メディア掲載  外交・安全保障  2023.09.06

米軍、AIやロボ開発を重視

電気新聞【グローバルアイ】2023年8月29日掲載

AI・ビッグデータ 安全保障

技術で戦争の性質変化/悲劇防ぐ努力問われる

日本は憲法第9条の冒頭で「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」するとうたっているが、現在の世界情勢はそれを裏切る形で推移している。

7月のオースティン米国防長官による南太平洋のポート・モレスビー訪問を内外メディアは米中欧間の関係を絡め詳細に伝えた。

これに関連して今秋退任予定のミリー米統合参謀本部議長の演説は感動的だ。彼の父が第4海兵師団の一員として太平洋のグエゼリン環礁とサイパン島で戦った後に負傷し、シアトルの病院で母が手当をした事を語った。そして聴衆に対し、「皆様のご家族も同様のつらい戦争経験をされたでしょう」と付け加えた。

筆者は演説を聴きつつ、自らの経験を思い浮かべていた。私事で恐縮だが祖父は外洋航路の船長で、就学年齢の息子4人全員を海軍兵学校(海兵)に入れるほど〝愛国的〟だった。長男は1942720日、〝零戦〟の飛行士として海兵同期の笹井醇一やエースの坂井三郎とともにポート・モレスビー作戦に参加したが未帰還となった。四男である父は敗戦時、いまだ海兵の生徒で、朝礼時に広島のキノコ雲を目撃している。彼は20年後の65年、訪米時にアナポリスの米海軍兵学校に招かれたが、その時、ワシントン郊外にある硫黄島での勝利記念碑に着いた時には車から降りる事を拒否したらしい。かくして戦争は複雑で傷ついた感情を人々の心に刻む。

今秋、米統合参謀本部議長に就任するブラウン将軍は7月に連邦議会で次のように証言した ―― 西太平洋での危機は、それが勃発してから軍備を整えては遅すぎる。周到な事前準備が必要である。かくして米中対立が一段と複雑かつ厳しくなる事を危惧している。従って我々は世界情勢を正確に見極め悲劇的な戦争を未然に防ぐための努力を怠ってはならない。戦争はかけがえのない命だけでなく、政治経済社会全てに大きな傷跡を残す危険性を銘記し、あらゆる防止策を真剣に考える時が到来したのだ。

ミリー将軍は前述の演説の中で、今後米軍の約3分の1は無人の飛行機・艦船・戦闘車両で構成されると考えられるため、AIとロボットの研究開発の重要性を強調した。

AIやロボットという先端技術は、人々を幸福にするためだけでなく、戦争の性質を大きく変え、人々に悲劇をもたらす技術でもある。ロボット先進国である日本がその技術力をどの方向に発揮するのか。まさにそれが今問われている。

しかも米中両国が優れた人材と膨大な予算で開発を行えば、ロボット先進国ニッポンの影が薄くなる事も十分考えられる。

太平洋戦争初期に活躍した名機〝零戦〟も次第に敵戦闘機にかなわぬようになったつらい経験を忘れてはならない。〝零戦〟そして後継機〝烈風〟の設計者、堀越二郎は後年次のように語った ―― 外国は〝零戦〟の後継機が次々と出てくると思っていたが何年経っても現れない事を不思議に思っていた。また彼は「誠実冷静な技術者、個々の機体の担当者には、打つべき手とその時期が分かっていてもどうしようもなかった」と述べ、その理由として当局の思想と指導力の問題を指摘した。

今、我々は彼の言葉を思い返す時を迎えている。