論文  エネルギー・環境  2023.11.16

欧州エネルギー政策研究プロジェクト(3) EUが捉える「欧州グリーンディールの社会的意義」および EUの政策形成プロセスへのインプットの多様性

エネルギー・環境 欧州

はじめに

 EUはこれまで、旗艦政策である欧州グリーンディールを始めとする取り組みを通じて、脱炭素政策を強力に推進し、世界をリードしてきた。しかもその姿勢は、ウクライナやパレスチナ・イスラエルにおいて戦争状態が繰り広げられ、国際的なエネルギー市場が混乱する中でも、変わらないどころか、少なくとも政策文書においては強化されているのである。なぜ欧州に深い関わりのある地政学的リスクが顕在化している中で、「グリーン」という価値が依然として重視されるのか。そもそもEUにとって、欧州グリーンディールはどのような意味を持つ政策なのだろうか。

 当然ながら、こうした問いは単一の学問や観点によって答えられるものではない。EUという政治的機構の特殊性、過去の統合的経済政策への挑戦とその成否、あるいは社会経済的状況や歴史の全く異なる加盟国間の政治的駆け引きなど、影響している要因は多岐におよぶ。

 しかし本プロジェクトでは、敢えて政治的、経済的な利害関係ではなく、政策を形作る上での議論や理念、あるいはEUという政治的コミュニティにおける「語り」に着目し、上述の問いを掘り下げ、日本への含意を検討しようとしている。それは、こうした「political discourse」あるいは「political debate」が欧米の政策形成プロセスで発揮する力の割に、日本においてその理解が十分に深められていないのではないか、という問題意識があるからだ。換言すれば、本稿が念頭に置く仮説は、EUの気候変動対策のともすれば理解しがたい側面は、彼らの「政策の主張」や「理念」、あるいは「気候変動という問題の見え方」に対する理解を深めることによって、新たな解釈が可能になるのではないか、ということである。そして、そのような新たな解釈によって、日本の脱炭素政策の戦略を考える上でも重要な含意を得られる可能性がある。

 こうした問題意識を踏まえ、本稿では、改めて欧州グリーンディールおよび関連する政策文書を読み直し、EUにとって気候変動対策はどのような社会的意義があるのか、また「グリーン」という価値の位置付けを考えてみたい。これにより、「温室効果ガス排出削減」や「グリーン成長」に留まらない、社会全体の抜本的な改革としての「グリーン・トランジション」の全貌に対する理解を深めるとともに、同じく全社会的課題である「2050年までの脱炭素」を目指す日本にとってのインプリケーションを考察する糧としたい。

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欧州エネルギー政策研究プロジェクト(3)