メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.10.31

「アメリカと中国の間の緊張により、いずれ東アジア経済全体に悪影響が及ぶ恐れがある」

LeMonde(2023年10月16日)に掲載

この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年10月16日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/economie/article/2023/10/16/l-ensemble-des-economies-d-asie-orientale-risquent-d-etre-affectees-a-terme-par-les-tensions-entre-washington-et-pekin_6194666_3234.html

科学技術・イノベーション

セバスチャン・ルシュヴァリエ研究員がこのコラムで報告するのは、中国との貿易を制限するためにアメリカが講じた措置による東アジア企業への影響に関する日本の研究についてだ。

アメリカと中国の間の地政学的緊張は、中国に対する経済依存を減らし、極めて重要な技術のこの国への拡散を防ぐためのアメリカの措置となって現れている。それらの措置は、この2国の経済パートナー国、特にアジアの取引相手国に対して重大な影響がないわけではない(« Supply Chain Decoupling: Geopolitical Debates and Economic Dynamism in East Asia », Mitsuyo Ando, Kazunobu Hayakawa, Fukunari Kimura, Asian Economic Policy Review, 2023年8月)。

それらの措置は、時の経過とともに強硬になっていった。たとえば、中国からの輸入品に対する追加関税、アメリカの中国への輸出品の制限、アメリカ製の部品を含んだ製品を販売する外国企業に対する規制などだ。

ファーウェイのような中国企業を直接のターゲットとするこれらの措置は、中国企業のバリューチェーンにおいて起こりうる混乱の影響からアメリカ企業を守ることよりも、中国の競争相手のバリューチェーンを妨害することが狙いである。しかし、エレクトロニクスのような部門でのバリューチェーンの統合レベルからして、その影響はこの狙いをはるかに超える。

実際、「世界の工場」は中国に限られない。なぜなら、日本・韓国・台湾の多国籍企業による国際分業戦略は東アジア全体に広がっているからだ。自社の投資戦略、そして生産に必要不可欠な部品の調達戦略のためにも提携するこれらの国の企業にとって、国家安全保障の考察によって導かれるアメリカの政策は大きな不確実性となっている。

だが経済学者たちは、こうした影響全体をマクロ経済レベルで正確に測るのに適した情報源を必ずしも持っていない。なかでも、政府広報と現実の間にはギャップがある。たとえば政府は、一部の企業が享受しているあらゆる例外を明らかにしない。

より高い透明性

こうしたことから、日本の3人の経済学者が自身の研究において、程度の差はあれ集計された数種類の二国間国際貿易データ(輸入品と輸出品)を比較対照した。今日、産業部門レベルの貿易データによってバリューチェーンにおける大きなデカップリング[経済分断]効果を特定することはできないが、アメリカによる特別の輸出規制の措置はより細分化されたレベルで国際貿易取引に影響を及ぼしている。それはたとえば、最先端の半導体のケースである。この技術でトップを走る日本・韓国・台湾の企業数社が直接の影響を受けている。

この研究のより広い論理的帰結は何であろうか? 第一に、全体に広がるデカップリングへの不安が誇張されているようだとしても、この研究は、地政学と経済の折り合いが悪いことを裏付けている。そしてこのことは、アメリカによる新たな規制がスーパーコンピュータや先進集積回路のような分野で実施されているだけになおさらである。

二つ目に、損害を被るのは中国とアメリカの経済だけでなく、いずれ東アジア経済全体に悪影響が及ぶ恐れがある。それゆえ東アジア経済は、より高い透明性を確保し、国際貿易ルールをさらに遵守することで、アメリカによる規制の影響を受けない自国経済の部分を保護しなければならない。このことは、たとえば軍事用とその他の技術とを区別するときには必ずしも容易ではない。

最後に、欧州諸国の経済はこうした例から教訓を引き出して、欧州共通の産業戦略を強化し、中国とアメリカの戦略的対立の影響から自国企業を保護すると約束しなければならない。