メディア掲載 グローバルエコノミー 2023.09.28
Le Monde on September 8, 2023
セバスチャン・ルシュヴァリエ:社会科学高等研究院(EHESS)教授、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)インターナショナルシニアフェロー
この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年9月8日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/economie/article/2023/09/08/la-concentration-de-l-economie-japonaise-dans-certaines-zones-accroit-sa-vulnerabilite-aux-catastrophes-naturelles_6188454_3234.html
日本の地震被害コストは、世界の地震回数に占めるこの国の割合より10倍大きい。こうした研究結果をセバスチャン・ルシュヴァリエが本コラムで報告する。
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例年のように、2023年の夏も自然大規模災害が際立つことになるだろう。その災害のうちの多くは気候変動と関連している。たしかにこれは新たな現象ではないが、再保険会社スイス・リーが収集したデータによると、被害額は1980年から今日にかけて3倍になり、2022年には世界全体で約2,750億ドル(2,550億ユーロ)に達した。この額はフィンランドのような国の年間国内総生産(GDP)に相当する。
その物理的・人的被害の影響は、もはや局地的なものにとどまらない。その影響は今や、世界レベルでのマクロ経済的な問題となっている。実際、そのリスクはグローバル経済においてますますシステミック[システム全体に波及するもの]になっている。各国中央銀行がこの問題に取り組んだのは、そこには物価変動に対する脅威だけでなく、金融の安定に対する脅威もあるからだ。
こうした背景で、フランス銀行[フランスの中央銀行]は6月27日にパリで「気候変動、自然災害、金融リスク:中央銀行はいかにして環境問題を自行の戦略に組み込めるだろうか?」(Climate change, natural disasters, and financial risk : How could central banks integrate environmental issues into their policies ?)というテーマのセミナーを開催し、フランスとドイツと日本の経済学者、中央銀行員、保険業者が集まった。
金融リスクだけでなく、生産性リスクも
この現象が世界的なものだとしても、すべての地域が同様に被害を受けるというわけではない。経済学者の澤田康幸氏が示したように、特にアジアに被害が集中している。アジア開発銀行によると、1960年代以降に世界で起こった自然災害の3分の1以上がこの大陸で発生した。今日では、フィリピン・インド・インドネシアが抱えるリスクの合計が世界で最も高い。
最初の課題は、こうした自然災害の影響をどのように測定するかだ。この観点では、経済学者たちの調査手法は必ずしも十分ではない。というのも、GDPの従来の測定では、破壊は再建につながる、経済成長を生み出す要素とみなされる傾向があるからだ。
リスクそのものが多様であり、そして経済の活力と結びついている。金融リスクだけでなく、生産性リスクも存在する。このことは、グローバルなバリューチェーンの中心であるアジアには不利に働く。なぜなら、局地的な気候災害によってある部門における生産全体が被害を受けた時の生産性リスクが、ますます大きくなっているからだ。
私たちの経済のレジリエンスを高める
それは2011年のタイでのケースで、その際、洪水のせいで日本の自動車メーカー数社の生産が世界的にストップした。この出来事によってこれらの企業は生産コストに加え、自然災害リスクを計算に組み込むことで、戦略を抜本的に見直すことになった。「経済的セキュリティ」は地政学的概念のみならず、気候的概念でもあるのだ。
この状況において、いかにして私たちの経済のレジリエンスを高めるか? 興味深いのは日本のケースだ。というのも、この国は地震を含むさまざまな自然災害に特に晒されているからだ。ドイツの経済学者フランツ・ヴァルデンベルガー氏が指摘するところでは、1990年から2017年にかけて世界で発生した地震による被害の40%が日本に集中しており、この数字は地震の合計回数に占めるこの国の割合より10倍大きい。
このことはたしかに日本におけるこの自然現象の強さを反映するが、経済の規模と、とりわけ一部の地域への経済の集中——それは自然災害に対する脆弱性を高めている——もまた反映する。たしかに日本は(特に製造業において)テクノロジーを発展させたことでよく知られ、そのおかげで被害を抑え、人的損失を減らすことができた。しかし、不可避のことに立ち向かうために最も重要なのは、一方では、国土の整備と計画であり、他方では、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の促進である。ソーシャルキャピタルは、人々の関係の強さとその多様性によって定義される。このことは、私たちの社会の自然災害への対処における主たる教訓である。