メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.11.28

中国のエネルギー政策の二面性

LeMonde(2023年11月17日)に掲載
この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年11月17日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/economie/article/2023/11/17/la-double-face-de-la-politique-energetique-chinoise_6200752_3234.html

科学技術・イノベーション 中国

中国は、国内では再生可能エネルギーに巨額の投資をしているが、国外では化石エネルギー投資において世界トップである。セバスチャン・ルシュヴァリエ研究員は本コラムでこの二面性に注目する。

中国の再生可能エネルギー投資は世界第一位である一方、この国のエネルギー部門における国外投資は主に化石燃料に向けられている。2006年以降、あらゆる部門を通じて世界で最も多く炭素を排出する国(全体のうち26.8%)である中国は、エネルギー部門における世界最大の投資国となった。

2017年に中国はたしかに世界の再生可能エネルギー投資(特に太陽光と風力)の半分近くを一国だけで占めていたが、これらの投資の特徴は国内と国外で大きく異なっている。これは脱炭素に関するある種の二枚舌なのか? あるいは、より構造的で深い理由があるのだろうか?( (« Clean at home, polluting abroad : the role of the Chinese financial system’s differential treatment of state-owned and private enterprises », Mathias Lund Larsen et Lars Oehler, Climate Policy n 23/1, 2023

大きな構造的欠点

この二人のデンマークの研究者によると、発電に関わる中国の投資に占める再生可能エネルギーの割合は、国家レベルでは77%(大型・中型の水力発電能力を除く)である一方、たとえば「新シルクロード」[一帯一路]沿いといった国外では22%でしかない。本論文の二つ目の主たる成果は、エネルギー部門とその金融環境の間にある制度的補完関係を調査していることだ。

この二人の研究者が示したのは、再生可能エネルギーを専門とする中国企業が、より高い初期コストや様々に異なる収益サイクルといった再生可能エネルギーの発展を阻む一般的な障害のほかに、従来型エネルギー部門の企業に比べ、国外投資の資金調達に関して大きな構造的欠点に直面しているということである。

その根本的な理由は、従来型エネルギー企業の大部分が国によって保有されているのに対し、再生可能エネルギー企業は主に民間であるということだ。この構造的欠点は、中国の金融システムが国有企業のほうをより好むということに現れている。たしかに一部の公企業は再生可能エネルギー市場に進出しているが、その規模はまだ比較的小さい。

金融部門の改革なくしてエネルギー移行はない

いかなる教訓をここから引き出せるのか? この中国のケースにおいては、国家のより大きな介入(小さな介入ではない)により、再生可能エネルギーのためにバランスを立て直すための改革の可能性が、主要な金融アクターのレベルでいくつか存在する。それらの様々な政治的選択肢のなかで、特に二つが際立っている。

一つ目は、国外エネルギー投資の最大資金調達源のうちの二つの銀行、すなわち国家開発銀行と(輸出入に特化した)中国輸出入銀行の行動を変えることである。これらは国の銀行であるため、中国政府はこれらの銀行に対して完全な権限を持っている。中国政府は4つの巨大な商業銀行——中国工商銀行、中国銀行、中国建設銀行[そして中国農業銀行]——の決定にも同じ方向に影響を及ぼすことができる。というのも、国がこれらの銀行の主要株主だからだ。

中国のケースとその制度的特殊性を超えて、この研究は、金融部門の改革なくしてエネルギー移行はありえないこと、この目標を目指す金融システムの再検討なくしてカーボンニュートラルはありえないことを裏付けている。市場だけでは適切なシグナルを送れないであろう。国家レベルでも国際レベルでも公権力の役割が極めて重要なのである。