メディア掲載  エネルギー・環境  2024.02.19

東京都2050年脱炭素 達成しても気温低下は0.0004℃

エネルギーフォーラム202429日)に掲載

エネルギー・環境

日本政府も、都道府県のほとんども、2050年にCO2をゼロにすると宣言している。だがこれでどれだけ気温が下がり、大雨の降水量が減るのか、ほとんどの人は知らない。

概算は簡単にできる。以下では、鍵となる数字を、覚えやすい形に少し丸めてまとめておく。正確な計算については拙著「地球温暖化のファクトフルネス」を参照されたい。

  •  CO2 1t = 0.5      (TCRE関係)
  •  気温1℃上昇 = 6% の降水量増加  (クラウジウス・クラペイロン関係)
  •  年間10億t            (日本のCO2排出量)

TCRE関係とは、累積のCO2排出量が1tに達すると地球の気温が0.5℃上昇するという関係である。両者には概ね比例関係がある。なお最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告である第6次報告では、これは0.45℃となっている(下図を参照)。TCRE関係についてはJAMSTEC(海洋研究開発機構)による詳しい解説記事がある(なお、TCREとはTransient Climate Response to cumulative carbon Emissionsの略で、日本語で言えば「累積炭素排出量に対する過渡的気候応答」となる)。

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図 TCRE関係 出典:IPCC第6次評価報告書 技術的要約 暫定訳

図の傾きはCO21t当たり0.45℃となっている。なおこの値は過去の観測だけでなくシミュレーションにも依存しているので、地球温暖化については過大評価である可能性が高いが、ここでは概算に興味があるので、このIPCCの値をそのまま、少し丸めて0.5℃として使うことにする。

これによる降水量の減少はどれだけか。気温が上昇すると大気中の水蒸気量が増え、豪雨が強くなるというクラウジウス・クラペイロン関係(②)を仮定する。なおこの関係自体、実は統計的に有意に観測されてはいないので過大評価かもしれないが、ここでは仮にこの関係が成り立つとする。

クラウジウス・クラペイロン関係では、1℃の気温上昇が6%の雨量増大となるから、仮に1日に100mmの豪雨であれば、1℃の気温上昇で106㎜に雨量が増えることになる。

上記の①から③までさえ覚えておけば、暗算でも脱炭素の効果を概算できるようになる。

便益は事実上存在せず 途方もない費用かけるのか

日本の年間排出量は年間10tなので、気温上昇は0.0005℃。日本が1年排出するごとに、地球温暖化は0.5℃の1000分の1だけ進むことになる。

いまは24年だから、50年までに日本が今後約25年間、現状のまま排出を続けると、12.5℃の1000分の1、つまり0.0125℃だけ地球温暖化が進む。

50年までに線形でCO2を減らしてゆくとすれば、累積の排出量は半分になるので、50年の気温上昇は0.0125℃の半分の0.006℃。気温減少もこれと同じで0.006℃。

降水量減少は6%を掛けて0.04%。100mmの雨でせいぜい0.04mmの降水量減少。

ちなみに東京都も50年脱炭素を目指しているが、東京都の排出量は日本全体の6%。従って気温低下は0.006℃×6%= 0.0004℃。降水量減少は100mmの雨で0.04×6%=0.002mm、となる。

全国の都道府県のCO2排出量は環境省がまとめているから、どの都道府県でも計算できる。

このように、日本国や自治体が50年に脱炭素をするとしても、地球の気温にも降水量にも事実上影響は皆無である。なぜそうなるか、理由は以下の二つである。

  • 地球温暖化は起きるといってもゆっくりわずかなものであること、降水量は増えるとしてもごくわずかであること
  • 日本の排出量は世界の3%の過ぎないこと。自治体ならさらにそのごく一部になる。

50年脱炭素を実現するとすれば途方もない費用がかかるが、その気温低下や降水量減少による便益は事実上存在しないことが分かったのだ。