今年、エネ基改定が予定される中、関係者からはさまざまな意見が出始めている。産業界からの提案、そして現行からの大転換を唱える有識者の意見を紹介する。
このたび「エネルギードミナンス:強く豊かな日本のためのエネルギー政策(非政府の有志による第7次エネルギー基本計画)」を公表した。全150ページである。筆者と野村浩二が全体を編集し、岡芳明、岡野邦彦、加藤康子、中澤治久、南部鶴彦、田中博、山口雅之の各氏に執筆分担などのご協力を得た。
われわれは安全保障と経済成長を重視したエネルギー政策として、「エネルギードミナンス(優勢)」を提唱する。エネルギードミナンスとは、米国共和党で用いられてきた概念である。それはすなわち、豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給することを指す。それによって、日本が経済発展をし、防衛力を高め、自由、民主といった普遍的価値を守り発展させることが可能になる。
提言は11項目からなるが、筆頭はエネルギーコスト、なかんずく電力コストを低減するというものだ。政府は、東日本大震災前の2010年の水準である産業用電気料金1kW時当たり14円、家庭用電気料金同21円を数値目標として掲げ、その達成を目指すべきだ。付け焼刃のエネルギー補助金は廃し、原子力と化石燃料を活用し、再生可能エネルギー拡大を抑制する。そして税および課徴金などの廃止・減免など、本質的な対策を実施する。
原子力は、発電量当たりの人命リスクがもっとも低い安全な電源であり、安全保障に貢献する。原子力発電による安価で安定な電力の供給をすべきである。早期の再稼働、運転期間延長、更新投資、新増設が必要である。
原子力を利用しないことによる不利益も大きい。化石燃料は輸入依存であるし、再エネは不安定で高価だからである。原子力発電の全電源に占める比率を可能な限り早期に50%まで引き上げることを目標とし、その達成を図るべきだ。
現行の第6次エネルギー基本計画では30年のCO2削減目標が46%減となっており、次期計画では昨年末のパリ協定締約国会議(COP)を受けて、35年に60%減と深掘りする可能性が議論されている。だが、かかる極端なCO2目標をエネルギー計画の支柱に据えることは亡国への道である。CO2目標を撤廃し、これに代えて電気料金と原子力比率にこそ数値目標を設定すべきである。
いま、世界ではウクライナと中東で戦争が起き、台湾有事の懸念もかつてなく高まっている。日本をとりまく安全保障および経済状況が10年当時よりもはるかに切迫している。
中でも台湾有事のリスクは深刻だ。中国は通常戦力で台湾を圧倒しており、米軍が介入しない限り台湾統一は成功する。米軍が介入するとなると、在日米軍基地の利用が必須で、中国の攻撃対象となり、自衛隊基地にもおよぶ。日本の戦意をくじくためには基幹インフラ、特にアキレス腱であるエネルギー供給が狙われるだろう。実際、ロシアとウクライナは互いのエネルギーインフラを攻撃している。ウクライナは1250kmもの射程を持つドローンではるか北方のロシア・サンクトペテルブルクの石油精製工場を破壊した。日本も既に大陸からの射程に入ってしまっている。
中国に本当に攻撃させないよう、簡単に台湾を統一できると思わせてはいけない。必ずや米軍が介入し、中国は惨敗して国家的な破局に陥り、習近平政権も中国共産党も消滅すると思わせなければならない。そのためには、台湾有事に自動的に巻き込まれる日本が、簡単に屈服すると思わせてはいけない。エネルギーと食料を備蓄し、エネルギーインフラを存分に建設し、軍備やテロ対策を充実しなければならない。ここにこそ重点的に投資すべきであり、脱炭素にかまけている場合ではない。台湾防衛に失敗すると、中国軍は西太平洋に展開し、日本の防衛はさらに困難になる。他人事ではない。
米国は、トランプ氏が大統領になればパリ協定から離脱する。日本も離脱すれば、パリ協定はかつての京都議定書同様に事実上消滅し、先進7カ国(G7)諸国はCO2ゼロを目指す必要がなくなり経済的自滅を免れる。これは、ロシア・中国・イラン・北朝鮮枢軸という敵対勢力に勝つための必要条件である。
なお、パリ協定はどのみち破綻必至である。50年CO2ゼロというG7の目標に対し、グローバルサウスは聞く耳を持たずCOPの議題にもしない。そもそも地球温暖化が国際的な問題になったのは、冷戦が終わり国際協力ができると思われたからだ。新冷戦が始まった今、身銭を切った温暖化対策の国際協力など、もはや有り得ない。地球温暖化「問題」はもう消滅するのだ。