エネルギー戦略は有事でシーレーンが封鎖される可能性も視野に入れて考えることが肝要だ
米国は、共和党の大統領が誕生すれば、2025年に気候変動に関するパリ協定から離脱するだろう。日本も、経済を破壊するこの協定から離脱すべきである。日米が離脱すれば協定は実質的に消滅し、G7は経済的自殺から救われる。
今年検討する日本の第7次エネルギー基本計画も安全保障と経済的繁栄を担保するものにしなければならない。新しく生まれ変わった日米は、友好国とともにエネルギー・ドミナンスを確立すべきである。その第一歩としての日米合意を提案したい。
前回の記事「日本がパリ協定を離脱する日、このままでは産業空洞化が加速するばかり」で、パリ協定が破綻必至であることを述べ、それに代わる新しい国際的なものとして「エネルギー・ドミナンスに関する枠組み」を提案した。今回は、その内容や日本の取るべきステップについて詳しく述べよう。
「エネルギー・ドミナンス」とは、安価で安定したエネルギー供給によって、自国および友好国の安全保障と経済発展を支え、敵対国に対する優勢を築く、という思想だ。米国共和党では以前のトランプ政権の頃から合言葉になっていた。
「枠組み」は最終的には多国間的のものを目指すにしても、その第一歩は日米合意から始めることが現実的なステップとなる。
協定の骨子は次のようなものが考えられる。
日米両国は、エネルギー・ドミナンス、すなわち両国とその友好国のための豊富で安価な安定したエネルギー供給を達成するために協力する。民間企業が主要なプレーヤーとなるが、政府は良好なビジネス環境を作り出さなければならない。協定には以下の項目が含まれる。
1. 日米両国は協力して原子力を推進する。
2. 日米両国は、米国から日本への天然ガス及び石油の長期安定供給を確立する。
3. 日米両国は、友好国における化石燃料の開発と利用を支援するために協力する。日米両国は、化石燃料事業への投融資を再開するよう、国際開発機関に働きかける。
この合意の意義について、以下、順に述べよう。
原子力の利用には、軽水炉のような既存技術に加え、SMR(小型モジュール原子炉)のような新技術の推進が含まれる。
原子力の推進は、エネルギー安全保障強化(およびCO2削減)および経済の繁栄のために日米が合意できる最も重要な柱となる。
エネルギー供給は、化石燃料のほとんどを海外から輸入している日本にとって、アキレス腱である。
特に石油は90%以上を中東から輸入しており、そこには地政学的リスクが存在し、また日本へのシーレーンには多くのチョークポイントが存在する。南シナ海や台湾周辺での中国の軍拡は、日本のシーレーンに新たなリスクを加えている。
第二次世界大戦では、米国は海上貨物輸送を攻撃することによって日本のシーレーンを寸断した。これが日本の米国に対する敗北につながった。シーレーンが寸断され、エネルギー供給が途絶えれば、次の戦争でも同じように日本は敗戦するかもしれない。
このためシーレーンが封鎖されても発電を続けることができる原子力は、日本のエネルギー安全保障にとって極めて重要である。
経済的利益という点では、日本企業はすでに米国でSMR事業に参加しており、この協定によって恩恵を受けるだろう。米国も日本の原子力発電事業に参加しており、彼らも恩恵を受けるだろう。
この協定はまた、日本の原子力推進に不可欠な、政治的なサポートを安定化させる効果があるだろう。
米国から日本への天然ガスや石油の輸出は、もちろん米国の経済的利益につながる。
しかしそれよりも、日本にとってのエネルギー安全保障の面の価値こそ大きい。この合意によって、日本は中東に依存していた石油供給源を多様化できるだけでなく、ペルシャ湾封鎖や台湾有事のような有事の際にも、米国からの安定供給を確保できる。これによって、中国が軍事力を用いて日本を海上封鎖しようとしても、その脅威に屈するリスクを軽減できる。
そして同盟国である日本が中国に対して頑強になることは、もちろんアメリカの国益でもある。
日米両政府は、民間による長期安定供給契約が結べるよう、ビジネス環境を整えるべきである。
ここで民間だけでなく、政府の役割が重要になるのは、敵対国である中国やロシアが、国策として、化石燃料に関する国内事業や海外事業を、しばしば不公正な貿易・投資慣行によって推進しているために、それへの対抗措置が必要だからでもある。
これまで、G7は途上国に化石燃料の使用をやめるように説き、国際金融機関が化石燃料に投融資することを禁じてきた。
だがこれは、友好国の経済発展の機会を損ない、敵対国(中国やロシア)に付け入る隙を与えている。
米国と日本はこの政策を改め、友好国の化石燃料開発と利用を支援しなければならない。
これには多くの経済的利益がある。例えば、米国は海外での化石燃料採掘事業に従事することで経済的利益を得る。日本は化石燃料利用技術を輸出することで利益を得る。
以上の合意において、地球温暖化という言葉は、「核分裂・核融合の促進、天然ガスの促進、化石燃料の効率的な利用」といった言葉に変換される。
パリ協定を推進する「グリーン・ドグマ」に駆られた人々は、太陽光発電や風力発電以外を否定するなど、技術選択が偏狭になり、コストのかかる対策ばかりを推進する傾向があった。
だがこの日米合意は原子力、天然ガスの安定供給やエネルギーの効率的な利用など、現実的な国益に根ざすものとなる。このため、むしろパリ協定よりも、CO2削減のための枠組みとしても効果的になるだろう。
このような日米合意を交渉する場はどこだろうか?
