メディア掲載  外交・安全保障  2024.03.01

「同盟100年」へ向け歩み始めた米韓

月刊『東亜』 No.680 2024年2月号(2024年2月1日発行)に掲載

国際政治・外交 米国 朝鮮半島

昨年11月にソウルで開催された米韓安保協議会議では、両国の国防長官が同盟関係の発展のために様々な分野での指針を示した。その中でも筆者が注目した点は新しく示された「科学技術同盟への進化による同盟能力の現代化」である。

昨年1113日に韓国・ソウルで米韓安保協議会議(以下「SCM」:Security Consultative Meeting)が開催された。これは、両国の国防長官が米韓相互防衛条約締結70周年という節目の年に、同盟100周年を迎える30年後の2053年へ向けたビジョンを示すなど、今後の米韓関係の発展を促す内容の濃いものとなった。

会議後に両国が発表した共同声明文([1])は、冒頭で「米韓同盟は自由、人権、法治など共同の価値に基づく、朝鮮半島のみならず世界の平和、安定、繁栄の中軸であること」を改めて指摘した。その上で、今後両国が昨年4月の首脳会談で発表された「米韓同盟70周年記念共同声明」に則り「同盟関係をグローバル包括的戦略同盟として発展させること」を再確認したのである。

米韓両国は同盟100周年となる2053年を見据え、それまでに目指すべき同盟協力における柱として、北朝鮮に対応した拡大抑止努力の向上、科学技術同盟への進化による同盟能力の現代化、志を同じくするパートナー(Like-minded partner)との連帯および地域安保協力の3つを提示し、「米韓同盟国防ビジョン」を策定することも明記した。会議結果について、韓国ではの拡大抑止に関する部分の成果が最も強調されている。これは韓国国民の軍事的関心が対北朝鮮抑止力にあることを裏付けるものだ。韓国国防部のホ・テグン国防政策室長(日本の防衛政策局長に相当)は、国防部隷下の韓国国防研究院に寄稿したコラムの中で、韓米が共に行う拡大抑止実現のために持続的に努力してきたことを強調し、今回のSCMにおいても米国が提供する「核、通常兵器、ミサイル防衛および進展した非核能力等を含むすべてのカテゴリーの軍事能力」による拡大抑止力強化と10年ぶりに改定された「2023誂え型抑止戦略(2023TDSTailored Deterrence Strategy)の意義が再確認されたことを高く自己評価している。([2])

一方で、今回の会議結果において、日本の安全保障に直接的に関係するものはの志を同じくするパートナーとの連帯および地域安保協力に関する部分である。SCM共同声明文においても、「両長官は自由で開かれたインド太平洋が連結され、繁栄し、安全で、強靭であり続けるよう維持する上で米韓同盟が核心的な役割を遂行するという共通認識を得た」と明記され、この地域における米韓安保協力を持続的に展開していくことが合意された。また、「台湾海峡における平和と安定維持の重要性」についても再確認されたほか、 ASEAN諸国との関係において、両国のインド太平洋戦略が協力的な相乗効果を生み出すことの重要性も指摘された。これは、文在寅前大統領が20196月に新南方政策とインド太平洋戦略の連携について言及して以来、対ASEAN政策における相互協力の結節点を模索してきた両国の動き([3])が、今回の共同声明文においても反映されたものといえる。

前回の拙稿で触れた、韓国と国連軍関係国による初の国防長官会議の開催については、共同声明文で両国長官が「今回の会議が、国連軍司令部の駐屯国である大韓民国と国連軍司令部加盟国間の今後の協力と連帯を強化していく契機になる」と期待感を表した。さらに、「休戦協定を履行する上で国連軍司令部を支援する案を講じる一方、朝鮮半島の安保に対する国連軍司令部の寄与を拡大するため、大韓民国と国連軍司令部加盟国間の連合訓練の拡大と相互運用性の強化を模索していくことで一致した」とし、米韓両国は「国連憲章の原則と決議に基づき、米韓と価値を共有する志を同じくするパートナーの国連軍司令部への参加を通じて、国連軍司令部加盟国の拡大を模索していくこと」を明記した。「加盟国拡大」がわが国にも及ぶのか、引き続き注視すべき点である。

今回の会議結果の中で、筆者が最も注目した部分は、の科学技術同盟への進化である。共同声明文で両長官は「同盟の防衛力を強化し、このような能力の開発、獲得および運用においてより効率的かつ効果的な協力を構築すべきであることに同意した。特に、双方は先端技術と国家安全保障との間の連携がさらに重要になっていることを認識する中で、国防研究開発、産業協力、兵器体系獲得分野での協力拡大を通じて同盟の相互運用性と相互交換性を強化していかなければならない」とした。また両長官が、「締結を控えた米韓供給安全保障約定(SOSASecurity of Supply Arrangement)など両国の防衛産業基盤の連携強化に向けたこれまでの努力に注目し、防衛産業分野の協力強化のために国防相互調達協定(RDPAReciprocal Defense Procurement Agreement)の締結に向けた努力を要請した」と明記された。

このような大枠としての米韓防衛産業協力に関する言及のほかにも、軍事技術関連ではミサイル防衛に関する「同盟の包括的ミサイル対応戦略を深化・発展させるための共同研究」着手に合意し、宇宙、量子、サイバー・ディフェンス、人工知能、自律制御、指向性エネルギーなど多様な分野で米韓国防科学技術協力が拡大していることを再確認し、次世代無線通信技術を連合作戦に活用するための米韓国防当局間の議論継続を約束したことは注目すべき点だ。

未来戦に備えた独自の戦力増強を図っている両国が新たな無線通信技術開発に取り組もうとしている点は興味深い。当然ながらこうした米韓の軍事技術協力の動きは日本の自衛隊にとって他人事ではない。世界および地域の情勢変化は速く、それに勝るとも劣らず「最悪の事態に備える」ための米韓共同の動きも加速している。「日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化する」とした昨年8月の「キャンプデービッドの精神」を実践するためにも、わが国はこれまで以上に米韓同盟の変化をしっかりと把握する必要があるだろう。


([1]) 韓国国防部「第55回米韓安保協議会議共同声明文」20231113日。<https://www.mnd.go.kr/user/newsInFileDown.action?siteId=mnd&newsSeq=I_13495&num=1> 米国側は U.S. Department of Defense “55th Security Consultative Meeting Joint Communique,” November 13, 2023. <https://www.defence.gov/News/Releases/Release/Article/3586522/55th-security-consultative-meeting-joint-communique/>

([2]) ホ・テグン「第55SCM成果と意義」『ROK Angle』韓国国防研究員、2023128日。
<https://www.kida.re.kr/cmm/viewBoardImagefile.do?idx=41628>

([3])これに関しては、伊藤弘太郎「日本が知らない米韓関係のファクトフルネス(前編)―文在寅政権の対インド・ASEAN外交を評価するアメリカ―」『国際情報ネットワークIINA』笹川平和財団、2021930日を参照。<https://www.spf.org/iina/articles/ito_09.html>