洋上風力発電事業をめぐる汚職事件で、東京地裁は先週末(9月28日)、東京地検特捜部に受託収賄と詐欺の罪で起訴された衆院議員、秋本真利被告(48)=自民党を離党=について、保釈請求を却下する決定をした。特捜部は、自民党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(通称・再エネ議連)の事務局長だった秋本被告だけで、洋上風力発電の入札ルール変更ができたのか、強い疑問を持っているとされる。特捜部が認定した賄賂総額は計7200万円。秋本被告は起訴内容を否認しているが、もし国民の電気代に上乗せされる再エネ賦課金が還流して、政治家らの懐を潤していたとすれば許されない。「再エネの闇」について、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏が緊急連載する。
秋本議員が9月7日、受託収賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。洋上風力発電の入札制度をめぐって、風力発電会社「日本風力開発」の塚脇正幸社長(当時)から収賄し、その見返りに便宜を図ったという容疑である。
「再生可能エネルギーの切り札」として鳴り物入りで推進されてきた洋上風力発電の1回目の入札が2021年12月に行われた。このとき、圧倒的に安い価格を提示した三菱商事が3件すべてを落札した。
この「総取り」の事態を受けて、2回目の入札はすでに公示されていたにも関わらず、1年間延期された。また、入札方式が変更されて、単一の事業者が総取りできないようになったほか、価格以外に「事業開始までの迅速性」などの要件が強化された。
この制度変更は、日本風力開発など、三菱商事以外の事業者が落札できるようにするためだったとみられている。
一度公示された入札が延期されたと言うのも異常であるし、一度定められた入札制度がすぐに変更されるのも異常である。
この入札制度の変更にあたっては、秋本議員が塚脇社長から収賄し、その見返りとして国会で質問をするなどして、日本風力開発に有利な制度になるよう活動したのではないか、というのが容疑の概要である。
もちろん、まだ逮捕・起訴されただけなので、白黒がはっきりするには、これからの捜査や裁判を待たねばならない。
その一方で、秋本議員は自民党再エネ議連の事務局長を務めていたが、この議連には100人を超える議員が名を連ねている。この事件が秋本議員だけに留まるのか、他の国会議員にも波及して一大疑獄になるのか、今は分からない。
いずれにせよ、今回の事件の本質を見誤ってはいけない。これは、単なるモラルの問題にとどまるものではない。
1回目の入札では、入札制度の導入前ではほとんどの関係者が考えていなかったぐらい、三菱商事は圧倒的に安い価格を提示して落札した。それにも関わらず、この制度が変更されたことで、国民はもっと高価な風力発電を押し付けられることになった。
この構造には既視感がある。
11年の再エネ全量買取り制度の発足以来、強い政治的な影響力のもとで、事業者にとって極めて条件のよい制度が導入されるということが、再エネ政策では継続的に起きてきた。そのための負担は、すべて電気料金などのかたちで一般の国民に押し付けられた。
「政治主導」によって強引に推進されてきた再エネには、他にも問題が噴出している。本連載で述べてゆこう。今回の事件を契機として、来年度の第7次エネルギー基本計画においては抜本的見直しをすべきだ。
洋上風力発電汚職事件 「脱原発」を掲げ洋上風力発電を推進してきた衆院議員、秋本真利被告に対し、事業参入を目指す日本風力開発前社長の塚脇正幸被告が多額の資金(特捜部が認定した賄賂総額は計7200万円)を提供したとされる。
東京地検特捜部は8月4日、東京・永田町の議員会館事務所などを家宅捜索。秋本被告は外務政務官を辞任し、翌5日に自民党を離党した。国会で同社を後押しするかのような質問をしており、特捜部は2人が共同で設立した競走馬の組合が賄賂の受け皿になったとみて捜査してきた。