太陽光発電を導入する理由として、「エネルギー自給ができるのでエネルギー安全保障になる」という意見をよく聞く。さらに、「災害時には太陽光発電があれば、停電になっても自立運転ができるので、防災対策にもなる」という。だが、どちらも本当のところは疑わしい。
まず、エネルギー自給という話であるが、太陽光パネルのほとんどが中国製なのだから、全然、自給にはなっていない。
それでも、太陽光が照っているときには発電燃料である天然ガスや石炭などを節約できるから、平時にはガスや石炭の輸入を減らすという効果はある。けれども、いざ大地震などで大停電が起きたときはどうなるか。
2018年に北海道で大地震(北海道胆振東部地震)が起きたとき、泊原子力発電所が停止していたことに加えて、苫東厚真火力発電所が地震の直撃を受けて、北海道全体が大停電(ブラックアウト)に陥った。そこから回復するときに役にたったのは、水力発電と火力発電である。
太陽・風力はどうしたかというと、震災後はいったん送電網から外したのだ。太陽・風力が送電を開始したのは、まず水力と火力で周波数や電圧が安定してから後のことである。太陽・風力は、出力が安定せず、送電網を攪乱(かくらん)してしまうので、いざというときには復旧の役に立つどころか、かえって邪魔になるのだ。
11年の東日本大震災のときも、太平洋側の火力・原子力発電所が津波によって軒並み被災したことで、東北地方は大規模な停電に見舞われた。このときに、停電からの復旧に活躍したのは日本海側の火力発電所だった。
まず、難を逃れた東新潟のガス火力発電所が発電を継続できたのは大きかった。秋田県の能代にある石炭火力発電所は、送電網が不安定になったためいったんは停止したがすぐに復旧し、安定した発電を開始して送電網の復旧に活躍した。このときも復旧の主役は火力発電所であり、その電気を日本海側から送電することで太平洋側も復旧していった。
このとき、家庭用の太陽光発電のおかげで、停電しても自立運転で風呂を沸かすことができた、といった話が報じられた。
だが、筆者が現地入りして調査したところ、いざというときのエネルギーとして圧倒的に重宝されたのはガソリン、灯油、木材、乾電池、キャンプ用品といったなじみのローテクだった。
太陽光もあれば便利には違いないが、送電網が復旧しないことには、結局のところ生活も労働もやっていけない。
本当に災害に強いエネルギー供給体制とは、火力による大規模な発電所と広域な送電網からなる「大規模分散」である。太陽や風力があちこちにある「小規模分散」ではない。