メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.02.08

出生率低下が最も著しい国、韓国

LeMonde(2024年1月26日)に掲載

この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2024年1月26日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/economie/article/2024/01/26/la-coree-du-sud-championne-de-la-denatalite_6213128_3234.html

経済政策 朝鮮半島

韓国人女性の出生率が低下している原因は世代によって異なっている。セバスチャン・ルシュヴァリエは本コラムでこの研究について報告する。

出生率の低下は東アジアとヨーロッパの先進国の大半で見られており、それによって人口高齢化が加速している。しかし、この現象の規模が最も大きいのは韓国である。2021年の合計特殊出生率(出産年齢の女性一人が産む子どもの人数)は中国で1.16、スペインで1.19、イタリアで1.25、日本で1.3、ドイツで1.58、フランスで1.8だったのに対し、韓国では0.81だった。しかもこの韓国の状況は長く続いている。20年にも及び1.3を下回っているのだ。

この点が何にもまして重要である。というのも、先進国における出生率の低下は次の事実——女性は出産を先延ばしにする傾向にあるが、前の数十年の世代と比べて出産人数が減ったわけではない——に起因するとして分析されることが多いからだ。

それとは反対に、韓国の状況には一時的でないという特徴があり、女性一人が産む子どもの平均人数が中・長期的に大きく減少する傾向にあることを示しているように見える。その原因は様々で、時とともに変化している。このことを示したのが、ソウル大学校(Seoul National University)のJisoo Hwang経済学教授が行った数世代の韓国人女性を対象にした研究である(« Later, Fewer, None ? Recent Trends in Cohort Fertility in South Korea », Demography n° 60/2, 2023)。

この研究の主たる成果は、この低い出生率の諸原因の変化を正確に評価していることだ。要約すると次の通りだ。1960年代生まれの世代の女性は、結婚はしたが子どもの数は前の数世代よりも少なかった。その次の世代では婚姻率がそれまでよりもずっと低かった。そして1980年代生まれの世代では子どもを持たない女性が増加した——結婚している場合でさえ。

教育費と住居費

この研究のもう一つの成果は教育レベルによる影響に関係している。昔から教育レベルが高い女性ほど子どもの数が少なかったが、もはや先進国の大半ではそうではない。それらの国々では教育レベルの高い女性が最も出産を先延ばしにするが......だからといって出産人数が減ったわけではない。韓国はここでもまたほかの国と状況が異なっている。出生率が最も低いのは教育レベルが最も低い女性と最も高い女性なのだ!

Jisoo Hwang教授は2023年にノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディン氏の研究の方向性に従ってコホートアプローチを採用した。このアプローチにより、出生率の変化を各世代の社会経済的状況に位置づけることで、それらの変化についての理解を深めることができる。要約すると、韓国の極めて深刻な状況は非常に高い教育費と住居費によって部分的に説明できるが、一部の若者については安定雇用と給料の状況の悪化によっても説明できる。そうした若者たちはもはや家庭を築くお金がないのだ。

これらの結果から二つの教訓が浮かび上がる。

一つ目の教訓として、先進国における出生率低下という一般的傾向は、国家間の違いや世代間の違いを見えなくする。そのことを韓国のケースの特異性が証明している。

二つ目の教訓として、この国の出産奨励策の失敗が証明してるように、政府による養育援助や育児休暇措置は出生率に対して非常に限られた効果しかもたらさない恐れがある。韓国における重大な変化はそのことを暗示している。要するに、「人口の増強(réarmement démographique)」[訳注:マクロン大統領が1月16日の記者会見の際に口にした、軍事的なニュアンスを含んだ表現]という表現にわずかでも意味があるとしても、この言葉だけでは不十分だ。