メディア掲載  エネルギー・環境  2023.10.31

政治主導の「再エネ」を見直せ

産経新聞「正論」(2023年10月16日付)に掲載

エネルギー・環境

国の洋上風力発電制度を巡り、秋本真利衆院議員=自民党を離党=が受託収賄の罪で起訴された。100人を超える自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議連」(再エネ議連)の事務局長だった。「日本風力開発」の社長(当時)=贈賄罪で在宅起訴=から資金提供を受け、洋上風力発電の入札制度を同社に有利なものになるように国会質問したとされる。

国民に負担を押し付ける

この事件は氷山の一角にすぎず背景にある利権の構造こそ問題だ。平成24年の再エネ全量買い取り制度の発足以来、強い政治的影響のもと、再エネ事業者にとって都合のよい制度が作られてきた。しわ寄せを受けたのは国民だ。

いま再エネは景観、土砂災害、中国依存、ウイグルでの強制労働など数々の問題を抱えている。

経済的負担も深刻だ。大量導入の結果、令和4年度の再エネ賦課金は企業からの間接徴収と家庭負担を含め2.7兆円に上る。1人あたり2万円の計算だ。さらに政府はグリーントランスフォーメーション(GX)として10年間で31兆円の再エネ投資を実現するという。投資というと聞こえはよいが、原資は国民が負担する。

政府が切り札とするのが洋上風力だ。令和3年、秋田県能代市の石炭火力発電所の近くに建設される事業で入札があった。売電価格は1キロワット時あたり13円で落札された。風が吹いているときには、火力発電の出力を減らすことになるが、それによるコスト削減は燃料費である4円程度に過ぎない。13円との差である9円は、国民にとって追加の負担となる。

風力発電は天気任せなので、風が止まったときには石炭火力が稼働しなければならない。風力発電は本質的に二重投資である。これでは電気代はますます上がる。

今回の汚職事件を契機に、現行の「再エネ最優先」政策についてあらゆる問題点を根本から精査し、来年度策定される第7次エネルギー基本計画から外すべきだ。

政府はコストを隠すな

リベラルに傾いた欧米諸国の政権は2050年脱炭素という実現不可能な目標を掲げ、日本も追随した。だが問題点が明らかになるにつれ反発が起きている。

英国のスナク首相は9月、脱炭素政策の方針を転換すると歴史的な演説をし、「与野党問わず歴代の英国政府は脱炭素のコストについて国民に正直でなかった」と断罪した。今後はレトリックでごまかさず、正直に説明するとした。

そしてガソリン・ディーゼル自動車禁止やガスボイラー禁止の期限を延期する。住宅の断熱改修義務付けの計画も変更する。つまり期限が差し迫った規制をことごとく延期することになった。

ただし今のところ、まだコストの精査は十分ではない。洋上風力は推進すると述べている。2050年脱炭素の公約も堅持するという。スナク氏は「脱炭素を達成するためにこそ、国民の同意が必要であり、そのためには、コストに正直になり、強制を避けねばならない」としている。

一理あるが今後、コストに正直に向き合うならば、脱炭素目標を含め、さらに多くの政策が見直されることは必定だ。

日本政府も、脱炭素をすれば経済が「グリーン成長」するという、経済学の初歩を無視したレトリックを展開して、コストについて国民を欺いてきた。過ちを認め、コストを精査して国民に正直に語るべきだ。

エネルギー優勢を確立

さらに踏み込んで、米国共和党は脱炭素の撤回を求めている。

トランプ前大統領に次いで大統領候補として支持を集めるデサンティス・フロリダ州知事がエネルギー政策の公約を発表した。

民主党のバイデン大統領は「気候変動は核戦争より脅威だ」などと発言しているが、デサンティス氏は「恐怖を煽る、急進左派のイデオロギー」だとして批判する。そしてEV(電気自動車)義務化などあらゆる気候変動対策を撤回すべきだとする。気候変動に関するパリ協定からも脱退するという。

そして「常識的なエネルギー政策」を実施すべきだとし、米国は石油・天然ガスを増産して、安定・安価・豊富なエネルギー供給、すなわちエネルギー・ドミナンス(優勢)を確立することで、外交・安全保障上の優位を確保し、またガロン2ドルという手頃な値段でのガソリン供給によって国民をインフレから守るとしている。

トランプ氏を含め米共和党の重鎮たちの意見もほぼ同様だ。来年の大統領選で共和党が勝てば米国は大きく様変わりする。

国連のグテレス事務総長の「地球が沸騰」などというレトリックとは裏腹に、人為的気候変動による災害激甚化など起きていないことは気象統計を見れば明らかだ。世界の分断が深まり、地政学的緊張が高まる中にあって、自国の安全保障と経済を重視することは国益にかなう。

日本も安定、安価なエネルギー供給を実現すべきだ。これには化石燃料と原子力が主役になる。再エネ最優先ではおぼつかない。