6月使用分(7月請求)の家庭向け電気料金が、大手電力10社すべてで大幅に値上がりする。価格を抑える政府の補助金が廃止されることに加え、電気料金に上乗せされている再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)が引き上げられたことも影響したという。国民生活を直撃する、岸田文雄政権の負担増路線。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉山大志氏が緊急寄稿した。 |
電気料金の大幅値上げが報じられている。大きな原因は、太陽光発電や風力発電などの推進のため、電気代に上乗せされて徴収されている再エネ賦課金だ。政府発表では、この賦課金は標準世帯で年額1万6752円となった。だが、これは氷山の一角に過ぎない。
同じく政府発表によると、賦課金総額は2.7兆円である。国民1人あたりでは2万円、3人世帯ならば年額6万円だ。企業も賦課金を支払うので、家庭向け電気代は国民負担の一部に過ぎない。企業が負担するとしても、それによって給料が減ったり物価が上がったりして、結局は家庭に負担がのしかかる。
そして、これは今後さらに巨額になる。
岸田政権は現在、グリーントランスフォーメーション(GX)政策の下で、年度末を目途に、「脱炭素」を最優先としたエネルギー基本計画の改訂を進めている。
政府資料では、再エネの大量導入に加え、その出力不安定を補うために蓄電池を導入し、日照や風況次第でつくり過ぎになった電気を他地域に運ぶ送電線を建設するという。北海道に1000基を超える風力発電を建て、風が吹いたときだけ余る電気を東京まで送るために、4兆円をかけて送電線を建設するという。
これだけでも、のけ反るような話だが、政府は規制と補助金によって今後10年間で150兆円のグリーン投資を見込むという。これは年間15兆円で、GDP(国内総生産)の3%にも上る。150兆円といえば国民1人あたり120万円で、3人世帯ならば360万円もの負担だ。
政府はこのグリーン投資で経済成長をするというが、バカ高い技術に投資して経済成長するはずがないことは、これまでの太陽光発電でもう分かっていることだ。
なおタチが悪いのは、再エネ賦課金とは別のかたちでの実質増税となることだ。政府は国債を発行し、エネルギーへの課徴金や、政府による排出権の売却収入で償還する。送電線やバッテリーの建設の費用は電気料金本体にいつの間にか上乗せされる。CO2規制で安価な石炭火力発電所が閉鎖されると、これも電気料金本体の上昇になる。結局はみな家計が負担するが、その大半は賦課金ですらない「ステルス大増税」だ。
台風や大雨の激甚化などが起きていないことは統計から明らかだ。2050年に日本がCO2をゼロにしても、気温はせいぜい0.006度しか下がらない。中国は日本の20倍の石炭火力発電所を有し、今後数年で6倍分を追加する。日本は愚かな「脱炭素」を止めるべきだ。