前報では、欧州グリーンディール(EGD)を記述した主要な政策文書の分析を踏まえ、気候変動問題のみを主題とした政策ではなく、他の社会課題との相互作用まで含めて捉え、温室効果ガス排出の削減策に留まらない様々な取り組みを行うことが目指されていること、そして基本方針の中で「グリーン」という価値以外にも多様な社会的価値を掲げ、それらをオープンなプロセスの中で調整し、推進しようとしていることが、日本のGX基本方針と比べたときに浮かび上がる理念的水準の特徴であることを説明した。そして、その特徴と密接に関わるEGDのガバナンスのあり方の特徴として、幅広いステークホルダーによって「気候変動の何が問題であるか」「その問題に対してどのような社会を目指すべきか」といった議論が行われ、これがEU社会における議論の裾野を広げると同時に、政策形成プロセスにインプットされるチャンネルも複数存在していることについて述べた。
今回は、これまで発表してきたワーキングペーパーの分析を踏まえ、日本の脱炭素政策やエネルギー政策へのインプリケーションを考えてみることとしたい。これによって、次年度以降に取り組む課題や、研究の方向性を考えるための材料が得られると考えている。