本年8月に米国のキャンプ・デービッドで実施された日米韓首脳会談により、3カ国の安保協力は「さらなる高み」を目指して歩み始めた。並行して韓国では国連軍司令部を巡る動きが目立つようになっている。
2023年8月18日に米国で行われた日米韓3カ国の首脳会談の成果物として、「キャンプ・デービッド原則」と「キャンプ・デービッド精神」、そして「日本、米国及び韓国間の協議するとのコミットメント」という3つの文書が発表された。3カ国首脳会談を年1回定例化して、海洋安全保障や宇宙分野でも協力を進めていくことが明記され、3カ国の安全保障協力を新たな高みに引き上げるとの方針が示されたのである。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、外交安全保障政策の最優先課題として米韓・日韓そして日米韓の関係強化策が着実に実践されてきた。本年5月に行われた米韓首脳会談で発表されたワシントン宣言、3月と5月に東京とソウルでそれぞれ行われた日韓首脳会談での成果、そして今回のキャンプ・デービッド合意などによって、文在寅前政権時代に弱まった日米韓の結束が復元したのみならず、よりハイレベルな協力関係構築へ向けて動き出したのである。
こうした日米韓3カ国の動きに注目が集まる一方で、この間日本ではあまり注目されてこなかった動きは、尹政権が国連軍司令部、とりわけ日本に存在する国連軍後方基地の存在価値を高く評価してきたことである。今年8月15日の光復節記念式典での演説で、尹大統領は日本との安保協力の重要性に触れた部分で以下の点を強調した(1)。
・日本が国連軍司令部に提供する7カ所の後方基地の役割は、北韓(北朝鮮)の南侵を遮断する最大の抑止要因である。
・北韓が南侵を行う場合、国連軍の自動的かつ即時的な介入と報復が伴うことになっていて、日本の国連軍司令部後方基地にはそれに必要な陸海空戦力が十分に備蓄されている。
・国連軍司令部は「一つの旗の下」で大韓民国の自由を堅固に守るために核心的な役割を果たしてきた国際連帯の模範である。
国連軍司令部は、1950年に北朝鮮による南侵で始まった朝鮮戦争の際に、国連安保理決議に基づき、米軍に加えて英国、フランス、豪州、カナダなどの戦力提供国が集い東京に創設された。マッカーサー将軍が国連軍総司令官として指揮した。朝鮮戦争の休戦後1957年に司令部はソウルに移された。1978年に米韓連合司令部ができると、韓国軍に対する作戦統制権は在韓米軍司令官に継承され、実戦部隊の配置を伴わない休戦協定の執行を主導するための限定的な役割を担ってきた。
しかしながら2006年以降、国連軍司令部の機能を拡大させるための動きが始まり、2014年に本格的に司令部機能の再活性化(Revitalization)が行われていることが明らかになる。具体的には、米国と国連軍への戦力提供国である豪州やカナダを中心に司令部要員の増員が実施された。2018年に米軍以外で初となるカナダ陸軍のエア中将(現カナダ軍参謀総長)が国連軍副司令官に就任し、その後副司令官ポストは豪州海軍中将、そして現在の英国陸軍中将へと引き継がれている。
このような国連軍司令部機能の再活性化に反発したのは文在寅前政権と与党政治家であった。南北融和を優先して南北鉄道連結や対北人道物資支援を実現したかった文政権にとって、門番のように軍事境界線に立ち塞がる国連軍司令部は邪魔な存在でしかなかった。また同時に、国連軍司令部の関係国としてどのような形であれ日本が加わることを過度に警戒した。
しかし、昨年政権交代が実現すると、国連軍司令部を巡る韓国側の姿勢は大きく変化した。先述した光復節演説の他、尹大統領は7月27日の「国連軍参戦の日・停戦協定70周年記念式」、8月10日の「国連司令部主要職位者招請懇談会」においても、国連軍司令部の重要性について言及した。
また、日本に置かれる国連軍司令部後方基地の役割も重視されるようになっている。国連軍司令部は2022年12月29日に、この1年間に豪州、カナダ、フランス、ニュージーランド、タイ、英国から計1156人、航空機19機、艦艇6機が朝鮮半島安保関連目的で日本の国連軍後方基地を訪問したとSNS上で公表した。
さらに本年7月には、ハリソン国連軍副司令官が個人的な観点としつつも、「(日本の役割の拡大は)われわれが検討すべき事案」、「これと関連した改善は国連軍司令部が提供する抑止力を強化するのに役立つに違いない」と発言した(2)。国連軍司令部は、今年8月の米韓合同軍事演習(乙支フリーダム・シールド)に国連軍司令部所属の9カ国の軍人が参加したことを初めて公式に明らかにするなど、従来見られなかった立場表明や情報公開を行っている。
9月12日に韓国国防部は定例ブリーフィングにおいて、11月14日にソウル市内のホテルで、国連軍司令部に戦力を提供したメンバー国を中心に初めての韓国・国連軍司令部関係国国防長官会議を開くことを明らかにした。
この初の取り組みは、今年1月に行われた米韓国防長官会議の中で、韓国側から提案されていたものである(3)。尹政権発足から1年も経たないうちに、米国からあらゆる種類の拡大抑止力提供を取り付けてきた韓国にとって、米国に対する「お返し」の意味が込められていただろう。韓国の報道では、本会議を契機に国連軍司令部の役割と機能の強化が本格的に推進されるのではないかと予想されている。
翻って、7つの在日米軍基地を国連軍に提供しているわが国は、国連軍地位協定に基づく基地提供に関する国連軍司令部の動き以外は基本的に関与していない。しかしわが国としては、著しく悪化する安全保障環境下において、強力な抑止力と関係国の中での主導権を確保するために、国連軍司令部の枠組みに従来よりも踏み込んで関与すべきだろう。少なくともそれを検討せざるを得ない状況に置かれているのではないだろうか。
●注