過去の先例となる取り組みとしては日米戦略エネルギーパートナーシップ(JUSEP、2017~2020年)、日米クリーンエネルギーパートナーシップ(JUCEP、2021年~)、日米エネルギー安全保障対話などがあった。
しかしこれらは、「エネルギー」や「安全保障」と銘打たれていても、米国民主党政権が脱炭素をアジェンダとして推進していたために、アジェンダ・ハイジャックに遭い、脱炭素推進の枠組みとなってしまっていた。新たな枠組みが必要だ。
新しい枠組みを立ち上げることは十分に可能である。例えば、「日米エネルギー・ドミナンス・パートナーシップ」を構築し、上述したような合意を達成することができよう。
いったん二国間合意が成立すれば、それを基礎として多国間協定を結ぶのは一般的な外交手法である。化石燃料事業への開発援助や投融資の推進は広く歓迎されるだろう。なぜなら、それは経済繁栄の礎であり、エネルギー安全保障の強化にもなるからだ。東アジアや東南アジアはもちろん、グローバル・サウスからも広く参加を募ることができるだろう。
このような動きからは、政治が左派寄りになってしまっているEUは、当面は孤立を余儀なくされるだろう。だが政治バランスが右派にシフトする一方で、パリ協定の破綻がますます明らかになれば、EUも関与を弱め、パリ協定は実質的に死文化する。
かつて、2010年、日本の離脱によって1997年に合意された京都議定書は事実上消滅した。パリ協定も同様になるだろう。
その結果、アメリカの重要な同盟国である日本とEUは、脱炭素政策を中止する。これによってG7は経済的自殺を止め、再び強くなることができる。
最後に、パリ協定による悪影響を最小化し、日米合意にスムーズに移行するための日本の重要なステップを提案する。
2024年は日本が第7次エネルギー基本計画を策定する年であり、2025年2月はパリ協定の2035年までの数値目標(正式にはNDC=Nationally Determined Contribution)の提出期限である。2023年のCOP28では、世界全体の目標として2035年までに60%削減(2019年比)が提案された。
日本政府は、公開資料を見るところ、60%削減などという無謀な数値目標に基づく破滅的なエネルギー基本計画を策定し、NDCとしてパリ協定に提出する構えのようだ。しかし、これでは日本経済は破壊される。
日本は、パリ協定からの離脱を念頭に置き、第7次エネルギー基本計画は、排出量目標にとらわれることなく、安全保障と経済に焦点を当てた、現実的なものにすべきだ。
時間展開を考えてみよう。米国は2025年1月にパリ協定を離脱する。その後、2025年2月に各国から2035年についての数値目標がパリ協定に提出される。これは2030年目標に続くパリ協定2度目の目標である。しかし、この目標はアメリカ抜きの協定に提出されるものとなる。途上国には、パリ協定では、もともと実質上数値目標がない。
これには既視感がある。日本が京都議定書の2008年から2012年の第一約束期間に続く、2013年から2017年の「第二約束期間」の目標提出を拒否して2010年に京都議定書から離脱したのと同じである。
日本は2025年3月のNDC提出をやめ、11月のCOP29で2035年の数値目標を提出しないことを宣言し、パリ協定から離脱すべきである。