脱炭素のためとして風力発電が推進される一方で、CO2を多く出すということで石炭火力発電は批判にさらされることが多い。では、風力発電には問題はないのか。石炭火力発電には未来はないのか。現場を見ながら考えた。
秋田県能代市にある東北電力の能代火力発電所を見学した。60万キロワットの石炭火力発電所が3つで合計180万キロワットの設備容量がある。
石炭火力発電所はCO2排出量が多いということで、近年は何かと言われることが多い。だがこの地域の経済を支える重要な発電所だ。
さて能代火力発電所に近づくと周囲には多くの風車が見えた(写真1)
いま秋田県の海岸線一帯には風力発電所が立ち並んでいる。この能代市はとくにそれが集中している。
【写真1】能代火力発電所と周辺の風力発電所
写真1に見える風車は能代港にある秋田県の港湾区域に立地した洋上風力発電所である。景観はどんなものかと思って行ってみたが、もともと港湾地域であるため、すでにあれこれと建て込んでいたり、トラックやクレーンが動いていたりすることもあり、それほど景観を悪くしているという印象は受けなかった。
この能代火力発電所付近から見渡すと、北にも南にも風車が海岸沿いに並んでいる。南に向かって釜谷浜海水浴場に行くと、やはり風車が林立していた(写真2)。
【写真2】釜谷浜海水浴場に並ぶ巨大な風車。
下に置いてあるブレード(羽根)はメンテナンス中のもので、メンテナンス作業中のクレーンも見える
風車を見ながら海水浴というのはどのような気分かは想像できないが、普通の景観とは異なるのは確かだ。受け止め方は人それぞれであろう。
なおこの能代市付近については、立地地域の住民による反対運動などは特に起きていないようだった。
この理由の1つは、想像するに、冬は風が強く厳しい寒さになるため、海岸沿いにあまり住宅が密集していない、ということかもしれない。写真2でも背後に写っているのは防風林である。
能代火力発電所の3号機(60万キロワット)は「亜瀝青炭」という、品質がやや劣る石炭だけでも発電できるようになっている。熱量はキログラムあたり5800キロカロリー程度と石炭にしては少ない。また、水分が多いので、発熱しやすく、管理が悪いと自然発火することもあるから、取り扱いには気を遣うし手間がかかる。燃焼特性も独特だから、技術開発が必要だった。
しかし扱いにくい燃料である分、高品質な石炭よりも安価に買うことができる。
石炭火力発電所の燃料費は政府資料によると2030年でキロワットアワーあたり約4.3円程度と見通されているが、亜瀝青炭を使うことでこれよりも安くできるだろう。
こういったコストダウンの努力を見るにつけ、周囲にある風力発電所が気になってくる。
写真1にある能代港の洋上風力発電所は再生可能エネルギーの全量買い取り制度の対象になっており、キロワットアワーあたり36円で送電会社に売電されている。
このため風が吹いているときには、その分だけ能代火力発電所の出力を減らすことになるわけだが、それによるコスト削減はキロワットアワーあたり4.3円以下、ということになる。すると36−4.3=31.7円以上は、電気の消費者にとっては追加の負担となる。
もしも風力発電所があれば石炭火力発電所が要らないというなら話は別だが、そうはならない。風力は天気まかせなので、風が止まったときには石炭火力発電所が稼働しなければならないからだ。
この地域の洋上風力発電所の設備利用率は35%程度と試算されている。この意味は、1万キロワットの設備容量がある発電所の発電量は、年間平均して3500キロワット、ということである。すると、大雑把に言って、風力発電所があるといっても、年間の65%は電気の供給を火力発電所に頼ることになる。
【写真3】能代火力発電所。設備容量180万キロワット
(写真:掬茶, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
この状況では、風力発電所を建てれば建てるほど、一般の電気の消費者にとっては費用負担が増えることになる。
では今後、風力発電は安くなるのだろうか。
日本政府は、洋上風力発電所を大規模に開発する計画を立てている。
その手始めとして、2021年末に入札結果が発表された。「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」の洋上風力発電プロジェクトは13.26円/kWhで落札された。出力は478.8メガワット、つまり47.88万キロワットである。
入札したのは三菱商事などのコンソーシアムで、他社を圧倒する安い価格であったと報じられている。ただしこれでも、「4.3円以下」という石炭火力の燃料費とはまだ開きがあり、電気利用者への負担がかなり増えることには間違いがない。石炭火力発電は、やはり経済性に優れた発電方式なのだ。
次に福島県いわき市にある勿来IGCC発電所を見学した。三菱商事エナジーソリューションズなどが出資して建設したものだ。
IGCCというのは石炭ガス化複合発電の略称であり、石炭をいったん高温高圧でガス化し、それによってガスタービンと蒸気タービンの2つのタービンを回すというもの。通常の石炭火力発電に比べて15%ほど効率が高くなり、その分だけCO2も削減できる、という。過去40年以上にわたる技術開発がようやく商業規模の発電所に結実した。
弱点としては、通常の石炭火力発電所に比べて、設備費が高くなる、ということがある。通常の石炭火力発電にはない「石炭ガス化設備」「ガスタービン設備」などが必要になるからだ。
このため、15%の効率向上で燃料費が節約できるといっても、既存の火力発電所と互角のコストにするのは簡単ではない。今後は、いかに設備費を下げてゆくかといった工夫が必要になるだろう。
ただしIGCCには面白い特徴がある。
既存の石炭火力発電所とは使用する石炭が異なるのだ。IGCCでは石炭をガス化して使用する。その際、燃え残りの灰分が溶融しやすい石炭でも使える。
これに対して、いま主力の石炭火力発電所では、微粉炭方式といって、石炭はミルでパウダー状になるまで粉砕して、ノズルから噴射して発電するが、その際、低温で溶融する灰分は嫌われる。ボイラーの壁面に付着してしまい、効率が落ちるだけでなく、運転継続も困難になるからだ。
またIGCCには廃棄物の処理が簡単だという特徴もある。灰分は溶融してガラスペレット状になり、回収すると路盤材などに使用できる。これに対して微粉炭火力発電所では、発生した灰を捨てる場所を確保しなければならない。これは技術的には大きな問題はないが、廃棄する場所を探すのには苦労する。
IGCCはこのような特徴があるために、通常の火力発電所では使用されない、灰分の融点の低い石炭を安価で得られれば、廃棄物処分の容易さも手伝って、既存の石炭火力に経済性で伍していける可能性がある。
世界では石炭火力がまだまだ発電の主流である。海外においても、そのような石炭の産地の近くであれば、IGCCは魅力的かもしれない。
今後、火力発電所にCO2対策が求められるとすると、アンモニアやバイオマスとの混焼などが考えられる。その混焼をするための基礎となる技術は、安価に電力を供給できる火力発電であろう。その候補としても、IGCCの今後に期待したい。