2022年にノーベル物理学賞を受賞したジョン・F・クラウザー博士が、「気候危機」を否定したことで話題になっている。
騒ぎの発端となったのは韓国で行われた短い講演だが、あまりビュー数は多くない。改めて見てみると、とても良い講演で、クラウザーの真意がよく分かる。
講演は、Quantum Korea 2023という、量子技術における学術的な大会におけるもので、氏は若い人向けにメッセージを発してほしい、との要望に応えたものだ。
講演では、厳密な実験を行うこと、それで確認されない限りは、ただの空想的な理論に過ぎない、ということが強調された。
氏がこれを言うことには重みがある。ノーベル賞受賞理由になった「量子もつれ」の研究は、これこそ「実験」の神髄、といったところだからだ。
遠く離れた場所にある2つの粒子でも、「量子もつれ」状態にあれば、一方の観測がもう一方の状態を瞬時に決めてしまう。量子力学というのは、日常的な常識で言えば信じがたいバカげたことばかりだが、この「遠隔での量子もつれ」というのは、その最たるものだ。アインシュタインがそんなことある訳ないだろうと言い続けたのは有名な話である。しかしクラウザーらはこの存在を実験で証明してしまった。いまではこの量子もつれは量子暗号などさまざまな応用技術を生んでいる。
その一方で、この講演でクラウザーは、気候危機説を否定し、気候危機に関連する科学が腐敗していると述べている。
この講演の後で行われたインタビューが、氏の考えを要約している。
気候変動に関して人々に広められている物語は、危険なまでに腐敗した科学の反映であり、世界経済と何十億もの人々の幸福を脅かしている。誤った気候科学は、大規模なショック・ジャーナリズムの似非科学へと転移している。そしてその誤った似非科学である気候変動は、あらゆる悪いことを引き起こしているとされた。本当は無関係であるにもかかわらず、スケープゴートとなったのだ。この似非科学は、同じ様に誤ったビジネス・マーケティング、政治家、ジャーナリスト、政府機関、環境保護論者によって宣伝され、拡大されてきた。
私の考えでは、本当の気候危機など存在しない。しかし、世界の膨大な人口に良い生活水準を提供するという非常に現実的な問題が存在し、それに関連するエネルギー危機は存在する。このエネルギー危機は、私に言わせれば、間違った気候科学のせいで不必要に悪化している。
クラウザーの眼から見れば、気候科学は似非科学(Pseudo-Science)なのだ。
筆者もこれに同意する。筆者は、もちろんクラウザーに比肩などできるはずもないが、大学時代は物理学に傾倒し、科学的な方法とは何かという基本についてはその時に叩き込まれて身についているつもりだ。
このコラムで縷々述べてきたように、いま「気候危機」を訴えている「科学」は、観測や統計を軽視し、シミュレーションを多用している。だがこれはあべこべだ。
地球環境ではクラウザーの重視する「実験」は難しいが、ならば「観測」や「統計」こそ重視すべきだ。しかしそこからは気候危機など全く検出されない。
気候危機説はシミュレーションにもっぱら頼っているが、実際のところそのシミュレーションは十分に観測を再現することすらできず、予言能力のあるものでは無い。
クラウザー以前にも1998年にノーベル物理学賞を受賞したラフリンなど、「気候危機」を訴える「科学」に批判的な物理学者はじつは多い。
その最大の理由は、「気候危機」の科学が、実験や観測こそが重要だという、科学の基本を逸脱し、特定の政治目的に奉仕し、人々を不幸にしていることだ。
これは物理学を愛する者であれば我慢がならない。