メディア掲載  エネルギー・環境  2023.10.20

脱炭素より経済だ!見え始めた英国のホンネ…日本も極端な政策を見直す時期か

現代ビジネス(9月21日)に掲載

エネルギー・環境

光熱費増での生活危機で

つい1年前まで、英国は「ネットゼロ」(日本で言う脱炭素のこと)に邁進していた。労働党のゴードン・ブラウン首相の下で採択された2008年の気候変動法により、英国は2050年までに二酸化炭素排出量を(1990年比で)80%削減することを法的に約束した。

テリーザ・メイ首相率いる保守党政権下の2019年、議会は同法を全会一致で改正し、目標を100%排出削減に変えた。次のボリス・ジョンソン首相もまた保守党であったが、気候変動キャンペーンに対する熱意は他の追随を許さないものであった。ネット・ゼロ政策は、政府、議会における全政党が支持していた。

ところがここにきて風向きが変わった。ついにエネルギーの現実に直面したからだ。英国も欧州同様、ウクライナの戦争でロシアからのエネルギー供給が途絶え、インフレがおき、光熱費増による生活危機が問題になっている。

2008年の気候変動法では「気候変動委員会(CCC)」が設置され、ネットゼロ目標達成のための提言を出すことになった。CCCは政府の温室効果ガス削減努力に対する責任を問うことにもなっている。5年間ごとにCO2排出量の上限を決める「炭素予算」が定められ、最新の炭素予算は2021年にボリス・ジョンソンによって法制化された。

委員会は、具体的な政策についても何百もの提言をしてきた。だがここにきて、リシ・スナク政権がそのうちで重要なものを否定するようになっている。

気候変動委員会の勧告を無視

7月、北海における何百もの新規石油・ガス採掘案件を進めるかどうかが問題となった。英国は領土内での採掘を禁止しているため、石油・ガスを外国(しかもそのほとんどが敵対的)に完全に依存することを避ける唯一のルートが北海での採掘だった。スナクは採掘のための土地の貸し出しを進めることを決定した。この秋以降、全部で100以上のライセンスが認可されることになる見通しだ。

そして今、英国ではすべての空港拡張が禁止されるのか、という問題が浮上している。今の技術では、飛行機は石油を使用しており、それがすぐに変わる見込みはない。空港が増え、大きくなるということは、フライトが増え、CO2排出量が増えることを意味する。CCCは、全ての空港拡張の中止を要求した。

しかし、スナクはCCCの勧告に従わないことを決めた。

政府は、すべての空港拡張を停止しなければならない、というCCCの正式な助言を拒否する予定である。

その理由は、空港の拡張を制限することは、英国の経済活動に「即時かつ重大な影響」を与えるからだ。

公然と示された疑義

先だって、スナクは「比例的かつ現実的(proportionate and pragmatic)」な方法でネットゼロに近づこうと発言している。これは「極端であり非現実的」な方法は採らない、という意味に取られている。

スナクは、今のところ、ネットゼロの看板を下ろしてはいない。石油採掘の決定については、影響を緩和するための「CCUS」(炭素回収・利用・貯蔵)の技術開発をするとしている。同様に、空港の決定では、バイオによる「代替航空燃料」の技術開発をするとしている。ただしこれがどの程度実現するかは不透明である。

いずれにせよ、英国政府は、当面は化石燃料を使い続けること、そして、経済成長を犠牲にするつもりはないことをはっきりさせた。

この動きに環境団体などは反発しており、今後どのようになるかは不透明である。ただし与党保守党内でも議論は割れ、公然とネットゼロ政策への疑義が提示されるようになっており、これまでのようにネットゼロを超党派で推進するという構図は明らかに崩れている。

日本も極端な脱炭素政策を「比例的かつ現実的」なものに見直すときなのではないか。第7次エネルギー基本計画の検討は来年春から本格化するとみられている。