メディア掲載  外交・安全保障  2024.05.07

洋上風力の設置区域をEEZ(排他的経済水域)に拡大

再エネ海域利用法改正案の意義と課題

公明新聞(2024320日)に掲載

法制度・ガバナンス
政府は12日の閣議で、海洋再生可能エネルギー(再エネ)発電設備の整備などを目的とする「再エネ海域利用法改正案」(メモ)を決定した。領海内に限定している洋上風力発電設備の設置区域を、排他的経済水域(EEZ)にまで拡大することが柱。海洋政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の兼原敦子研究主幹に法案の意義や課題を聞いた。


■脱炭素化の実現に重要

――今回の改正案の意義と利点については。

兼原敦子・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 法案の精査は時間を要するが、幾つかの点について、大まかには、次のように言えるのではないか。

脱炭素化の目標達成に向け洋上風力発電の拡大は重要である。だが、現行の再エネ海域利用法はEEZへの適用を想定していない。このため、EEZでの洋上風力発電の実施のために、国内法上の手続きや事業者の権利義務を明確にすることと同時に、国際法として、特に国連海洋法条約との整合性を図る法整備が必要であった。

法案の利点としては、例えば、次の2点が挙げられる。第1に、多くの面で国が主体となっていること、第2に、国や事業者、さらに利害関係者による、協議会という利益調整の仕組みができていること。現行法では、領海までの海域が対象であって、地方自治体の機能が重要で、事業者と漁業関係者との利益調整は大きな課題であった。

■効率的利用へ「海洋空間計画」を

――一方で課題は何か。

兼原 法案の第1条は「海洋法に関する国際連合条約に定める権利を的確に行使し、排他的経済水域における海洋再生可能エネルギー源の適正な利用を図るため」という。そこから、二つの課題が浮かび上がる。

一つは、日本という国の海洋政策として、政府が海洋基本計画に明記し検討している海洋空間計画の策定。もう一つは、国連海洋法条約と整合するEEZの利用だ。

1条は、EEZにおける「海洋再生可能エネルギー源の適正な利用を図る」というが、そのためには、海洋空間計画が不可欠となる。海上では洋上風力発電、漁業、レジャー、航行など、技術発展により海洋利用は多様である。しかも、海の利用主体には、外国や外国船舶も含まれる。この点は、領海とは違い、EEZでは顕著になる。それらの主体による多様な利用を、どう調整して、EEZを最も効率的に利用するか、それは、海洋空間計画によってこそ実現できる。EEZにおいて、具体的にどの海域を洋上風力発電に使うかの決定が、何よりも重要になる。

もう一つは、国連海洋法条約との整合性。洋上風力発電施設の設置、しかも、周囲に安全水域を設定することになれば、外国の利用、特に外国船舶の航行の自由との調整が不可欠となる。洋上風力発電施設からの送電ケーブルの敷設も、条約に基づかなければならない。

■国際法との整合性も

――今後必要なことは。

兼原 今述べた、二つの課題は、EEZでの洋上風力発電施設の実施が、将来的には、EEZの中でより遠い海域で行われるようになると、一層、その難しさを増す。

1に、日本は世界で第6位の管轄海域を持つ。広大な海域に直ちに計画を作るのは難しい。けれども、広大な海域であるからこそ、外国による利用も含めた多様な海洋利用を調整する仕組みとして、海洋空間計画が不可欠だ。差し当たりは、限定した海域で、特定した洋上風力発電という問題で、海洋空間計画を考える第一歩の契機とする絶好のチャンスとも言える。

洋上風力発電が盛んなEU(欧州連合)や中国など諸外国では、既に海洋空間計画の考え方を実施しつつあるという。

2に、国連海洋法条約との整合性では、法案48条は、「国際約束の誠実な履行」という。例えば、中国や韓国との間には、EEZについての海洋境界画定がいまだない。これらの国も、東シナ海で洋上風力発電の実施を進めている。国連海洋法条約は、これらの外国との間で不必要な対立を生じないための義務も課している。

近隣諸国との関係や、一般的に外国による航行との調整など、法案48条に基づいて、国連海洋法条約との整合性が、一層、具体的に図られなければならない。

こうした海洋空間計画や国連海洋法条約との整合性という二つの課題は、まさに、オールジャパンな海洋政策として、確実に実現すべきである。今後の国会議論でもこの点を深めてほしい。政府与党の公明党にはオールジャパンな海洋政策の重要性を理解し、取り組みを進めてもらいたい。


(メモ)/再エネ海域利用法改正案

海に囲まれた日本の“地の利”を生かすため、洋上風力発電設備の設置区域をEEZに拡大する。設備の設置に際しては、まず自然条件などが適合する海域を政府が「募集区域」に指定。参入を希望する事業者が事業計画を提出し、漁業者ら利害関係者を含む協議会で議論した後、理解を得られれば国土交通相と経済産業相が事業許可を出す。事業者と地元関係者で、早い段階から設置計画や環境への影響などについて議論してもらい、洋上風力発電の円滑な導入につなげる。