ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2023.11.21

ワーキング・ペーパー(23-018E)A Model of Supply Chain Finance

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論

企業間信用(商品売買における買掛や売掛、約束手形を通じた信用取引)の歴史は少なく
とも14世紀にまでさかのぼることができるが、リーマンショック後特に注目を集めている
のがサプライチェーン・ファイナンスである。これはリバース ファクタリングともよば
れ、仲介企業(通常大企業、例えばアマゾン、ウオールマートなど)がイニシアテイブを
とり 参加するサプライヤーを選抜し、企業間信用で生じる早急な流動性不足を補う
2019年の PwC surveyによると、欧米の企業のうち27%はリバース ファクタリングを採
用しており、BCR Publishing Ltdの推定によると、2021年の市場規模は1.8兆ドルで前年比
38%の成長率を達成している。特にコロナ危機後の回復にあって、中小企業に安定的な運
転資金を提供が急務とされている しかし、これまでのところ 経済学の視点からの研究
はほとんど行われていない。


本論文では、理論モデルを構築して、サプライチェーン・ファイナンス(SCF)が効率性
を生み出す経済学的メカニズムを考察する。まず、SCFへの参加企業を選抜するにあたり
、その主催者である仲介企業は、個々の企業の収益率による利潤面での貢献だけでなく、
健全財政面による流動性プールへの貢献を考慮する。そのため、収益率は低いけれでも資
金潤沢な企業を入れることで、資金不足に陥る可能性は高いが収益率の高い企業を取り込
む、つまり、流動性と利潤率の相互補助を維持することが最適となる。さらにこれが、流
動性ショックによって操業不可能に陥った企業の生産を可能にすることで、経済厚生を引
き上げることが示される。


本論文ではさらに進んで、外部金融市場へのアクセスを内生化することで、SCFの発生を
貨幣均衡上で分析する。まず、名目利子率がゼロであるようなフリードマン・ルールの下
では、流動性プールには経済価値がなくなるため、SCFへの選抜は利潤ベースのみで行わ
れる。名目利子率が正になり外部からの資金調達に費用が掛かるようになると、そのコス
トと SCF参加企業から流動性を得るコストを比較してSCFの運営がなされる 後者のコ
ストは流動性と利潤率の相互補助との比較考量で決定されるため、仲介企業が効率的で
SCF維持のコストが低ければ、外部調達によってではなくSCFプール拡大によって流動性
を確保するほうが理にかなっている。この場合、フリードマン ルールから乖離すること
でSCF参加企業を増やし経済厚生を引き上げることができるのである。

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