再生可能エネルギー導入に向け規制見直しを検討する内閣府タスクフォース(特別作業班)の会合に、委員の自然エネルギー財団事業局長、大林ミカ氏(3月27日に委員辞任)が提出した資料に、中国国営企業である国家電網公司の透かしロゴが入っていたことが問題になっている。日本のエネルギー政策が中国の影響を受け決定されているのではないかとの懸念が出た。対策としてセキュリティ・クリアランス強化が言われているが、それだけでは到底足りない。
というのは、中国は日本に対して直接的な工作をする必要すらないからだ。日本には「使える愚か者(useful idiots)」がいる。これはレーニンの言葉であり、資本主義国には、本人には特段の自覚すらないままに共産主義国のために働く愚か者がいる、ということである。
中国は世界を共産党独裁対民主主義の体制間の限りない闘争、すなわち「超限戦」と捉えている。そこでは脱炭素はまさに天佑(てんゆう)である。日本をはじめ先進国が勝手に経済的自滅をし、中国には莫大な利益をもたらすからだ。
大林ミカ氏も、「再エネ最優先」を掲げる河野太郎規制改革担当相も、中国企業の太陽光発電事業や風力発電事業を儲けさせる一方で、日本のエネルギー供給を不安定化し高コスト化している。これは中国の望む通りだ。だがここに中国が命令を逐一下す必要はない。せいぜい、当たり障りのない情報提供をして親中的な気分を盛り上げる程度で足りる。そうすれば勝手に運動してくれる。
「再エネ最優先」を強く支持するのは日本の左翼リベラル勢力であるが、かれらは中国に融和的でもある。中国の太陽光パネルの半分は新疆ウイグル自治区で生産されており、強制労働の関与の疑いが濃厚で、米国では輸入禁止措置まであるが、日本ではこれは全く不問にされている。これも中国の望むことそのままである。
いま日本政府は脱炭素、再エネ最優先を推進することで、日本経済を破壊している。太陽光発電と風力発電を大量導入しているが、北海道では風力発電が多すぎて余るので1兆5千億円を投じて新潟までの海底送電線を建設するという。これだけでものけ反るが、これは氷山の一角に過ぎない。政府は脱炭素のために今後10年間で150兆円のグリーントランスフォーメーション(GX)投資を官民で実現するとしている。
投資といえば聞こえはよいがその原資は国民が負担する。GDPの3%であり、3人世帯で360万円もの負担になる。これでは日本経済はガタガタになる。目玉となる再エネ事業のお金の多くは中国企業に流れる。一方で脱炭素は日本の防災には全く役立たない。国連のモデルを信じたとしても、日本が2050年にCO2をゼロにしたときの地球の気温の低下はせいぜい0.006度しかない。
日本の安全保障も危険にさらされている。河野氏が防衛相を務めた時、自衛隊の施設は100%再エネを目指すこととされ、いまでは多くの施設が再エネ電力を購入するようになった。電気事業者の中には近年に設立された企業もあり、中国系の企業がどのぐらいあるのかも分からない。これら企業は電力消費量を監視することで、自衛隊の活動状態を把握できてしまう。のみならず有事には、本国の命令があれば電力供給網を遮断・攪乱(かくらん)するかもしれない。
いつから日本政府はこのような、日本を滅ぼすようなことばかりするようになったのか。2021年に策定された第6次エネルギー基本計画で2050年CO2ゼロが目標とされた。河野氏は「再エネ最優先」を掲げ、2030年の発電に占める再エネの数値目標を36%から38%「以上」にするよう、経産省の官僚を怒鳴り上げた音声がリークされている。
日本の官僚は、時の政治権力にはめっぽう弱くなった。昇進するか左遷されるか、彼らにとっての生殺与奪の権を握られているからだ。かつては脱炭素という経済自滅的な政策には抵抗していた経産省が、すっかり宗旨変えしてしまった。
いまでは経産省こそが巨大な予算と権限を持った最も強力な脱炭素利権と化し、日本経済を破壊している。彼らはもはや内から自らを変える能力はない。政治が変わるしかない。左翼リベラル化した自民党こそが脱炭素推進の本丸である。日本の国益を損なう「使える愚か者」を退場させ、それに代えて、日本の安全保障と国民経済を第一に考える人々にエネルギー政策を任せるべきである。
政治が変われば、経産省の幹部人事も刷新できる。経産省が脱炭素利権にまみれてしまったのはここ数年のことに過ぎない。まだ以前のことをよく覚えており、現状に違和感を覚えている優秀な官僚はたくさんいる。愚か者を排除し、政治的な路線転換さえすれば、彼らは日本国民の安全と経済のためによい仕事をしてくれるはずだ。