めるためには、化石燃料の直接燃焼を、電気で置き換えてゆく「電化」と、電気の低炭素化を両輪として進めてゆくことが、有力な選択肢である。ヒートポンプを再エネとして正しく位置付けることで、他の再エネと類似の政策的支援が行われ、普及が進むことが期待される。

エアコン暖房の促進になる。

直接燃焼に比べて、エアコンで暖房することでCO2の削減になり、また多くの場合光熱費も節約できることは、あまり知られていない。このため、多くの家庭において、エアコンが設置されているにもかかわらず、石油やガスのストーブないしは電熱器などで暖房していることがままある。エアコンを再エネ技術として位置付けることで、CO2と光熱費についてのメリットの啓発が進み、エアコン暖房の促進になることが期待される。

技術開発の促進になる。

ヒートポンプは、技術開発による性能向上によって、電力消費量に対しての再エネ熱利用量をいっそう増加することができる。ヒートポンプを再エネ技術と位置付けることで、かかる技術開発への動機が増す。

日本の海外事業の発展が見込める。

日本はヒートポンプの技術を有し、海外においても事業展開をしている。ヒートポンプを再エネ技術と位置付けることで、これを政策的に促進できる。

日本が再エネ先進国として位置付けられる。

日本はエアコン暖房および給湯ヒートポンプがよく普及している。そこでヒートポンプによる再エネ供給を計上することで、日本は再エネ先進国として位置付けられることになる。これを積極的に説明することにより、海外でも日本に倣いヒートポンプ普及を促進しCO2削減につながる効果が期待できる。再エネについては、それぞれの国の状況に合わせて適切な技術が異なるのが常である中で、日本においてはヒートポンプが適した技術であり、それにより再エネ利用を進めていることについての国際的理解を得ることが出来る。

5.ヒートポンプの再エネ証書化で「ゼロエミガス」「ゼロエミ石油」を

以上のように、ヒートポンプを再エネとして捉えると、その再エネとしての価値を証書化することにも意義がありそうだ。

電力に関しては、既に「非化石証書」が制度化されている。日本には、太陽・風力だけでなく、水力、原子力などの非化石電源が豊富にある。日本の電源構成のうち、再エネ(水力を含む)は22%、原子力は6%となっている(2022年現在)

そして「非化石証書」によってその「非化石価値」はバラ売りされるようになっている。けれども現状では需要が供給の10分の1しかないので、その価格は事実上ゼロになっている(図4)。すなわちキロワットアワーあたり0.4円といった、政府が決めた最低価格水準に張り付いている。

このように、現状では再エネ電力は「有り余って」おり、誰でもキロワットアワーあたり0.4円程度を支払えば、「再エネ電力100%」を名乗ることが出来るようになっている。「再エネ電力100%」を名乗る企業が増えている背景には、このような仕組みがある。

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4 電力に関する再エネ証書の入札・約定量の例(日本卸電力取引所 HPより)


これに対して、天然ガスや石油については、同様な仕組みが無い。メタネーションなど、カーボンフリーな合成燃料についての技術開発は進められているものの、いまのところコストは極めて高く、それが大幅に下がる見通しも立っていない。そこで、天然ガスや石油を使う事業者は、カーボンフリーと名乗ることが見通せない状態になっている。

この状態を救うためには、ヒートポンプによる再エネ価値を証書化して、再エネ「熱」証書として供給する仕組みがあればよい。天然ガスや石油を使う事業者も、それを購入することで、再エネ「熱」100%を名乗ることが出来るようになる。そしてこのような証書制度を設けることは、前述の「ヒートポンプを再エネに計上することのメリット」の実現を加速することになるだろう。

事業者にとっては、このような証書の利用が海外に認められるか否かが気になるところだ。だが欧州ではすでにヒートポンプを再エネとして勘定していることは前述のとおりだから、このヒートポンプ由来の再エネ熱証書の使用を否定することは論理的な矛盾になる。海外に製品を輸出する日本の事業者にとっては、この証書の購入で再エネ比率を高めるないしは100%にするという選択肢があることは、きっと朗報になるだろう。

前述のようにヒートポンプを再エネに計上すればその総量は膨大になり、従って証書もふんだんに供給できる。ならば電力の再エネ証書と同様に、証書の価格ひいては事業者の費用負担も低く抑えられそうだ。

6.ヒートポンプの義務化はすべきでない

なお最後に、ドイツ暖房法のように、強制的に再エネ機器(ヒートポンプを含む)の利用を義務付けることについては、筆者は反対である。ドイツだけではなく、英国、および米国の一部の自治体でも、石油・ガスボイラの使用禁止が検討ないし導入されているが、これはかえってヒートポンプに対する敵意を高めているように見受けられる。すでにイギリスではスナク首相がガスボイラ禁止の規制の日程を先延ばしした。規制によって強引に押し付けると、いずれ自立的な普及が見込まれる技術であっても、短期的なコスト負担などに伴う社会の混乱を招きかねない。実力で普及できるものが普及しなくなるのであれば本末転倒である。エアコン暖房やヒートポンプ給湯器は、その光熱費や性能などのメリットがよく理解され、納得のゆく形で国民に採用されてゆくことが望ましい。


1
経産省のホームページでは、ヒートポンプが供給する空気熱を「その他の再生可能エネルギー」として説明しているが、日本の統計上分類では明確化されておらず再エネとして推進されてもいない。
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/other/index.html