日本のエネルギー政策の方向性を定めるエネルギー基本計画の政府による改定作業が始まった。年度内を目途として、2050年CO2ゼロを達成するためのグリーントランスフォーメーション(GX)産業政策を立案するという。だがそもそもの現状の認識を大きく間違えている。
政府は「世界はパリ気候協定のもと地球温暖化を1.5度に抑制する。そのために日本も脱炭素を達成する責務がある。いま脱炭素に向けて国際的な産業大競争が起きている」としている。
だがこれは本当か。たしかに多くの国はCO2ゼロを宣言している。だが実態を伴わず、本当に熱心に実施しているのは、日本と英独など幾つかの先進国だけだ。
米国はといえば、バイデン政権は脱炭素に熱心だが、議会の半分を占める共和党は猛烈に反対してきた。実際のところバイデン政権下ですら米産業は世界一の石油・ガス生産量を更に伸ばしてきた。
中国は表向きはいずれ脱炭素にすると言うが、実際は石炭火力発電に莫大な投資をしている。グローバルサウスのCO2排出は増え続け、「2050年脱炭素を宣言せよ」というG7の呼びかけを端から拒否している。インドもベトナムも石炭火力発電に投資をしている。つまり世界は脱炭素に向かってなどいない。理由は簡単でエネルギー、なかんずく安価な化石燃料は経済活動の基盤だからだ。
そもそも気候変動が国際的な「問題」に格上げされたのは、リオデジャネイロで1992年に開催された「地球サミット」からである。これが91年のソ連崩壊の翌年であることは偶然ではない。冷戦期は米ソ協力は不可能だった。冷戦が共産主義の敗北に終わり、民主主義が勝利し、世界平和が実現したという高揚感の中、国際協力を深め地球規模の問題を解決しようという機運が生まれた。当初から幻想に過ぎなかったが、2022年にロシアがウクライナに侵攻したことで完全に崩壊した。
いまロシアはイラン製のドローンを輸入し、北朝鮮から弾薬を購入している。中国へは石油を輸出して戦費を調達し、あらゆる工業製品を輸入している。ロシア、イラン、北朝鮮、中国からなる「戦争の枢軸」が形成され、NATOやG7は対峙することになった。ウクライナと中東では戦争が勃発し、台湾有事のリスクが高まっている。
この状況に及んで、自国経済の身銭を切って、高くつく脱炭素のために全ての国が協力することなど、ありえない。戦費の必要なロシアやテロを支援するイラン、その軍事費が米国に匹敵するようになった中国が、敵であるG7の要求に応じて、豊富に有する石炭、石油、ガスの使用を止めるなど、ありえない。ごく近い将来、気候変動はもはや国際的な「問題」ですらなくなるだろう。
ところが日本政府はいまだ世界平和の幻想から覚めやらず、脱炭素に邁進している。
政府は日本のCO2排出はオントラックだと自慢している。何のことかというと、2013年以降日本のCO2は減少を続けており、同じペースで直線的に減れば2050年にはゼロになる。
だがこの理由は何か。8割方は産業空洞化で、省エネや再エネではない。いったい政府は何を自慢しているのか。このままCO2が減りゼロになれば、産業も壊滅してゼロになる。
原子力を推進するならばよい。だが政府は規制と補助金により、再エネと、その不安定を補うための送電線と蓄電池を大量に建設し、またCO2回収貯留やアンモニア発電、水素利用も進める。これら高価な技術にGDPの3%も投じるというが、光熱費が高騰し経済は衰退する。
それでも政府はこのようなグリーン投資こそが世界の潮流だとして、欧州の例を盛んに引き合いに出す。けれども欧州は、とても日本がまねをすべき対象ではない。
欧州ではすでに産業空洞化が進行している。いま世界の製造業の29%は中国が占める。他は米国が16%、日本が7%だ。欧州勢は、ドイツは5%だが、英仏伊は各2%に過ぎない。
ナンバー1と2である中国と米国は、どちらも化石燃料を大量に利用し、安い光熱費を享受している。他方で日本以上に脱炭素に邁進しているドイツ等は極めて光熱費が高くなった。いま製造業はますます中国と米国に立地し、日本やドイツ等から逃げ出している。
次期米大統領は「たぶんトランプ」だと言われている。すると脱炭素政策は180度変わる。米共和党は、気候危機など存在せず、中国やロシアの方がはるかに重大な脅威だと正しく認識している。バイデン政権が推進した脱炭素政策はことごとく改廃される。
日本はどうするのか。中国そして戦争の枢軸に負けるわけにはいかない。愚かな脱炭素政策によってドイツ等と共に経済的に自滅するのを止めるべきだ。