メディア掲載  エネルギー・環境  2024.01.25

日本がパリ協定を離脱する日、このままでは産業空洞化が加速するばかり

先進国経済が崩壊し中国を利するだけの協定は破綻必至だ

JBpress2024118日)に掲載

エネルギー・環境

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2015年12月にCOP21で採択された「パリ協定」は先進国経済に悪影響を与えるものとなってしまった

昨年12月にドバイで開かれたCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では南北の分断があらわになった。もはや、先進国にとって地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」は害毒でしかない。日本の経済を壊滅させ、中国を利する、科学ではなくカルトに基づいた鬼子になってしまった。この害毒は京都議定書に千倍する。2025年には、米国と共に日本も協定から離脱するべきではないか。

COP28の本質は南北の分断

COP28では諸国が「化石燃料からの脱却」に合意したという報道があったが、これは意図的に広められた偽情報である

実際に合意されたのは「COP28が各国に化石燃料から移行する世界的な努力に寄与するように呼び掛けた」というだけだ。各国が約束したわけではない。しかも原子力推進や再エネ推進など、8項目もあるオプションの1つとしてこれが取り上げられたに過ぎない。

中国もインドもサウジアラビアも、この合意があるからといって石炭や石油の採掘や利用を制限しようとは微塵も感じないだろう。

他方で、全く報道されていないが、COP28の本質は南北の分断だった。

COP28に先立ち、G7合意では、途上国にも「2050年CO2ゼロ」を宣言するよう要請していた。だがこれは端から拒絶されたので議題にもならなかった。だが、この「戦わずして負けた」ことこそが、COP28の最重要な点だった。

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合意文書は採択したものの、南北の分断を印象づけたCOP28

京都議定書そっくりの一方的な協定となったパリ協定

もはやグローバルサウスもロシアもG7のお説教などに従うつもりはないことが改めて明白になった。

いまや、パリ協定は「先進国だけがCO22030年に半減、2050年にゼロとする約束をする」という京都議定書とそっくりの一方的な協定になってしまった。

否、数字が極端に深掘りされ経済に破滅的な悪影響を与えるものになったが故に、その害毒たるや、京都議定書に千倍する。

パリ協定はどう変容していったのか

そもそも日本が京都議定書を離脱したのは、米国が参加しないことに加え、先進国だけが義務を負い、中国をはじめとした途上国が義務を負わない、一方的な枠組みだったからだ。日本の離脱で京都議定書は事実上消滅した。日本の大英断だった

それを受けてパリ協定の交渉が始まり、「全ての国が参加する枠組み」と銘打ったパリ協定が2015年に採択された。それは、工業化前からの気温上昇を世界全体としては2℃を目標として、各国が自主的に決定した貢献(Nationally Determined ContributionNDC)をすればよい、しかもその約束の内容や達成に法的拘束力はない、ということになっていた。これはまあ妥当な枠組みに思えた。

だが問題はあった。先進国と途上国という区分は京都議定書とほぼ同じ形で維持されていた。そして中国は途上国に位置付けられていた。この合意があった2015年は、自由主義陣営が中国を存亡に関わる脅威として明確に認識する直前だった。

その後起きてきたことは何か。欧米では左翼リベラル的な政権が大勢となり、G7CO2の数値目標を深堀りしていった。おおむね2030年に半減、2050年にゼロ、といった数値に行き着いた。

パリ協定上では本来、NDCとは自主的に決めるものであり、他国に言われて決めるものではないが、G7ではこれがコンセンサスとされ、日本も同調してきた。

左翼リベラルは脱炭素が国益のためだと本気で信じているが、現実にそれを目指せば経済が壊滅する。欧州や日本では産業空洞化がすでに起きていて、このままでは、今後はいっそう悪化する。

大きなヘマをした先進国

他方で中国のように途上国に分類されれば、形式的にはいくらか約束はするが、ほとんどその内容は問われていないし、達成を真剣に迫られることもない。

加えて、先進国は大きなヘマをした。

「気候危機だ、いまの異常気象はCO2排出のせいだ」と科学的根拠が全くないにもかかわらず言い続けたせいで、途上国は「その犯人である先進国が被害を賠償すべきである、また、今後の温暖化対策の費用は全て先進国が負担すべし、それが温暖化対策をする条件だ」と切り返し、これが説得力を持ってしまっている。

その相場は年間1兆ドルから5兆ドルと膨れ上がっているので払えるわけがない。すると途上国は対策をしなくてよいことになる。

2050CO2ゼロといった数字の深掘りは「科学に従って」という決まり文句の下で進められてきたが、これは科学ではなくカルトである。

左翼リベラルが言うように気温上昇が1.5℃を超えたら世界が破局に至るなどという科学は存在しない。過去150年で1℃程度の気温上昇があったのは確かだが、統計を見れば台風などの災害の激甚化など観測されていない。

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パリ協定離脱のシナリオとは

このように変容したパリ協定は、破綻することが必定である。ではそれはどのような展開をたどるだろうか。以下、ありそうなシナリオを描いてみよう。

2024年は世界的に選挙の年である。欧州では6月の欧州議会選挙で右派が躍進し、欧州委員会委員長の人事にも影響を与え、脱炭素政策にも見直しが入る。

だが決定打は、2024年末の米国大統領選挙となる。共和党から大統領が選出されて、全てが変わる。

バイデン政権のグリーンディール(脱炭素のこと)を止め、パリ協定から脱退し、ESG投資に反対する、というのは米国共和党の総意である。

トランプ氏ならばもちろんのこと、誰が大統領になってもパリ協定からは離脱する。共和党はパリ協定が自国経済を害し、中国を利し、科学的でもないと認識しているからだ。

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米共和党の大統領選候補者レースで先頭を走るトランプ氏は地球温暖化対策には一貫して消極的だ

2050CO2ゼロ」が科学でなくカルトに過ぎないことの証拠は十分にある。これまでも米国の議会公聴会で活躍してきた科学者たちが、それを改めて世界に知らしめることになるだろう。

米国がパリ協定に代わる政策として打ち出すのは、エネルギードミナンスの推進である。これはあらゆるエネルギーを豊富、安価、安定に供給して経済力を高め、敵(中国やロシアなど)を圧倒するという考え方だ。

エネルギードミナンスは、前回のトランプ政権のときから、共和党の合言葉となっているが、近年の地政学的状況の深刻化を受けて、ますます重要になっている。

日本もここ12年で急増した米国からのLNG輸入をさらに拡大し、また原子力開発の強化をすることになる。

共和党政権は、これまで民主党政権が禁止してきた、開発途上国の化石燃料インフラへの投資も再開する。脱炭素を掲げるようになった国際開発銀行へは方針転換を迫る。日本もこれに合わせて高効率な火力発電技術の輸出を再開することになる。

パリ協定を離脱した後、米国主導で多国籍間のエネルギードミナンスを達成する枠組みができる。それは原子力の推進、天然ガス利用の推進、高効率な火力発電の推進などを含むことになる。CO2削減の行動はこの新たな枠組みの一部に取り込まれることになる。

以上の道筋が見えてきた時、日本もパリ協定を離脱し、米国の主導による、多国間でのエネルギードミナンスを構築する新たな枠組みに参加することになる。