太陽光発電のCO2排出量は実はかなり多い、という論文が2023年7月4日付で無料公開された(論文、解説記事)。イタリアの研究者 エンリコ・マリウッティ(Enrico Mariutti)によるもので、タイトルは「太陽光発電産業の汚れた秘密(The Dirty Secret of the Solar Industry)」だ。
太陽光発電に関するライフサイクルCO2排出量評価(発電設備の建設、運転、廃棄に至るまでの全体におけるCO2排出量の評価)において、IEA(国際エネルギー機関)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)を含めて既存の文献は著しい過小評価になっている、としている。
過小評価になっている技術的な理由は、
といったことである。
全て合計すると、イタリアにおける太陽光発電のCO2排出原単位は、最悪の場合kW時あたり245g CO2に達するという(図1)
図1 マッティ論文より
図中、一番左は、一定の前提の下での太陽光パネル製造のための電力の発電に伴うCO2発生量であり、それにさまざまな補正を施すと、一番右にあるトータルのCO2排出量となる。その値は245となっている。
この1kW時当たり245gという推計はとても多い。今、国内でよく事業者によって参照されている数値は、日本の電気事業連合会が2016年の電力中央研究所報告に基づいて公表している値で、kWhあたり38gである(図2)。桁一つ違う。
図2 電気事業連合会より
もっとも大きな違いはパネル製造時のCO2排出量に関する想定によるものだ。近年になって世界における太陽光パネルの9割が中国で製造されるようになり、それが主に石炭火力発電によって賄われるようになったことが、この電気事業連合会の数値にはまだ反映されていない。
1kWhあたり245gもCO2を排出しているとなると、これはまったく無視できる量ではない。2022年に運転開始した上越火力発電所1号機のように、日本の最先端の液化天然ガス(LNG)火力発電であれば、CO2排出原単位は1kWh当たり320~360gと推計されている(図3)。
図3 環境省資料 https://www.env.go.jp/press/files/jp/114277.pdf
こうなると太陽光発電のことを「ゼロエミッション」と呼ぶことなど到底できない。せいぜい、火力発電によるCO2排出を半分にする、というぐらいである。
マウリッティは、この太陽光発電のCO2排出に関するライフサイクル分析という分野全体が、太陽光発電を推進するという特定の目的に奉仕するようになり、科学的な検証を拒絶してきた、と詳しく証拠を挙げて厳しく批判している。
中国製の太陽光パネルを使用すればライフサイクルでのCO2排出量は大幅に増大することは筆者も以前簡単な計算をしたことがある。
事業者はライフサイクルでのCO2排出を透明性の高い形で正確に評価する必要があるし、政府は補助金などの支援を実施するにあたっては、その実態をよく把握すべきだ。